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CSRフラッシュ
5月8日は世界フェアトレードデー特集 (1)
援助よりも公正な貿易を!
第1回 企業はフェアトレードのよきパートナーになれるか
国際シンポジウム「フェアトレードの拡大と深化」から

○討論と質問に答えて


進行役:渡辺龍也(東京経済大学現代法学部教授/国際開発協力・NPO論)
イアン・ブレットマン:国際貿易の不公平さに焦点を当てる必要があります。 多くの企業は悪いことはしていない、CSRをやっているというのですが、貿易の仕組みは不公平で問題も多いことも事実。世界には1日1ドル以下で生活をしている人たちが大勢います。ピープル・ツリーはもう1つの方法でビジネスをやろうとしています。

公平・公正な社会にするには企業自身がビジネスのやり方を変えないといけません。貧しい国の人々は農産物が過剰に生産されたときは、買い叩かれています。私は最近ケニアに行ったが、農業をやっているのは60歳以上の高齢者だけです。若い人は農業をやりたがりません。私たちがコーヒーを飲み続けたいのであればフェアトレードを進めないといけなくなっています。

クラリベル・ダヴィッド:CSRは1つの基盤に過ぎません。海底のようなものです。南の生産者を支援する前に、自分の企業内でどのように啓発活動が行われているのかもっと確認しなければならないでしょう。

金田:私の企業では従業員への啓発活動として、内向きにはコンプライアンス(法令遵守)研修、そして最近ではCSR研修を行っています。外からの動きとしては国連のグローバル・コンパクトにどう対応するかという課題も加わりました。これにサインをすると国連のミレニアム開発目標からも目を背けられなくなります。自分の企業がどこに問題があるかということも見えてくるはずです。内と外の社内浸透が大切だと思います。

サフィア・ミニー:日本に来て20年経つが、企業も政治家も大きく変わりました。社会に透明性ということが強く求められるようになったのです。 多国籍企業が発展途上国の労働基準を無理やり低い水準に押さえ込むことはもうできません。ただ、ミレニアム開発目標については国のバックアップも見えないし、アクションプランもはっきりしません。先日、英国大使館で「フェアトレードを日本でどう広げるか」の討論がありました。Webにアップするのでぜひ見てください。


質問1:ファストファッション(大量生産により低価格で流行のファッションを売り出すこと。ファーストフードのようなファッションという意味)が伸びているが、フェアトレードの商品も伸びていますか?
サフィア・ミニー:経済は停滞しているが英国のフェアトレード商品は伸びています。ただ、オーガニックは苦戦しています。ピープル・ツリーの通販は昨年20%伸びました。百貨店などでは50%伸びたところもあります。価格競争の側面はあるが、安いものを買って1回着て捨てるというのはもったいないと思います。そんな考えは英国にもあります。せっかくなら意味のあるものを買って長く着るという考えです。フェアトレードを浸透させるには「人の意識を高めるしかない」と思います。


質問2:金田さんの話を興味深く聞いたのですが、輸入・販売の拡大に、「安全・安心」が大切だというのは分かるのですが、「BOPビジネス」はむしろ「組立て・加工業」にこそふさわしい話題ではないでしょうか。それからフェアトレードは消費者の中から生まれたものだけに、企業がフェアトレードを進める場合、新しい基準をつくっていくべきではないでしょうか。
金田:JICA(国際協力機構)の研究会では、BOPビジネスに2つの捉え方をしています。低所得者層に企業が商品を販売することで貧困を改善するという役割。もう1つは、生産者としての低所得者層にサプライヤーとして入ってもらうことで貧困から脱してもらうという考え方。BOPで低所得者層を消費者とだけ見ないことも大切です。

米国では、200〜300社の企業のCSRメンバーがNGOや国際機関と勉強しながらCSRを推進する産業別のワーキンググループも生まれました。国連のグローバル・コンパクトでは、サプライチェーン・サスティナビリティという考え方で、参加企業のサプライチェーンでいかにPDCAを回していくかの検討も始まっています。


質問3:今日はH&Mのシャツを着てきてしまいました(爆笑)。アンフェアトレードのラベルというアイデアはいかがですか。
クラリベル・ダヴィッド:アンフェアラベルは見たことがありません。フィリピンでは、悪い慣例や慣行を改めさせるため10の企業を指弾したことがあります。大企業がどのように行動しているか国民は知る必要があるからです。おもちゃに毒性の強い塗装を施した玩具メーカーなどが槍玉にのぼりました。

イアン・ブレットマン:運動としてのメッセージを聞いてもらうことが大切です。貿易が不公平なのは確かだが、ネガティブな話ばかりでは活動に力が入りません。
ラベルの普及でフェアトレード製品の購入が広がり、ラベルのキャンペーンが成功すればビジネスの枠組みが広がり、企業も入ってくるでしょう。
ひどい製品であるということだけをいうのではなく、いまはあなたの製品を買わないが、態度を変えてくれれば買うよというアプローチが大切です。


質問4:発表を聞いて、手工芸品と食品の間に違いがあるように感じました。アジアなどでは手工芸品は女性がつくっています。コーヒーなどは男性の農民が中心です。
サフィア・ミニー:コーヒーやカカオと違って雑貨やファッションのライフサイクルは短いのが特徴です。特にファッションは、商品開発、生産管理、技術提供がダイナミックに動きます。お金もかかります。ただ、女性にはいろいろなことを上手にやれる能力があり、手工芸などは女性に向いています。

日本は品質管理が優れており、よいものをつくるために人々は努力を行っています。ピープル・ツリーの成功には日本のスタッフの貢献が欠かせませんでした。海外の生産地でも手工芸品などは母親の役割を果たしながらできる収入源にできるという利点があります。

クラリベル・ダヴィッド:フェアトレードは手工芸品から始まったが、残念なことにボリュームが小さいのです。だが潜在性はあると思います。女性が家にいながらでもできるからです。WFTOは手工芸品をラベルでもって支えていきます。


質問5:金田さんに質問です。企業によるフェトレード調達はよいが、3つめの組立て・加工業で「部品や原材料として使う」というケースは、モニタリングの機能を入れないと心配です。企業として外部のモニタリングを受け入れるところはほとんどありません。産業界でフェアトレードによる調達を取り入れてくれるのは素晴らしいが、モニタリングがないと形だけの仕組みになるのではないでしょうか。
もう1つ、武田薬品ではフェアトレード商品を導入していますか。参考のために聞かせてください。
金田:モニタリングの指摘はそのとおりです。
今後の課題といえます。 フェアトレード商品の推進は武田製薬の社内ではいまのところありません。前に務めていた大和証券では大学生とのサスティナビリティカレッジでの講義のあと、サステナブルなお取り寄せということでフェアトレードのコーヒーなどを使っていました。


質問6:企業への浸透というと、胡散臭いイメージをもってしまいがちです。ドメスティックバイオレンスで妻をなぐっている夫が、たまによその子の頭をなでているような印象なのだ。星野さんはコラボする企業をどのように選んでいますか。星野さんと一緒に仕事をすることで企業が変化したという手ごたえがあったら聞かせてください。
星野:こちらから選ぶというよりも、反応のあった企業でちゃんとしている企業とだけ取引しています。企業側のモニタリングだけでなく、こちらのモニタリングも大切。私たちの活動でどれだけの人が変わっているのか、可視化していきたいと思っています。
1人ひとりは完璧ではないと思うが、アクションを起したことでどう変わっていくかだと思います。


質問7:サフィアさんに。日本で活動しているとCSRの枠組みでしか捉えないという考えに違和感を持ちませんか。
サフィア・ミニー:フェアトレードをCSRの一部とだけ見るのはもったいないと思います。英国ではフェアトレードはCSRではなくて、商品の仕入れ・調達の仕組みを変えていく貿易のあり方です。私たちも生産者からの購入システムを変えるために、生産者に50%の前払いを納品の8カ月前に入れています。


質問8:就職活動をしているが、企業を訪問するとまず自社の利益を上げることが第一だといわれる。途上国にも日本にも利益をもたらすWIN-WINの関係が可能なのか悩んでしまう。CSR活動がなければ企業が利益を出せない仕組みというのはあるのでしょうか。
金田:グラミンもソーシャルビジネスは全体の一部。収益を上げるところではしっかり収益を出しています。お金儲けが悪いという考えは一面的。儲け方が大切なのです。あなたが人事の担当者だったら、いまのようなアプローチだと「逃げている」と見られるかもしれません。


※本シンポジウムは、2010年2月27日・28日の2日間、東京経済大学で開催されました。たいへん興味深いシンポジウムであったため、4回に分けてお伝えします。なお、スペースの都合もあり、参加者の発言は要旨にとどめました。不十分なところもあると思われますが、文責はあくまでも当編集部にあります。