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CSRフラッシュ
「CSRフォーラム2010 in 東京」から
“買い物”が世界を変える

~持続可能な社会の実現に向けた実践的な取り組みとは?


不祥事を起こした企業の商品ボイコットは消費者が企業に社会的責任ある行動を促すための示威行動の一つだ。しかし、ネガティブではなく、CSR(企業の社会的責任)活動にきちんと取り組む企業の商品をポジティブに応援する、バイコット(BUYCOTT)で世界を変えようとする動きがある。社会を変えるには、個々の企業とNGO/NPOや消費者がつながった実践的CSR活動が必要な時代と語る、CSRを応援するNPO・市民ネットワークおよびNPO法人 環境市民杦本育生代表の基調講演をご紹介する。



CSRを応援するNPO・
市民ネットワーク
NPO法人 環境市民
杦本育生代表

「環境市民」の取り組み:企業のCSR活動とNGO/NPOの連携とは?


NGO/NPOが企業のCSR活動をどのように協働するのか、まず私どもNPO法人「環境市民」における具体的事例をいくつかお話しします。下記の写真は私どもが企画・監修として関わった阪急電鉄の「エコトレイン未来のゆめ・まち号」(3編成合計24両)です。2008年12月から8カ月間運行され、期間中に述べ800万人の乗客が利用した車内には、通常広告の代わりに企業/NGO/自治体/環境省等による環境メッセージポスターを掲載しました。

また自動車や家電製品などを購入する際に店頭で直接消費者と接する販売員の方たちに、環境問題の知識を持って適切なアドバイスができるよう「環境マイスター」という研修・認定制度を設け、自治体や事業者団体との連携しながら普及を推進しています。さらに、企業の社員向け地球温暖化啓発DVDの制作や、企業や自治体のグリーン購入を推進する「京都グリーン購入ネットワーク」の事務局としても活動しています。

こうした企業との連携を模索し始めたのは日本で開催されたCOP3(第3回気候変動枠組条約締約国会議)で京都議定書が採択された1997年前後からでした。当時は地球温暖化という言葉自体の認知度が低く、地球温暖化そのものを多くの人々に伝える必要がありました。そのためにはこちらが用意した学習会に来てもらおうと言うのではなく、自分たちからアプローチしなければと考え、ジャスコ㈱(現イオン)と協働し、近畿地区15店舗で45日間にわたり「地球温暖化防止市民向けキャンペーン」を展開しました。
このように紹介した活動は企業とNGO/NPOが力を合わせることで初めて実現したと感じますし、様々なNGOでも、企業のCSR活動と様々な方法で結びついて活動できるのではないかと思っています。

しかし、こうした事例が全国的に広まっているわけではありません。企業のCSR活動とNGO/NPOの活動が、がごく普通に連携していける社会にしたいという思いから、2005年に立ち上げたのが「CSRを応援するNPO・市民ネットワーク」です。


「三方よし」の経済活動を実現するためのバイコット


「CSRを応援するNPO・市民ネットワーク」は環境・人権・福祉・多様性など、専門分野そして地域を超えたNGO/NPOが連携することで、より広範囲なテーマでCSRを応援することをめざしています。主要な取り組みの一つが、本日のテーマ「買い物が世界を変える」の実現です。

具体的には、1989年から米国で出版された『Shopping for Better World』日本版とでも言うべき『より良い社会のための買い物の仕方』---消費者が買い物の際に“社会に貢献する企業、品物を選ぶ” ための情報ガイド---を2011年度目標に発刊したいと準備を進めています。


Shopping for a Better World (より良い世界のための買い物ガイド) 米国で1989年に創刊。CSRの推進に熱心な企業が伸びていく社会づくりのためにBUYCOTT(不買運動 BOYCOTTを踏まえた造語、積極的購買運動の意)を推進すべく、商品ごとに提供企業の環境対応や労働環境、地域貢献などの評価が示されている。(2001年から休刊したが、現在は 再刊準備中)


私どもの活動の最終目的は「持続的可能な豊かな社会を築く」ですが、社会に大きな影響を与える経済活動、その経済活動を担う企業が変わらなければ持続可能な社会の実現はありえません。だからこそ、私たちは企業のCSR活動を質・量ともに大きくしなければなりません。

しかし企業にとってはどうでしょうか。(人的・費用的負担をかけて)CSR活動---人権問題や環境問題など---を一生懸命頑張っていても、全く企業価値が変わらない状態が続けば、企業も“しんどく”なってしまうのが現実です。これまでNGO/NPOもこの点を何とか出来ないかと関心は持っていても具体的なアプローチはなかなかできなかったように思います。
CSR活動への応援とは、NGO/NPOから企業に「こんなことをしたら良いんじゃないか?こんなことなら出来ますよね」と提案すると同時に、「これはちょっとマズイですよ」と指摘する、この両方を含めて“応援”だと思います。
重要なポイントは、企業のCSR活動に対する評価を、消費者、投資家、学生などの方々に分かり易く伝えて行動に結びつけてもらう“仕組みを作る”ことです。消費者であれば日常生活の“買い物”、投資家は“どの企業に投資するか”、学生にとっては“就職先を選ぶ”際に、CSR活動を重要な一つの選択基準として欲しい。そして企業とNGO/NPOがより本質的なパートナーシップを結び、“選択する仕組み”を作ることで、より良い社会ができるのではないか、持続的可能な社会をつくるための大きな力になるのではないかと思っています。
社会の問題は全て人間自身から生じたことです。特に経済活動、購買活動が大きな影響を与えてきました。逆にいえば、人間の行動とその元になっている価値の尺度を変えることが問題解決に必要不可欠です。商品を選ぶための情報を“可視化”して “安いだけでなく、社会を良くするための買い物”を取り入れる個人が増えれば、確実に社会が変わっていくのではないでしょうか。

CSR活動や社会問題に真剣に取り組む企業A社の商品を選ぶバイコットは、CSR活動に熱心でなかったがゆえに選ばれなかったライバル企業B社の商品を買わないボイコットでもあります。反対に企業が真剣に社会問題に取り組みながら商品を作っても、高くて売れず業績が落ちていくならば、現実的に“そんな活動や商品づくりはやめよう”となってしまいます。

企業も頑張らなければならないし、消費者の意識も変わらなければならないと思います。 近江商人の有名な哲学「三方よし!」に「売り手よし!買い手よし!世間よし!」とありますが、消費者・企業・社会にとって良い結果が生じる経済活動をめざす、世間が良くても売り手がつぶれては仕方がないし、もちろん買い手にとって良い商品でなければいけないのも当然です。

バイコットという購買活動を推し進めることで、正直物が馬鹿を見るのではなく、本当に社会に良いことをしようとしている企業が生き残れる社会を創っていきたい、そのための仕組みを作っていきたいと思っています。

下図は環境問題でのバイコットの事例です。