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CSRフラッシュ
「CSRフォーラム2010 in 東京」から
“買い物”が世界を変える

CSR活動は、個々の企業にゆだねず市民ネットワークと連携する時代に

ご存知のとおりCSRという概念において、ジョン・エルキントン氏は持続可能な社会の実現に向けて基盤としてトリプルボトムライン「環境」「社会」「経済」を提唱し、CSR活動の目標設定と情報開示の重要性を指摘しました。現在多くの大企業はGRIガイドライン等の国際基準に基づいてCSR報告書などで情報開示を行っています。

欧米など先進国を中心に概念が構築されてきたCSRですが、近年、途上国サイドからCSRの国際基準を求める声が強まったことが、ISO(世界標準化機構)によるISO26000の発効へとつながりました。つい先日、ISO26000最終企画案が可決され、11月には国際基準として登場する予定だということです。なお、ISO26000で留意すべきは、CSR(Corporate Social Responsibility)ではなくSR(Social Responsibility)つまり、あらゆる団体の活動にSRが求められている点です。

ISO26000の中核主題をご覧いただくと感じると思いますが、大企業でも、単独でこうした広範囲テーマ全てに取り組むことは(人的能力としても)大変なことです。まして中小企業が広範囲に取り組むのは不可能に近いといわざるをえません。
それを解決するのが地域とNGO/NPOとの連携です。

今やCSRは、企業単独ではなく、地域全体で取り組むSRの時代ではないでしょうか。
NGO/NPO、地域自治体、消費者など、多様な担い手が協調しながらSRに取り組まなければ社会を変えることは難しい。そして、個人も買い物という日常の行動によって社会に影響を与えることができると思います。

ISO26000の「中核主題」
組織統治 労働慣行
-組織と組織統治
-組織とSR
-原則および考慮点
-意思決定と プロセス及び構造
-デューデリジェンス: 雇用及び雇用関係
-労働条件及び 社会的保護
-社会的対話
-労働における 安全衛生
-職場における 人材育成及び訓練

人権 環境
-デューデリジェンス
-人権に関する 危険な状況
- 共謀の回避 - 苦情の解決
- 差別及び社会的弱者
- 市民的及び政治的権利
- 経済的、社会的及び 文化的権利
- 労働における基本的権利

-汚染防止
- 持続可能な資源の使用
- 気候変動の調和と適応
- 自然環境の保護と回復
公正な事業慣行 消費者課題
-汚職防止
-責任ある政治的関与
-公正な競争
-影響範囲における 社会的責任の推進
-財産権の尊重
-公正なマーケティング、情報、契約
-消費者の健康と安全の保護
-持続可能な消費
-消費者サービス、支援、紛争解決
- 消費者データ保護、プライバシー
- 必要不可欠なサービスへのアクセス
- 教育と認識

コミュニティの 社会的・経済的発展  
-コミュニティ参画
-教育と文化
-雇用創出及び技術開発
-最新技術の導入
-富および所得の創出
-衛生
-社会的投資
 


CSRの現状を企業と消費者の双方から考えてみると、企業はCSR活動に対する評価基準に必ずしも満足していません。現在いくつかのCSRランキングなどがありますが、消費者からの視点が入らない経済メディアによる評価には企業側の不満もあるようです。一方で、消費者からの単なるCS人気ランキングであっても意味がありません。そして何よりも、現実にこうしたCSRランキング上位に入っている企業の商品を消費者が積極的に購入しようという活動に結び付いているかという問題もあります。

一方で消費者の行動は“安ければ良い”と“納得できる良いものを”に二分化しています。たぶん多くの消費者は2つの消費行動が混在しているのが普通だと思います。
消費者の購買活動においてCSRを基準に商品を買うという“納得購入”の割合を少しでも増やす、そのための判断基準を提供することが今とても重要ではないかと思っています。

有名な話ですが、現在当たり前となっている“ノンフロン”冷蔵庫は、環境団体グリーンピースの強い働きかけによって松下電器が2001年に日本で初めて発売しました。“ノンフロン”に加えて省エネ率NO.1の性能だったため、他社製品より高価でしたが、消費者の環境意識の高まるなか “納得購入”でヒットし、松下電器だけでなく日本で製造されている全ての冷蔵庫は “ノンフロン”に切り替わりました。これは環境団体の働きかけと消費者の“納得購入”が社会に変化を及ぼした一例だと思います。
また、トヨタ自動車のプリウスのヒットが世界市場に “環境対応車”への流れを作りました。これも “環境対応車の登場”だけでなく消費者に“ヒットした”ことがメーカーを動かしたと思います。その背景として地球温暖化問題が消費者に浸透していたため、商品が持つ“環境特性”が理解されやすく、納得購入しやすかったことが、具体的な動きにつながったといえます。

消費行動を変えることが大きな力になることを環境問題を例に挙げましょう。下のグラフAは国内の部門別二酸化炭素排出量の割合を示すものです。民生(家庭)部門が13.8%と聞くと「いくら個人が頑張ってCO2を1割減らしても、日本全体で1%しか減らない」と思われるかもしれません。しかし、もう一つのグラフBを見てください。家計消費が占める割合は48%となってます。この数字の違いは統計の取り方によるものです。実は最初のグラフAの運輸部門18.1%の半分はマイカーによる排出です。それ以外の家庭で使われるあらゆる製品、サービスの資源・材料採取から製造、運搬、販売、使用、廃棄時の二酸化炭素排出量を最終需要者である家庭につけたのがグラフBです。つまりAは製品の使うときが中心なのに対して、Bは商品の選択、購入という行動が入ったものになっているわけです。買い物から行動を変えていくことによりCO2排出は大きく減らすことが可能になります。。われわれの買う、買わないの行動が社会に大きく影響するのだと認識していただきたいと思います。


このように社会問題を消費者に伝えることが非常に重要ですし、情報が消費者に伝われば、日本の消費者が具体的な行動=バイコットを起こす可能性は高いと思っています。

現在、私どもは日本版『より良い社会のための買い物の仕方』の発刊に向けて準備を進めておりますが、その一環として企業に対して予備調査として市民目線のCSR調査を行うべく「NPOが提案するCSR活動基準(案)」を作りました。2008-2009年には自動車及び家電メーカー、流通小売、飲食販売企業を対象に調査をし、同時にヒアリング---調査内容が企業の皆さんにも納得できるものか---させていただきました。「NPOが提案するCSR活動基準(案)」については一般に公開しています。ぜひ、ご覧いただいて、企業の皆さんから“もっとこういうことを消費者に知って欲しい”、NGO/NPOの方々からは“こういうことを企業に聞いて欲しい”というご意見を頂ければと思います。

 

2010年9月15日 「CSRフォーラム2010 in 東京」より