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緑地管理の業務委託を通じた障がい者の就労支援プロジェクト
サッポロビールの根底にある自然へのこだわり、本業との親和性が プロジェクトの成功に不可欠だったと思います。
サッポロビール株式会社
CSR部 社会環境室 課長代理 堀内 陽子


Q:障がい者に社内の緑地管理を業務委託するCSRプロジェクトが2009年で3年目を迎えたとのことですが、きっかけは社内のベンチャー制度と伺っています。
堀内 2006年の社内ベンチャー制度に応募したのですが、実はその前に、私はサッポロビールでは12年ほどアグリ事業部に在籍しており、個人的に園芸療法というものに興味がありました。そこで2004年に会社のフロンティア休職制度を利用して米国メリーランド州のNPOに1年半ほどインターンとして従事しました。そのNPOは 知的障がい者や発達障がい者の方の職業訓練・就労支援をしている団体で、その一つに園芸にかかわる活動があります。具体的には温室での植物栽培、近所の緑 地の芝刈りや掃除などを企業から委託業務として請け負い、障がい者がきちんとお金をもらって仕事をします。その活動を通じて、企業の側からも何かアプロー チできるんじゃないかと思ったのがプロジェクトを立ち上げようと思った直接のきっかけです。
 フロンティア休職を終えて早速社内に提案してみたのですが、すぐには実現できませんでした。さらに1年ほどたって社内ベンチャー制度に申し込んだのです が、もともとベンチャー事業は投資に対するリターンをきちんと計らなければなりません。私が提案したプロジェクトは、どうもお金を儲けるような話ではなさ そうだ、社会貢献・CSRのプロジェクトとしてやってみてはどうかと社内で決まったのが2007年初めでした。
注1. 園芸療法:植物や植物に関する活動を利用して、対象者の社会的、認知的、身体的、精神的、そして一般的な健康と心身の状態を改善するために試みる、専門的な治療や活動
注2. サッポロビールでは勤続2年以上の社員は3ヶ月以上3年未満のフロンティア休職制度を利用できる。

Q:ゼロからのプロジェクトだけに、社内での調整作業が続いたようですね?
堀内 やはり最初は緑地管理をする現場がないと始まりません。CSR部だけでなく、プロジェクトとして経営戦略部、人事総務部も交えて打ち合わせをしながら、まずは東京本社から近い千葉工場の緑地を活動の基点としてスタートできないかと考えました。
 実際に千葉工場に相談してからプロジェクトを理解いただく、その最初の部分がおそらく一番ハードルが高いといいますか、困難な部分だったかもしれませんね。 作業中の安全性を充分に確保できるかという懸念もあり、また基本的に製造現場は非常に忙しいということがあります。従来は専門会社に委託する緑地管理に社 員がかかわる必要はほとんどありませんでした。現状に問題がないのにという素朴なご意見に対して、いろんな方々がCSRプロジェクトとしての意義について話し合いをしていただきました。その結果、工場の敷地内の一部に一般の方にも開放している緑地(ビオトープ園)があったのですが、そこからやってみようということで始まったのが2007年連休明けぐらいでした。
 具体的には、1人の団体スタッフに5名の障がい者を一つのチームとして、週1回の緑地管理をお願いしています。千葉工場では3年間で述べ12名ぐらいに従事いただいています。

Q:緑地管理をお願いする障がい者の方も、新たに探したのですか?
堀内 日本では全社員の1.8%という法定雇用率を一つのモチベーションとして障がい者雇用を促進する企業が多いと思いますが、このプロジェクトは“働く機会の創出”が目的ですので、雇用するかどうかにはこだわっていません。米国NPOでの経験から、地域の社会福祉法人やNPOをパートナーとして契約しようと最初から考えていました。
 今回のプロジェクトでは働く方を知的障がい者に限定してお願いしたのですが、1年目から多くの団体に手を挙げていただき、結果的にこちらが選ばせていただく 状況でした。背景として、障がい者の仕事は部品を組み合わせるなど製造業にかかわる仕事が多かったと思うのですが、不況で仕事が減り、また行政の福祉予算 が減る方向にある状況下で、大げさに言えば福祉法人の皆さんも危機感のようなものがあり、ちょうどタイミング的に私どもの思いと一緒にやれたということか と思います。
 現在は千葉工場だけでなく恵比寿ガーデンプレイスにある本社前のサッポロ広場、2009年4月からは仙台工場での活動をスタートしており、全体で3つの社会福祉団体と契約しています。

Q:緑地管理には、ある程度の専門技術が必要では?
堀内 最初の1年目は私が実際の作業を手伝いながら教えました。といっても、私もアグリ事業部で園芸の仕事には携わってきたものの、本格的なランドスケープ (庭園など自然空間の管理)の経験はありません。そこで千葉県の緑地会社に飛び込みでお願いしたところ、おもしろいから協力しようということで、週に2 回、一緒に作業させていただいたんです。そちらの緑地会社は偶然にも恵比寿ガーデンプレイスの緑地管理も行っている会社だったのですが、プロジェクトをス タートした1年目にはご好意で芝刈り機も貸していただき、使い方も教えていただいたりと、本当にその方々のお力が大きかったですね。