« CSRマガジントップへ
Home > 国内企業最前線 > 積水ハウス株式会社 楠正吉 CSR室長/シェアリングアース協会 藤本和典代表
企業とNGOが手を携えて社会を動かす力に
積水ハウスの「5本の樹」計画
積水ハウス株式会社 コーポレート・コミュニケーション部 楠正吉 CSR室長
シェアリングアース協会 藤本和典代表


緑を増やす=自然環境に良いと私たちは誤解しがちです。 外来樹を植えることが実は生態系を崩すことは案外知られていません。 積水ハウスの「5本の樹」計画は「3本は鳥のために、2本は蝶のために」をキーワードに、日本の在来樹種を選定してお客様の家の庭づくりを行い、プロジェクトとして成果を挙げています。 生態系を守る仕組みを本業に取り入れた意義、企業とNGOの協働によるメリットについて、積水ハウス株式会社 コーポレート・コミュニケーション部 楠正吉 CSR室長とシェアリングアース協会 藤本和典代表にお話を伺いました。


2001年からスタートした「5本の樹」計画


シェアリングアース協会
代表 藤本和典氏

(財)日本野鳥の会10年間勤務を経て、 17年前に“自然好きを1人でも多く”を目的にシェアリングアース協会を設立
http://www.sharing-earth.com/

Q:藤本代表はこの計画の立ち上げ当初からかかわってこられたそうですね?
藤本 最初に積水ハウスの方から連絡いただいたのが2000年でした。“生物多様性”を意識した庭づくりがテーマということで、まず私が皆さんをお連れしたのが都内に戦前からある一軒の古い家です。お年を召したおばあちゃまが大切にする庭には日本古来の大きな山桜があり、渡り鳥や蝶など生き物がたくさんやってくる。庭に降り立った瞬間に冷たい森の空気が漂ってくる素晴らしいお宅です。積水ハウスの皆さんも非常に感動されて、こうした庭を目指そうとすぐに互いのイメージが固まりました。 私自身も子どもの頃から数えると50年近く庭づくりに携わり、最近の“キレイな外国の花を植えたい”といった人間中心の庭づくりではなくて“生き物中心”の庭づくりこそが次世代のために大切だという問題意識もありました。

Q:今でこそ住宅メーカーによる温暖化対策が注目されていますが、2000年当時、生物多様性の問題に本業で取り組むことは、非常に先駆的だと感じます。
 当社は1999年に「環境未来計画」を発表した時点で、既に重要テーマとして、温暖化対策などエネルギー問題、資源の循環、シックハウス問題など有害化学物質の排除、4つ目に生物多様性の問題を掲げていました。山や森林を切り宅地にしたり、材料となる樹木を大量に購入する住宅メーカーにとって絶滅樹種を伐採していないか、サプライチェーンのチェックも含めて、ビジネスで生態系を意識することは当然のことでした。
当社は創業以来、本業を通じて社会に貢献することが経営理念でもあり、会長の和田も“環境をビジネスの中で実践しない会社は生き残れない”と以前より強調しておりましたが、今まさにそういった時代になったと思います。



「5本の樹」計画の意義とは?

Q:なぜ外来種ではなく、在来樹種を庭に植えることが生物多様性に重要なのですか?
藤本 いわゆる日本庭園を除くと、明治時代から日本の有名庭園には欧米を参考にたくさんの外国の樹が使われています。個人で家を建てる方も庭は専門家に“お任せ”が多く、結果的に造園家の好み「この樹や花がキレイだから」という理由で外来種の庭木が選ばれがちです。私たち人間は無知で、ただ緑があれば良いと思いがちですが、そうではありません。樹や植物はそれだけでは生きていけない、鳥や蝶も同じです。それが“生物多様性”という意味ですよね。
昔からの在来樹種は、その地に棲息する生物や渡り鳥たちにちょうど良い季節に食べやすい大きさの実をつけてくれる。しかし外来の木は実をつける季節がずれる、日本にいる鳥の嘴には実が大きすぎる、または(鳥の眼に見えやすい赤い実ではなく)白い実しかつけないなど、結果的に鳥や生き物たちの暮らしにも大きな影響を与えます。多様な生態系を守るために、本来その地域に育ち---しかも鳥たちが食べる実をつけるような---在来樹種を庭木とすることは非常に重要なことです。

樹や植物と生き物が創りだす
自然の仕組みを守る


鳥が樹の実を食べ、糞を媒介して土から樹の芽が出る。ところが外来種は、その地の鳥たちが好む実がならないなど、結果的に自然の生態系を崩してしまう。庭づくりの際、日本の在来樹種(特に鳥が食べる実をつける樹や、蝶や昆虫が食べる植物)を組み入れることが「5本の樹」計画の基本コンセプトだ。

「5本の樹」計画でつくられた庭(左)
「5本の樹」計画についてはコチラ↓
http://www.sekisuihouse.com/exterior/bio/index.html

Q:積水ハウスが独自に制作した「庭木セレクトブック」は地域ごとに自生する樹木と鳥や蝶など生物の双方をまとめた日本で唯一の図鑑と伺っています。
藤本 日本全国を5地域に分けて、さらに都道府県別に自生する在来樹種と、そこにやってくる鳥や蝶などの生物が--この樹は北海道には良いが関東ではお勧めできないなど---誰にでもすぐ分かる図鑑です。私のノウハウを集大成した本にまとめていただきとても感謝しています。実際の「5本の樹」計画では、この本だけでなく現場の方がお客様と庭木を相談して分からない時には、その都度ご質問いただいてお答えするようにしています。
これまでの「5本の樹」計画の提案では“鳥や自然が好きなので”と言ったお客様から、とても喜んでいただいています。


わが家の「5本の樹」が一目で分かる


自分たちの住む地域が、どのような樹や植物に適した“自生域・植栽域”かが一覧できる。日本の原種で鳥や蝶が利用する庭木を「5本の樹」として、関係の深い鳥や昆虫も紹介。さらに景観樹も網羅した、日本で唯一の庭木セレクトブック。

Q:プロジェクト開始から10年近く経つ現在も、藤本代表ご自身による積水ハウスさん社員への勉強会を継続しています。

取材当日も、午前と午後に計3回、関東圏の社員約200名と取引先等に向けた勉強会が開催された。東京支社があるオフィスビルの庭は都心の赤坂とは思えないほど自然に恵まれている。会議室での講義に加え、庭での自然観察会にも時間がかけられた。

 当社グループのビジネスで造園にかかわる人は、積水ハウスの社員はもちろん、造園専門の子会社であるグリーンテクノ、全国各地の工事店、職人さんなど、かなりの数です。工場で生産する製品には一定の規格がありますが、庭づくりは地域によって在来樹種も異なり、お客様の好みや家のつくりも違うことから、一件ずつ全て異なります。だからこそ、社員や取引先への勉強会、啓蒙活動に力を入れています。今では社員が講師となった勉強会も頻繁に行っていますが、定期的に藤本先生から直接レクチャーいただく機会を設けることで、知識がある社員もまた新たな刺激をいただいています。

藤本 社員の方から「5本の樹」計画を通じて自分たちの仕事が直接的に社会に役立つという意識を持てると伺ったり、福岡では500名規模の会場で社外の方も交えてお話しましたが、「5本の樹」計画を聞いた大工の方から――現場の皆さんには自然が好きな方が多いのですが――積水ハウスさんの取り組みに共感を持ったとの声を聞き、こうしたことも人間同士のつながりが大好きな僕にとっては、とても嬉しく感じました。

 「5本の樹」計画で提唱している在来樹種を植えるということは積水ハウスだけの専売特許ではありませんし、緑化を進めるためにもコンセプトを知った多くの方にどんどん活用していただきたいと思っています。単に樹を植えることはどなたでもできることですから。一方で、地域にふさわしい樹木を選択する、設計するノウハウ、メンテナンスなど積水ハウスならではのビジネスを差別化するのは人材の差です。だからこそスタッフの育成に力を入れているわけですね。