« CSRマガジントップへ
Home > 国内企業最前線 > ユニ・チャーム
特集:11月11日は介護の日
あなたの排泄や失禁の悩みをケアします
高齢者の“生活の質”向上に取り組むユニ・チャーム
ユニ・チャーム株式会社
排泄ケア研究所所長 社会福祉士・介護福祉士 船津良夫さん


4人に1人が65歳以上という超高齢社会が迫っている。“いつまでも健やかに若々しく”はだれもが描く理想だが、700万人といわれる80歳以上の高齢者で、不安を抱える人は多い。なかでもこれまで表に出なかったのが排尿・排便などの排泄障害。 ユニ・チャームが1996年に立ち上げた「排泄ケア研究所」では、高齢者が抱える排泄の悩みをやわらげるため、ユニークな活動を続けている。排泄ケアに取り組んできた船津良夫所長に介護の最前線について語っていただいた。


Q:ユニ・チャームは、大人用の排泄ケア用品に力を注いでいます。取り組みのきっかけとはどのようなものだったのでしょうか?
船津 ユニ・チャームは女性用生理用ナプキンなどのフェミニンケア、ベビー用紙オムツなどのベビーケアといった日用雑貨が主体でした。この2つはいわば健康な人が対象ですが、大人用の紙オムツは排尿・排便などの排泄障害をもった高齢者が対象です。私たちが高齢者のヘルスケアの分野に取り組もうと考えた1990年代は、介護施設や病院はもちろん、在宅で介護されている家庭の実態などもほとんど把握できていませんでした。一部の泌尿器科医が研究を始めていましたが、他の医学分野の研究に比べるとこの分野は手付かずに近い状態でした。


ユニ・チャーム株式会社 排泄ケア研究所所長
社会福祉士・介護福祉士 船津良夫さん



Q:排泄は人間が生きる上で最も大切な生理現象の1つです。その分野の研究が遅れていたというのは意外ですね。
船津 理由は、いくつかあります。1つは、生命に別条がない病気だと考えられていたこと。2つめは排泄障害だけに具体事例が表に出にくいということ。最近、わが国を代表する大手新聞が夕刊の一面で『排泄と尊厳』というシリーズを組みましたが、担当の女性記者さんは「おしっこやうんち」という言葉を新聞で取り上げること自体にジャーナリストとして抵抗があったとおっしゃっていました。それほど、排泄の問題は表に登場しにくいのです。わが国が世界有数の高齢化社会になり、もう避けては通れない課題になりつつあります。

Q:船津さんがある介護施設で見た高齢者の尿おもらしの話を冊子で読みました。あの体験が船津さんの排泄問題に取り組む原点でしょうか?
船津 あれは介護の現場を知りたくて、介護施設に通っていたころの体験です。高齢者の女性が、トイレにたどり着いたのに、便座の前で尿をもらしてしまい、介護スタッフにしかられて泣き出したのです。この女性が着けていた布のオムツは、ゴムのカバーで覆われていました。女性は不自由な足を引きずりながら、手すりにすがってゆっくりゆっくりトイレに向かいました。でも、トイレにたどり着いたのに、ゴムのカバーで覆われたオムツが外れず、ずれたオムツから尿が漏れてしまったのです。当時、排泄障害とオムツが利用者の心を傷つけている実態を私は数多く見ました。
当社の「リハビリパンツ」が普及する以前のオムツは、トイレで排泄できない人やトイレで排泄させてもらえない人のトイレの代替機能だったのです。高齢者にとっては、トイレに行くということは自立を表します。介護の手間を省くためにオムツをさせるということは、二重の意味で高齢者たちの人格を無視し、寝たきりなどにつながりかねません。

Q:船津さんは介護施設に泊り込み、自社製品を持ち込んで寝たきりの高齢者のおむつを替えながら尿や便の漏れ方を調べたそうですね。どんなことが分かりましたか。
船津 1つは昼と夜では尿量が全く違うということが分かりました。一般的に夜間は尿量が増えるといわれますが、これも加齢による身体的な衰え、さまざまな疾患や投薬の影響、内分泌などの影響によって大きな個人差がありました。考えられる対応としては、尿を吸収するパットを昼用と夜用に分けるほか、外側のアウターと内側のインナーの組み合わせを検討しました。内と外の組み合わせでさまざまな症状やお客様の要望にきめ細かく対応するという思想は、いまもユニ・チャームの大人用紙オムツの基本となっています。
また、高齢に伴って便秘が増えてきます。高齢者の便秘は運動量が少ないことに加えて、食べ物も少量で、消化機能も筋力も衰えていることが原因です。多くの介護施設では、下剤で対応していましたが、それによって下痢便が発生し、トイレに間に合わなかったり、オムツからの下痢便もれにつながっていました。それで、医師や理学療法士と一緒に「排便体操」を考案し便秘解消にも取り組みました。「寝たきりゼロを目指して」という思いのもと開発されたリハビリパンツのコンセプトは、「トイレに行ける人をしっかり応援する」ことにありましたが、リハビリパンツがあれば失敗を恐れず「トイレに行ける」「トイレに誘導できる」というふうに変わっていきました。

Q:この体験はその後のライフリーなどの新商品にも生かされたのでしょうか。
船津 ライフリーのコンセプトは、「オムツをうまく使って、排泄障害のある人にも人間的な生活ができるよう支援する」ことにありました。また、末期の人たちにも、ベッドの上でできるだけ快適な排泄支援ができるオムツなども検討しました。でも、私個人は「オムツの使われすぎ」にも疑問を持っています。 介護のテマが省けるということで、安易にオムツに頼ることは、高齢者たちを本来の暮らしから遠ざけることにもなりかねないからです。