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製造業の底力で日本を元気にしたい。
ピンチをチャンスに変える“シタゾコ”精神とは?
株式会社「下請の底力(シタゾコ)」


製造業を中心とする多くの中小企業を直撃した2008年秋のリーマンショック。その直前2009年8月、群馬県桐生市内の製造業を中心とする中小企業5社6名によって「株式会社下請の底力(シタゾコ)」が生まれた。設立後わずか半年で全国400名近くのサポーター(登録者)を惹き付けた“シタゾコ”の魅力とは何か?下請企業の復活と新たな可能性について、代表取締役の登内(とのうち)義也氏を中心に、“シタゾコ”メンバーの皆さんに話を伺った。

I桐生市のPR大使にも選ばれた
シタゾコメンバー6名

(前列左から)
小林栄仁さん、
(桐生市役所 石原さん)、
齋藤琢哉さん

(後列左から)
今坂志津夫さん、
梅澤隆司さん、
羽廣保志さん、
登内義也さん


開き直りで生まれた「下請の底力」!?

Q:まずは“シタゾコ”が設立された経緯を教えてください。登内さんは桐生市のご出身ではないとのことですが、他のメンバーの皆さんと出会ったきっかけは?
登内: 私はもともと東京でアイデア雑貨を企画・製造・販売する会社を運営し、ビジネスコーディネーターとして全国の中小企業向けに研修も行ってきました。たまたま2008年5月に群馬県の産業支援機構から依頼された「営業力磨き上げ研修」で出会い、意気投合したのが「両毛ものづくりネットワーク」のメンバーでした。

小林: 「両毛ものづくりネットワーク」は、ものづくり企業がネットワークして互いに得意な技術を活かし、ビジネスチャンスを広げようという思いで、群馬県と栃木県の中小企業15社が集まったグループです。

さらに登内さんと連携しながら、全く新しい分野でのビジネスチャンスを模索する様々な分科会を立ち上げ、そこに参加していたのが現在の“シタゾコ”メンバー、つまりは自動車産業に関連する2社:ラジコン用歯車の企画・製造会社の私と切削加工メーカーの羽廣さん、建設機械向けの歯車加工会社の梅澤さんと社員の斎藤さん、そして人材派遣会社向けのシステム開発企業の今坂さんたちです。


Q:リーマンショックが逆に“シタゾコ”を立ち上げる原動力となったとか?
登内: 分科会メンバーには当初から “脱下請け/全く新しい分野に技術を活かして世界に通用する企業へ”という思いがあったと思います。
一方で例えば2代目経営者であるメンバーのお父様方、経営の大先輩にしてみると、 “オイルショックも乗り越えてきたし、これからも本業でやっていけるのに、東京から来た人間が変に引っ掻き回すのでは?”という心配もあったと思います。

ところが2008年秋のリーマンショックで12月には為替がドーンと落ちて、在庫調整でいきなり売上が約半分以下、年明けからも元請企業から発注がなく、2009年3月時点でせいぜい1-2ヶ月の短期の注文しかありません。

「両毛ものづくりネットワーク」でも借入先金融機関から“貸しはがし”に近い状態に合う企業が出てくるようになりました。実は私自身も過去には事業をリストラした経験もあり、各社の顧問税理士たちから情報を集めました。また当事者の社長も金融庁とも交渉し、とりあえず食い止めることは出来ました。

そうした過程で、本当に私もメンバー同士も絆が生まれましたし、金融機関からのプレッシャーが落ち着いて、改めて前向きにビジネスを考える---本業である自動車や建設機械等とは全く関係ない新しいビジネスを開拓しよう、本気でやろうというムードにもなり、最終的には6名で2009年8月の会社設立に結びつきました。そう考えると“貸しはがし”が“シタゾコ”を生んだともいえるかもしれませんね。


身近にある「困った」を解決する“シタゾコ”の技術

Q:“シタゾコ”の事業にはユニークなネーミングが多いですが、その一つが“えんのうブラザース”、農家への支援事業です。
羽廣: 10年ほど前に近所の農家から農機具修理の依頼を引き受けたのが口コミで広まり、以前から20軒ぐらいの農家から修理の依頼を受けていましたが、“シタゾコ”を通じて、改めてビジネスとして農業支援をテーマにアプローチを始めました。

登内: 農家に話を伺い、酪農など大規模な農業器具には国内メーカーが少なく修理のため船便で海外に送ることも初めて知りました。一方、メンバーたちが扱う自動車や建設機械の部品は農機具よりも複雑ですから、修理はお手のものです。

さらに農産物のブランド化など、群馬県の農業支援を通じたビジネスチャンスはいろいろあります。農家はもちろん、種苗メーカー、JA、農業資材メーカー、農産物を産直販売する会社、最終消費者とかかわる市場やレストランまでヒアリングするなど、農業の流通全体を徹底的に勉強し、就農学校に通うメンバーも出てきました。

農家の“困った”から生まれたイノシシ忌避剤「イノダー」 http://sokozikara.com/inoda/index.html

農家の悩みを聞くなかで生まれたのが、農作物を食い荒らす害獣(イノシシ)を煙で退散させる線香型忌避剤「イノダー」。射殺する必要がなくなり、除虫成分が入っていないので環境にも優しいのが特徴。
開発者の羽廣さんは今年から里山鳥獣管理士の資格取得のため宇都宮大学に通い始める。「鳥獣の問題は里山の過疎化や生活環境との境界線がなくなったことも原因。もともとの夢が“自然や里山の復活”、製造業をしながらも“環境”と対立することが長年疑問でしたが、今は“シタゾコ”を通じて農業を守り、トータルな里山、町おこしをしていきたい。大学まで行くとはとメンバーは呆れますが、もう止まりません(笑)。」

Q:感動商品ファクトリーという事業カテゴリーで行う“5円玉プロジェクト”には、思いがけない反響が全国からあったそうですね。
登内: 5円玉の模様は「稲穂=農業、水平線=水産業、葉=林業、歯車=工業、 五円=商業」を象徴しています。“5円玉にどれだけの付加価値をつけられるか”テーマに、ピカピカに磨き上げた生まれ年の5円玉を提供する“5円玉プロジェクト”を始めました。

コレクターからの注文が多いかと思っていたら、実際にはご家族に難病の方がいらっしゃるとか、リストラで悩んでいる方など“お守り代わりに”数多くの方からご要望いただき、心からの感謝の手紙を頂くなど、結果的に皆さんに感謝していただける仕事になったことが本当に嬉しいです。

1枚ずつ職人が磨く生まれ年の5円玉
http://www.buyer-s.com/5coin/

町工場で歯車の製造をされている齋藤さんはいまや日本で唯一の5円玉磨き職人として、全国から殺到する注文に応えている。一枚一枚に思いを込めて磨かれた五円玉を通じて人々に「感動」「勇気」「元気」を伝えていく。