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TOPICS:CSR専門誌「コーポレート・シチズン」から気になる記事をご紹介します。
CSRレポートにおいて記述の重要性(マテリアリテイ)が議論される現状を伝えます。
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私にはドリーム(夢)リーム(多量の文書)がある



CEOやシニアマネジメントの多くはCSR(企業の社会的責任)報告書・サスティナビリテイレポートが望ましいものであることに異論はない…発行することは素晴らしい、と言ってしまえばこの話は終わりだ。いくつかの国際的な例外はあるが、CSR報告書には規制や当局の方針がほとんどなく標準化されていない。そのため、報告書のボリュームはわずか1ページから数百ページにいたるものまでまちまちである。こうした固有の問題が投資家、政府、広くコミュニティーにとって大きな問題となっていることを、企業の株主やステイクホルダー(利害関係者)はどのように考えたらよいだろうか。

CSR報告書は1990年代初期に環境・法順守報告書として生まれ、21世紀初期には光沢のある紙に印刷されたカラフルなCSR報告書へと変化した。いまや各企業は報告書をコンテストに出品し、総合的な観点、面白く読める、初めての報告書など、さまざまな賞を指標としている。国際的な非営利組織であるグローバル・レポーティング・イニシアチブ(GRI)--- 主要ベンチマーク・ツールの一つ---では、リーダーズ・チョイス賞(Readers’ Choice Award)を設けているほどだ。

しかし、メルボルンを本拠地とするCSRコンサルティング会社、ポジティブ・アウトカムズ(Positive Outcomes)のジェネラル・マネージャーであるジェリー・マーストン氏は、皮肉にもこうしたCSR報告の急増が本来の目的を損ない、信頼を喪失させることになると懸念している。マーストン氏いわく「企業に負担がかかりすぎる状態になりつつある。企業の4分の3がベースキャンプに到着したところだが、すでに5〜6年にわたって発行を続けている残りの企業は現在のスタイルでのCSR報告書に本当の価値があるのか深刻に自問自答しています」。マーストン氏はさらに続ける。「企業のパフォーマンスを知らしめる代表的かつ最も信頼できるものがCSR報告書であるとするなら、その目的はまったく達成されていない。」

マーストン氏によれば「企業の情報を知りたい人が退屈で死にたくなるようなレポートではなく、企業のCSRプログラムと業績をきちんと確かめることができるように」本当に必要な情報を伝える新しい方法が必要とされている。「同時に重要なことは、情報が信頼に足る、検証しうるものでなければなりません。」

CSR報告書が普及するにつれて『標準化と検証』の2つが今後の戦略的かつ持続可能なプランニングにおいて各社間で競うべきテーマであるのかもしれない。

オランダのGRIのテクニカル・ディレクターであるショーン・ギルバート氏も、今日のサスティナビリテイレポートにおける主要テーマの1つは情報の優先順位をつけること、情報を網羅しつついかに焦点の定まった報告書にするかだと認めている。「企業各社が自分たちに最も重要な3項目だけをバラバラの方法で記述したら、結局のところ誰も読まない報告書の束となる。そうした報告書は各企業個々の物語であり、個別に感情レベルで反応できるとしても、こだわるべき事実はまったく記載されていない」とギルバート氏は言う。

しかしながら、報告書の作成そして公開方法については専門家の間でも意見の相違がある。ギルバート氏は飾り立てないアプローチを支持しているが、マーストン氏はCSR報告には厳正(Scientific)かつクリエイテイブ双方のアプローチが必要だと考えている。「報告書の記述は検証できる厳正 (Science)なものである必要がある。しかし、同時にアート(芸術)も必要だ。単に結果を示すパイチャートやグラフよりも、ケーススタディーが物語るものは大きい。CRSを面白く知らしめるものが必要だ。」こうした葛藤はサスティナビリテイレポートが初期段階にある証拠であり、財務報告やモデリングの手法が標準化するまで数十年かかったように、アプローチが正規化されるのはまだまだ先の話だ。

レポートの構造上の問題に対処するため、多くの国で枠組みが作成され、GRIの原則が事実上の国際的ベンチマークとなりつつある。先駆的な取り組みとして2000年には自発的な原則が作成された。「おそらく当時は検証すべき報告書は100本もありませんでした」とギルバート氏は振り返る。GRIは2002年に発表した97の指標を、2007年には79指標に絞り込み、そのうち47指標を主要指標としている。

企業によっては指標が多すぎると感じるかもしれないが、ベストプラクティスの実現にははるかに及ばない、とギルバート氏は言う。「企業は重要項目(Material)を報告し、その他がなぜ重要項目に含まれないかを説明します。理論上、企業は7つの指標を利用し、40項目が重要ではないと説明することができる−40項目を無視してもその企業の報告レベルは高いものであるかもしれません」とギルバート氏は語る。

ギルバート氏はこうした指標を過度に厄介だと考える企業に異議を唱えている。「財務報告の国際基準はGRIのCSR報告の基準と比べものになりません。CSRの基準は企業の代表的なステークホルダーを対象としているに過ぎません。経済、社会、そして環境分野の課題をすべてカバーしようとすれば、約15指標分の予算が必要になります」とギルバート氏は語る。確かに会計・財務部門に使う資源や資本と比較すれば、ごくわずかな金額かもしれない。それでもなお、CSRという複雑で明確に定義されていない分野への投資を経営陣に説得するのに苦労するCSRマネージャーも多い。