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チューリッヒ、ワシントン、そしてロンドンを拠点とする戦略コンサルタント・シンクタンク、サステナビリティ(SustainAbility)社のシニアバイスプレジデントであるピーター・ゾリンガー氏は、レポートの基本原則はさらにブラッシュアップできると考えている。「まず最初に情報開示、説明責任、そして透明性です」とゾリンガー氏は言う。彼は報告書が複雑になっているのは企業側が政治的正当性(political correctness <訳注 差別や偏見のない正しい表現>)を理解していない結果だと考えている。「こうした企業はあらゆるNGO、ステークホルダー、あらゆるチェックリストに対応しようとした結果、分厚い報告書を生み出してしまっているのです。」

サステナビリティ社の業務の多くはステークホルダーと企業との会話の仲立ちをすることにある。「私たちはクライアント企業に、自分たちが最優先事項であるとの認識を持たないテーマに対応または約束すべきと慌てる必要はないと話しています。実際のところ、主要なステークホルダーが求めているのは自社の最重要課題が何かを皆さんが認識していることです」とゾリンガー氏は語る。そしてさらに付け加えた。「たとえば二酸化炭素の排出削減や人権に関して報告すべき事柄がないことを恐れるよりも、報告書が強く企業の価値を伝えることに焦点を当てるほうが、その企業を評価し投資する人々には利用しやすく役立つものとなります。」

ゾリンガー氏によれば、報告書は「いかに御社が業績を測定し、投資家に社員の力(Loyalty)を中心に自社の価値を創造する力が何かを伝えるか」 にかかっている。サスティナビリテイをテーマに多くの一流企業と仕事をするなかで、ゾリンガー氏はいまだに各社のレポートがどれだけ「洗練されておらず」自己中心的かに驚かされる。「(各ツールのメッセージに共通する)マスタープランが必要なのです。私はアニュアルレポートや企業責任報告書(corporate responsibility report)を手に取ると、その2つが同一企業のものであるか確かめたくなるのが現状です。」

こうしたサスティナビリテイレポートにおける混乱は、企業が持続可能性について異なるとらえかたをしているからでもある。「企業はよき企業市民たることがビジネスで『いつ』『どのように』効果的であったか説明するのをためらいがちです。そうした説明が道徳的ではないと考えるからです。しかし説明は必要なのです。企業は営利目的の団体です。ビジネスとは持続可能なやり方で成功すべきものなのです」とゾリンガー氏は語る。

それでも、もし企業が持続可能性を実現する方法、あるいは持続可能性というものの本質的な価値に賛成できないとすれば、現在の首尾一貫しないやりかを法律または GRIや国際標準化機構(ISO)の多様な基準を設けるといったスキームで整理できるのだろうか?

ある種の規定はサスティナビリテイ活動にマイナスの影響をもたらすかもしれない。一例として、ある大手不動産管理会社のCSRマネージャーは、ビジネスに直接的にかかわりがあるがゆえに、ある特定のCSR活動報告には積極的ではなかったと語る。彼女が言うには、サスティナビリテイに対する認識が組織全体に強く行き渡っていた---スタッフが社内文書を校正する際にもすぐ自社のサスティナビリテイ方針との矛盾に気づくことができるほど---であるにもかかわらず、社内ではCSR活動を実践する際にはビジネス上でも実行可能としてから対外的に公表する必要があった、と彼女は説明した。活動報告の義務化は同様に革新的な手法を阻害するかもしれない。

企業の多くがレポートを法的に規制することには問題があると主張する。マーストン氏は法規制の問題点が「情報が増えるというより最低限のものとなり、並列的になる。結果、最低レベルの情報公開と報告がなされたとしても、血の通ったものではなくなる」ことだと確信している。一方、ギルバート氏は議論そのものが役に立たないと考えている。「馬鹿げた厳格な規制か、完全な無秩序かという議論は、最善の方法への話し合いの大きな弊害となっている。」

しかしゾリンガー氏は、財務アナリストや投資家によって、企業がサスティナビリテイ(持続可能性)の測定や報告を推進すると考えている。サステナビリティ社は、長年にわたり、投資家やステークホルダーを顧客として、企業のサステナビリティにかかわってきた。しかし、しばしば起こることだが、数年たつと企業自身がサステナビリティの価値に気づき、同社と直接契約するようになる。

まもなく、社内外からの推進力によって、企業のサステナビリティに対する見方が大きく変わるかもしれない。「過去2年間で最も興味深い変化は、主要な投資家が企業のサステナビリティについて検討しはじめたことです」とゾリンガー氏は言う。「従来、企業のサステナビリティは専門会社が携わる分野でしたが、それらの専門会社はビジネスのファンダメンタルズには強くありませんでした。現在は、ゴールドマン・サックスやUBSも小規模ながら社内にサステナビリティチームを設け、こうしたチームが革新的な分析ツールの作成にあたっています。」

「突然、皆さんの手元にゴールドマン・サックスが作成した80ページにわたる製薬会社の持続可能性に関する報告書が届く。レポートには製薬会社がランク付けされ、『ゴールドマン・サックスは御社を調査し、御社の企業責任プログラムは説得力に欠けると判断いたしました』と伝える。各企業がどれだけ早く対応するかを見てみるべきです」とゾリンガー氏は語る。

引き続き企業の責任と持続可能性の価値について懐疑的な企業や経営陣も、皮肉だが、他社や株主によって変わるかもしれない。「財務アナリストは最終的に企業経営の質を分析したいと考えています。財務にかかわる側から(CSRに関する)質問が増えるにつれて、さらに多くの企業が(CSR活動に)対応するようになることでしょう」とゾリンガー氏は述べている。


(THE DIPLOMAT, May/June 2009; Editor, Dominic Rolfe; 日本語訳Trans Asia)