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TOPICS:海外CSR専門誌 The Diplomatより、最新記事をピックアップしてご紹介します。
“環境に優しい”をキーワードに活性化を図る観光業界にかんするレポート後半です。
エコフレンドリーな旅の近未来(下)
−−持続可能な観光産業のあり方を探る−−


サステナビリティは、観光産業が不況を克服する救世主になりうるかもしれない

社会の変化に合わせて旅行業界でも多様なアプローチが見られる。EC3グローバル・コンサルティング社(EC3 Global Consulting)のグローバル・マーケット部門アンドレ・ラス本部長は次のように語る。
「『カーボンライフ』を送り、カーボン・フットプリント(二酸化炭素の足跡=二酸化炭素排出量を指す)を減らしましょう。これを実現するには、業界で事業を展開する企業のサプライチェーン、そして地域社会との関係を含め、業務運営全般にわたってその企業が課題に取り組み、これを測定し、これを報告するという積極的な解決策を提供しなければなりません」
ラス氏によれば、「ちょっと出かけて木を植えましょうとか、旅先であなたが出すゴミを減らしましょうといったアプローチだけでなく、こうした原則を参加者が自宅に持ち帰るようスタッフを教育し、参加者を納得させ、活動がもたらす結果を測定する取り組みこそ重要なのです」。


利害関係者に「なぜ自主的に行動するのか?」を問いかける

 適切なチェックが実行されなければ、それは企業にとっても深刻な落とし穴となりうる。
 「最近あるホテルグループに対してプレゼンテーションをする機会がありました。そのときはEC3グローバル社の製品を紹介し、その価格をお知らせしました」とラス氏は振り返る。「プレゼンテーションを聞いて参加者が押し黙ってしまったものですから、私はこのホテルグループとの商談を失ったと思いました。ところがその後、このホテルグループはカーボン・フットプリントの調査だけで私たちが提示した価格の25倍もの金額を支払っていたことが判明したのです。しかもカーボン・フットプリントの調査は、私たちが提示したプログラムの一つに過ぎません。このことからも、サスティナブル・プラクティス(持続可能な慣行)を実行しようとする旅行業界が直面している難題がイメージできると思います」

 シャープ氏は、業界の対応がそれほど簡単ではないということについても認識している。「サスティナブルな環境に一歩を踏み出すときにホテルの大部分が懸念するのはこうした取り組みがホテルの最終売価にどのような影響をもたらすのかということです。大半の場合、宿泊客一人当たりがオフセットに要する金額は驚くほどわずかなのですが…」
 「あるとき、ホテル市場でも高級で知られる二軒のホテルグループにプレゼンテーションをしました。そのうちの一つのホテルはフットプリントの調査を実施し、フットプリントをオフセットしてこれを市場で売買することを希望しました。もう一軒のホテルの反応は、「二酸化炭素って、え? なんですって? それってコストですよね? なんでそんなことをしたいと私たちが望むのでしょうか? 自主的に行動する理由はなんでしょうか?」というものでした」

 フランク・ハバード氏は、客室数では世界最大のホテル会社であるインターコンチネンタル・ホテルズ・グループ(IHG)のオーストラリア、ニュージーランド、南太平洋地域担当の企業責任担当ディレクターである。ハバード氏は、フットプリントをオフセットする取り組みに明確な経済的メリットがあると確信している。「二酸化炭素の排出量が削減できればできるほど、ホテル全体の運営コストは下がり、より高い収益を得られることになるのです」と語る。
 サスティナブル・ツーリズムは、優れたデータ収集とその管理から始まる、とハバード氏は考えている。「IHGにとって、課題は環境にもたらす影響とその測定であり、重要な事柄でアクションを起こし、自分たちがどの程度実行できているかを知ることが大切です」と主張する。「基本的なテーマは、IHGが環境にどのような影響をもたらしているかであり、それをいかに測定するかを知っていることです――私たちは何年間にもわたってこのテーマに焦点を当てています。優れた評価尺度をもつことで私たちが暮らしを営む環境にもたらされる測定可能な影響、そして経済的なボトムラインを知ることができるというわけです」

 グループ内とそのクライアントの双方においてIHGのコミットメントは、幅広い教育的要素を含む。「私たちの取り組みの一部は、より効果的に効率を実現するかに関するコミュニティー、そしてより広範なホテル・セクターを対象とした教育です」「オフセットはよくできたシステムであり、重要な役割を保持しています。しかしながら、私たちのようなホテル運営会社や企業にとっては、このシステムは私たちの排出量削減に影響するとともに、第一に優先すべき事項でなければなりません。さもなければ、私たちはただ社会の端っこでプレーしている小さな存在に過ぎないことになります」とハバード氏はつけ加える。

 「オフセッティング(相殺)は、優先順位でみれば削減(reduce)、再利用(reuse)、再資源化(recycle)に次いで4番目に位置しています。企業運営においては相殺(offset)の優先順位を第一位にする必要はないと私は考えています」
IHGのグリーンエンゲージ・システム[ホテルのエネルギー、水、廃棄物の消費を追跡するオンラインのサステナビリティ・システム]を通じて、IHGの各ホテルがそれぞれのカーボン・フットプリントを把握し、だれかが『オフセットしてほしい』と希望してきたら、現実的で意味のあるカーボン・フットプリント・データを提供し、具体的で意義深いやり方でこうしたオフセットを提供することができる相手を紹介できるように、私たちは日夜コツコツ努力をしています」