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カンタス航空とヴァージンブルー航空の取り組み

 より知名度の高いサスティナブル・ツーリズムの取り組みの一つは、旅行とりわけ空の旅から排出される二酸化炭素をオフセットしようとする試みである。オーストラリアではヴァージンブルー航空とカンタス航空の2社が自主的な二酸化炭素オフセットを提供している。
 ヴァージンブルー航空では、埋立地ガス(廃棄物の処分場から発生するメタンガスなど)を集め、これをエネルギーに変換する企業であるLMSジェネレーション社(LMS Generation)との契約によって、排出ガスを廃棄物処理施設から生まれるクレジットとオフセットしている。一方、カンタス航空のオフセット・スキームは、省エネタイプの照明と節水タイプのシャワーヘッドを取り付けるときにカーボン・クレジットを生み出す企業であるフィールドフォース社(Fieldforce)に対して支払いがなされることになっている。両社のスキームは、オーストラリア政府気候変動省のグリーンハウス・フレンドリー・イニシアチブ(Greenhouse Friendly Initiative)によって認定されており、いずれの航空会社もコストの100%を削減プログラムに提供し、一切の税金が免税されている。

 しかし、「旅行するときにオフセットしている」の項目にチェックマークを入れたからといって、あなたが自動的に「サスティナブルな観光客」のバッジを手に入れられるとは限らない。オフセッティングは確かに称賛に値する。しかし、オフセッティングは決して高い透明性をもたらすものではなく、非効率なオフセットの取り組みをも後押し、旅行全体が環境にもたらす影響を反映していないという批判を受けているのも事実なのである。

 最近発表された『旅行・観光競争力レポート2009(Travel and Tourism Competitiveness Report 2009)』では、世界経済フォーラムは「[現在の自主的なオフセット・スキームへの]参加者不足は主に次の3つの要因によるとしている――(1)オフセットした資金の利用に関する見識の不足、(2)オフセットの選択肢の供給不足、(3)こうしたプログラムを提供する団体を対象とした広く認められたオフセット基準の不在。

 オーストラリアそして国際的なオフセット・スキームにある種の深刻な欠陥があることをシャープ氏は認めている。「航空会社は他の航空会社との横並び意識から大きく外れることを好みません。カンタス航空やヴァージンブルー航空のように自社のホームページでそれぞれの自主的な取り組みを明示し、利用者が対処しやすくする航空会社もありますが、多くの航空会社は透明性の欠如に頭を悩ませているのです。支払った金額がいったいどこに行くのか、それがどの程度明白であるのかだれも知りません。人は概して物語を求めます。自らの投資についてその終点まで正しく見ておきたいと考えるものです」とシャープ氏は語っている。

 シャープ氏がCEOを務めるクライメート・フレンドリー社は、旅行者に対してもオフセットの機会を提供している。「カンタス航空やヴァージンブルー航空が二酸化炭素のみを考慮しているのに対して、弊社では経済効果の高い飛行法を割り出すとき、二酸化炭素以外の排出ガスも考慮し、2.7という放射力係数を利用しています」。クライメート・フレンドリー社では、メタン燃焼や植林といった取り組みよりも、むしろクリーンな未来エネルギーへの移行をうながす再生可能なエネルギー・プロジェクトにのみ投資を行っている。

 シャープ氏によれば責任ある行動を唄った宣伝文句の数々についても、同社は厳密な調査を実施しているという。「航空会社について言えば、その多くは飛行によって発生する二酸化炭素などについてのみオフセットしているため、むしろその行動が裏目に出てさえいます。プログラムは熟考を重ねたものでなければならず、透明で、信頼できるものでなければならないのです」とシャープ氏は語る。

 航空業界がこうした難題に立ち向かうことができない現実には理由があるとシャープ氏は考えている。「観光産業はこのテーマに焦点を当てて取り組んでいますが、航空業界はそれほど積極的な関心をもっていません。航空会社側には利用客に旅行しないように忠告するような野暮なことはしたくないという、やや皮肉な見方があります…私たちとしては、競争本能をもった個々の航空会社と協力するよりも、だれもが利用できるシンプルな解決策を導き出すためIATA(国際航空運送協会)と作業を進めているところです。当たり前のものになってしまえば、それを利用するにあたって怖がるようなことはなくなるからです」

 『観光産業におけるサステナビリティの実践と賞・認定プログラム(Sustainability Practices and Awards and Accreditation Programs in the Tourism Industry)』というSTCRCのレポートでは、多数を占める小規模事業者の数と細分化した業界の役割を考慮したうえで、サスティナブル・ツーリズムの原則への一貫性のない支持およびその適用こそが今日の論争におけるもっとも大きな課題であると指摘されている。しかも関連業界で検討する以前にこのありさまである。STCRCでは次のように言及している。「観光客と直接接触する事業はさておき、観光業界のまわりには、農業、家具供給業者、弁護士、クリーニング業者、印刷会社など間接的に観光をサポートする幅広い事業が存在する」

 世界経済フォーラムは、『旅行・観光競争力レポート2009』において、「サスティナブル・ツーリズムは、旅行・観光業界が不況を克服する救世主になりうるかもしれない」と主張している。「その意味の定義をめぐって長らく論議が続いたサスティナブル・ツーリズムは、ここ数年間のうちに『成長の機会』と『売上原価の削減』と同義語となった。つまり財務の競争力を獲得する手段としても有効であるということである」
ダーウィンが生きていれば、これを『ツーリスト・エボリューション(観光客進化論)』と称したに違いない。

グリーングローブ・プログラムに参加するオーストラリアのホテル

タージ・ホテルズ・リゾーツ(Taj Hotels Resorts)
世界中のすべての不動産。もっとも有名なホテルはシドニーのウールムールー埠頭にあるブティックホテルであるブルーシドニー。

ジ・エンポリアム(The Emporium)
ブリスベンのフォーティチュード・ヴァレーにある独立系のラグジャリー・ブティックホテル。

インターコンチネンタル・ホテル・グループ(Intercontinental Hotel Group)
オーストラリア、ニュージーランド、および南太平洋のすべての不動産。グループはホリデイ・イン、インターコンチネンタル・ホテルズ、およびメルボルンのヤラバンクにあるクラウン・プラザを含む。

リッジス(Rydges)
オーストラリアのすべて不動産。ポートダグラスの不動産、およびクイーンズランドのミッションビーチにあるキャスタウェイズ・リゾート&スパを含む。

カールソン・アジア・パシフィック(Carlson Asia Pacific)
アジア太平洋地域のすべての不動産。もっとも有名なホテルはシドニーのダウンタウンにあるラディソン・プラザ・ホテル。

ランガム・ホテルズ・インターナショナル(Langham Hotels International)
世界中のすべての不動産。このホテルグループはかつてランガム・グランド・ホテルであったランガム・メルボルンを含む。



(THE DIPLOMAT, May/June 2009; Editor, Dominic Rolfe; 日本語訳Trans Asia)