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TOPICS:海外CSR専門誌 The Diplomatより、最新記事をピックアップしてご紹介します。
社会的問題を世界に訴求するために、映画の力が改めて見直されている現状をレポートします。
映画の力で行動する人々


映画というメディアを通じて政治や社会問題を訴える人々が増えている

 もし、ハリウッドスターのジョージ・クルーニーのホワイトハウス訪問と、アカデミー賞授賞式がバッティングしたら、クルーニーのスケジュール管理にあたるマネージャーは首をくくらなければならないかもしれない。ところが、タイムリーな売名行為であったかどうか別として、クルーニーは映画業界のパーティの夜に、オバマ大統領と会見したのだ。これは、政治や社会問題にハリウッドセレブの人気が利用されるいい例だろう。ハリウッドで、そのマネージャーは非難どころか人権問題へ貢献したとして称賛を浴びることになるだろう。
 映画監督たちは社会問題についてコメントするために永い間にわたってメディアを活用し、セレブ好きの人々を観客として取り込んできた。「ディア・ハンター」、「エリン・ブロコビッチ」、そして「裸足の1500マイル」などの映画作品には、物語を支える政治的、社会的問いかけがある。
 今日、セレブはもっとも強力な世界通貨の一つであると言っても過言ではないだろう。ジョージ・クルーニー、アンジェリーナ・ジョリー、スカーレット・ヨハンソン、そしてナタリー・ポートマンといった俳優たちは、ダルフール、難民、マリ、そしてマイクロ・ファイナンス(貧困層向けの小口無担保融資)に世間の注目を集めるために自らの名声を利用している。また、あちこちに姿を見せるマイケル・ムーアなどの他の映画関係者は、よりはっきりとパナビジョンの映画カメラの上で自らの考えを披露し、観客をあっと言わせている。しかしながら、最近ではエンターテイメント・アクティビズム(行動主義)に対するより洗練されたアプローチが大きくクローズアップされつつある。
 映画には、絵コンテ作成をはじめ、脚本やロケハン、編集といった作業があり、これを誰にさせるか、が重要な要素になってくる。制作会社や非政府組織(NGO)は、こうした企画段階で映画製作に関与してくるのだ。テーマや特定の問題への言及を求める映画祭では、脚本家たちが筆をとる前に彼らのスケジュールを押さえようとし、制作会社は自らの主義主張に合った素材を意図的に調達してくる。そして、スポンサーは寄付金用紙に記入することもなく目的を全うするのだ。


知名度の高いパーティシパント社:

第一は、観客を楽しませることであり、社会問題について考えさせるのはそのあとである。
 最近では「不都合な真実」がメッセージ性のある映画作品としておそらく最も有名だろう。アル・ゴア氏はナレーターであり、スポークスマンであり、ノーベル平和賞受賞者であるが、映画の影に存在する制作会社のパーティシパント・メディア社(Participant Media)こそがこの映画の成功の鍵を握っていたと言えよう。
ロスアンゼルスを本拠地とするパーティシパント・メディア社はこれまで、制作する映画に強烈な社会的メッセージを込めてきた。世界の石油業界の腐敗を描いた「シリアナ」、苦悶の都市カブールでの子供時代と贖罪について描かれたベストセラーを原作とする「凧を追いかけて」、そしてイラクのアブグレイブ刑務所で行われた虐待を暴露した写真を基にしたドキュメンタリー作品「スタンダード・オペレーティング・プロシージャー」などの作品を開拓し、公開している。
 「グッドナイト・アンド・グッドラック」、「チャーリー・ウィルソンズ・ウォー」、そして「ダルフール・ナウ」などの作品も手掛けたパーティシパント・メディア社は、問題意識や社会的行動の育成のためにエンターテイメントを利用するという理念のもと、ジェフ・スコール氏によって2004年に創設された。彼は、イーベイが驚異的な成功を成し遂げた影の立役者でもある。同社のホームページによれば、「パーティシパント社が第一に求めることは、観客を楽しませることであり、社会問題について考えさせるのはそのあとである」
 これは、妥協することなく効果的な成果を出すために、既存の業界の常套手段に少し手を加える、という一見簡単な方法である。パーティシパント社の映画第一作目は、11部門でアカデミー賞にノミネートされ、そのうち一部門でオスカーを受賞している。
 パーティシパント社はそれぞれの映画作品のキャンペーンを展開することで通常の映画制作会社の範疇を超えている。パーティシパント社のソーシャルアクション・アドボカシー担当役員のジョン・シュライバー氏によれば、「ある映画作品についてゴーサインが出れば、ソーシャルアクション部門と共に、そこで取り上げる問題を徹底的に調査し、その分野で最高のNGOやその問題に関与している財団法人に働きかけ、問題となっている課題を分析します。そして映画の資産を利用する私たちのスタジオ・パートナーと共に、他社とは異なる戦略を立てるのです。」
 スコール氏がパーティシパント社を創設した時、彼は映画の基本的な『資産』を認めていた。「ジェフ・スコールは映画を現代の文学になぞらえたのです。人々はかつてチェスターフィールドやディケンズを読んだように、今では映画を見に出かけています」とシュライバー氏は語っている。「私たちが制作する映画は、様々な過程を踏んで仕上げられていきます。――ストーリーに始まり、脚本を活かす優れたクリエイティブがなければなりませんし、そもそも映画のテーマそのものが、直接的かどうかは別として、実際の行動に起せるようなものでなければなりません。」
  映画の構想やテーマの選択は、パーティシパント社が次世代にとって重要だと考える話題の中から浮かび上がってくる。パーティシパント社では『とんでもないこと名簿』と呼ばれるドキュメンタリーに記載されている情報をいつもチェックしているのだ。
 「弊社のドキュメンタリー部門とナラティブ部門のスタッフはこうした素材に目を通し、何を作り出すかを考えています」とシュライバー氏は述べている。ただし、と彼は続ける。「問題が映画の機動力となることはあり得ません。というのは、映画はエンターテイメントとしてそれだけで独立して成り立つものでなければならないからです。ただ、映画作品と問題のマッチメーキングがうまくいく場合には、私たちは何とかその仲をとりもとうとします。」