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グラミン・シャクティではシステムの所有権そのものを重要なセールスポイントと位置づけている。「毎月の灯油代とほぼ同額を支払うことで、目に見える上に長持ちする資産の所有権を与えてくれるローンを返済することができるのですよ」とグラミン・シャクティの営業マンたちは見込みのある顧客に対して説明をするのだそうだ。

ソーラー・ホーム・システムを購入する農村部の人々は、高価な製品に投資していることをはっきりと認識しており、その見返りとして超一流の顧客サービスを期待している。

 グラミン・シャクティでは3年間にわたって無料でメンテナンス・サービスを提供し、太陽光発電パネル、バッテリー、そしてコントロールボックスのケア方法について新たなオーナーに毎週トレーニングセッションを開催している。

標準的なアドバイス――ソーラーパネルの上方に木が生い茂らないように注意する、バッテリーを使いきってはいけない等々――に加えて、暴風雨の予報が出されたときにはソーラーパネルをはずす必要があることをトレーナーたちは村民に口を酸っぱくして示唆している。

たしかにこの地域を定期的に襲う台風はバングラデシュのソーラープログラムのアキレス腱となる可能性がある――予期しない熱帯性低気圧は数千の高価な太陽光発電パネルを破壊してしまうかもしれない。農村家庭はこのような災害に対して保険でカバーされてはおらず、彼らは自ら堅実な投資であると 判断したものに対して損失を負うことになりかねない。

しかしながらこのようなリスクにもかかわらず、グラミン・シャクティの市場を基盤としたアプローチはすでに地方のいたるところにより広範な『グリーン・エコノミー』を生み出している。太陽光発電パネルはさておくとして、同社のソーラー・ホーム・システムのあらゆる電気部品はバングラデシュで製造されている。 

その仕組みはこうである――グラミン・シャクティではトレーニング・プログラムを準備し、ここで村民たちがインバーターの組み立て方、そしてコントローラーの充電方法を伝授される。それからトレーニングを受けた人々は同社が33ヶ所で運営する技術センターの1ヶ所から部品を受け取ることを許可され、それを自宅で組み立て、これをグラミン・シャクティに対して再度販売するのである。この『グリーン・ジョブ』・プログラムは、自宅で働きながら臨時収入を得ることができるとして農村部の女性たちにとりわけ人気が高い。

人里離れた地域の電化によって、いわゆる『ソーラー起業家』のグループも増加している。『ソーラー起業家』とは 自ら発電したソーラーパワーによって収入をあげている人々である。

地方の商店は、追加コストなしでの日没後2ないしは3時間にわたる店舗営業の恩恵を享受している。マヘンディゴンジュでは、美容師、薬剤師、仕立屋、そして喫茶店のオーナーは、ソーラーエネルギーが収入アップを後押ししてくれていると賛辞を惜しんでいなかった。

他のソーラー起業家には新たなビジネスを開拓する者もある――たとえば少額の手数料で携帯電話の充電サービスを提供する事業などである。泥まみれの道路あるいは川によって国の送電線網から何時間もかけ離れている村落では、携帯電話店は住民に重要なサービスを提供しており、彼らが外部の世界と接触を保つことができるように支援している。実際のところ、ソーラーエネルギーと携帯電話技術はまったく同じ根本的な理由で農村地域で爆発的な人気を得たのである――両者はともに新たなテクノロジーであり、より高価なインフラに対するニーズよりも優位に立つことになったのである。

グラミン・シャクティは、気候変動に立ち向かいながら、貧困との闘いにおけるその取り組みについて 10数件以上の国際的な賞を受けている。しかし、グラミン・シャクティはここでその歩みを停止する気はまったくない。バルア氏によれば、同社は2015年までにバングラデシュの人口の半分にソーラーシステムを届けることを目標にしている。このような意欲的な目標を達成することは、人口密度の高い都市部にもソーラーエネルギーを持ち込むことを意味しているのかもしれない。 

業界アナリストたちは、定期的に発生する電力不足は国の電力インフラにとって悩みの種であるため、ソーラーエネルギーは送電線で接続された顧客をも引き付ける可能性があると指摘している。しかしながら、「ソーラーエネルギーを真の意味で競争力のある存在にするには、個人のソーラーパワー発電者が余剰電力を国の送電線網に向かって戻すためにこれを販売することができるスキームを政府がお膳立てする必要もある」とアナリストたちは主張している。

政府がゴーサインを出し たとしても、人里離れた農村に対するソーラーエネルギーの導入に比べて、現実には都市部の市場はずっと厳しいものであることが判明するかもしれない。たしかにグラミン・シャクティの旗艦製品である50ワット・ソーラー・ホーム・システムは、電力消費量の高い冷蔵庫などの家電製品はまず存在していないバングラデシュの質素な農村家庭のニーズには100%適合したものであった。

しかし、都市部の顧客はより高い発電量を望む可能性が高い――するとソーラーシステムの価格は国民の多くが支払い可能な金額レベルよりも高くなってしまうかもしれない。

この問題はまた、発展途上国における再生可能エネルギーのより広範な限界を示唆している――現状では再生可能エネルギーは農村部の開発要件には合っているものの、社会全体がエネルギー集約的なライフスタイルを目指そうと決めた場合には、これはもっとも確実な長期的な解決策を提示するものではない。

明らかに、バングラデシュの家庭用太陽発電プログラムはソーラーエネルギーがどのように農村部の人々を貧困から向上させる手助けとなりうるかを示す好例となった。しかしながら、これが社会の開発にともなうジレンマのすべてを解決することはできないという現実もまた明示しているのである。