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インパックスのように環境問題に主導されるビジネスに特化したファンドは、アジアにおける投資可能性を一層重視し始めている。「現在私たちがアジアに目を向けている理由の一つは、アジア地域のプレーヤーの一部が有数の国際的プレーヤーとなりつつあるという現実に気づき始めたからなのです」とクレメンツ氏は語っている。彼はインパックスの新たなアジア専門ファンドであるインパックス・アジア環境トラスト(Impax Asia Environmental Trust)が同ファンドの募集上限である3億ドル近くを集めることができることを期待している。

アジアのビジネスの全般的な環境分野への傾倒は、ある種のファンドの創設を促している。こうしたファンドはその収益の20%以上を環境セクターから獲得している企業を投資対象とするものである。インパックスが狙いを定めている新たなタイプのグローバル・プレーヤーには、中国生まれの太陽電池会社であるサンテック(Suntech)、風力タービン向けのギアボックスを製造するチャイナ・ハイスピード・トランスミッション(China High Speed Transmission)、そしてシンガポールで起業された脱塩専門会社のファイフラックス(Hyflux)などが挙げられる。クレメンツ氏はこう語る。「インパックスのファンドへの組み入れ候補企業として、私たちはこれまでのところアジアの340社が構成する『ユニバース(宇宙)』を特定しています。これは私たちが現在投資している環境に対して色濃い傾倒を示している企業が構成する総合的な『グローバル・ユニバース』のおよそ5分の1にあたります。」

「アジアの企業は貸し渋りの打撃を受けていますが、アジアの与信枠が欧米のそれよりもずっと安定しているという事実の恩恵を受けてもいます」とクレメンツ氏は語っている。「そしてアジアには環境に優しい製品やサービスにとってますます力強い市場があります。」例えば5月に中国では、風力発電による発電量が現在のおよそ12ギガワットから2020年までに100ギガワットに増加することが期待されていると発表された。一方で韓国ではその380億ドルの緊急経済対策のうち80%を環境関連の政策とすることを目指している。また日本は2020年までに温暖化効果ガスの排出量を1990年のレベルから25%削減することを公約した。

「アジアにおけるCSRは消費者やキャンペーン組織といったその他の『利害関係者(ステークホルダー)』の気まぐれというよりは、おおむね政府および規制当局によるイニシアチブによって主導されています。しかしながら、政府や当局こそが真の意味で著しい影響を今後もたらすことになるでしょう」とウィリアムズ氏は述べている。マレーシアでは、一部国有企業である政府関連企業(government-linked companies: GLCs)を通じて、そしてマレーシア証券取引所に上場する企業に対してCSR報告を義務づける規制の導入を介して、政府はCSRの促進に貢献している。そしてシンガポールでは、とりわけ環境サステナビリティーの分野において、政府はCSRの進展を後押ししている。他方インドネシアには、CSRにコストを費やす企業を対象に2007年に制定された「第74条」として知られる賛否両論を呼んだ法規定が存在する。

ウィリアムズ氏によればアジア地域全体での進歩のペースは実にまちまちである。「国によっては著しい進歩を見せている国もあります。マレーシアがその好例でしょう。インドネシアには優れたイニシアチブがありますが、これらのイニシアチブには良いところも悪いところもあります。シンガポールも、とりわけ環境問題に関していよいよCSRをもっと真剣に受け止め始めたようです。一方でタイなどのその他の国々では事態はそれほど楽天的ではないものの、これはそれぞれの国の政治情勢が不安定であることが一因かもしれません」とウィリアムズ氏は語る。「中国では、いくつかの非常に心強い環境関連のイニシアチブが存在しますが、中国で開示される情報を信頼することができないためその評価は極めて困難です。当然のことながら、製品安全性、人権、そして政治的腐敗といったその他の分野では中国の今後の道のりはまだ長いものとなるでしょう。」

アジアのCSRに対して金融危機がもたらした影響は欧米が体験したものとはどのように異なるのだろうか?「アジアにおけるCSRは米国や欧州に比べてコミュニティー投資や社会的問題により重点をおいています。欧米では何といっても環境問題が最優先課題ですからね」とウィリアムズ氏は述べている。「アジアでは地方自治体および国による社会的支出が低く、企業がより多くの教育、医療、そして社会基盤に関する費用を負うことが期待されているからです。こうした背景から、社会的支出の削減は企業イメージを損ねるため、CSR予算はより保護された位置づけにあるのです。」

しかしながら、ウィリアムズ氏によればアジア式アプローチにもマイナス面がある。「こうなるとCSRの戦略的側面が軽視され、むしろフィランソロピー的(慈善事業的)な活動となってしまうのです。そのために、長期的な環境に配慮したプロジェクトへの投資はしばしば苦労することになりがちです。また消費者あるいは市場主導型のCSRもあまり存在せず、プログラムは頻繁に散漫であり、その企業の主力製品にマッチしていなかったり、戦略的投資と言うよりはむしろ追加物や補足物といった位置づけとなりがちなのです」とウィリアムズ氏は指摘する。

彼は付け加えてこう述べる。「アジアで事業を展開する欧米の多国籍企業は今回の金融危機に対応して人員削減も実施しています。多くの企業――とりわけ自動車セクターの企業――は人員削減を実行し、当然のことながらその多くが海外における人材配置を削っています。このことがしばしばそれぞれの企業のCSR活動の削減につながっています。と言うのは、CSR担当マネージャーは『非中核』部門担当者とみなされており、多くの場合真っ先に本国に送還される人員だからです。マーケティング部門でも人員削減が実施され、部門によってはグリーンマーケティング(エコマーケティング)へと視座を移したり、あるいは景気減速にもかかわらず何とか生き延びている様子の唯一の会議であるCSR会議の後援に軸足を移すものもあります。これは新製品の売上が落ち込み、より金額を抑えられた予算が日和見的に『満足感を与える』イベントに一層多く費やされているからかもしれません。」

しかしながら総体的に見れば、今後のアジアにおけるCSRの見通しについてウィリアムズ氏は楽天的である。彼は語っている。「将来の展望はよく、景気減速にもかかわらず弊社への仕事の依頼は非常に堅調な伸びを見せています。環境および社会問題に関する活動の増加を反映して、より多くのCSR報告書が作成され、またその内容はますます充実したものとなることを私たちは予想しています。また、環境、社会、そしてガバナンスのそれぞれの基準に重点をおいた一層の責任ある投資の登場も私たちは期待しています。」