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韓国現地レポート
〜小さなグローバル企業。韓国中小企業の強さの秘密とは〜
第5回 韓国で話題の女性起業家が登場
〜屋台から3億円企業に、串焼きチェーン店「コジと友達」 [後半]
取材・原稿:申 美花(シン ミファ)氏


19歳で屋台の焼き鳥屋からスタート、現在は韓国内70カ所、海外4拠点(インドネシア、マレーシア、中国、日本)を通じて、年間売上50億ウォン(約3億8千万円)を稼ぎ出すフランチャイズ・チェーン店「コジと友達」を運営する韓国マスコミで話題の女性経営者ジャン・ジョンユン氏へのインタビュー後半をお届けしたい。

名物「ホイル巻の焼き鳥」を持つジャン・ジョンユン社長(左)と
フランチャイズ店「コジと友達」でのメニュー(右)

6.経済危機の人助けからフランチャイズ展開へ

4坪の店は1日に1,000人以上のお客様が来店する人気店舗となった。しかし、他店舗からのスパイも多かった。店舗内部の写真を撮影する人、コップに店のソースを入れて盗んでいく人、材料の配送車に近づいて情報収集する人などなど。

折しも韓国の経済危機直後、職を失った人々が助けてほしいと毎日のように訪ねてきた。ジャン社長自身はフランチャイズ店がどういったものかも知らないまま、その人たちを助けるために、焼き鳥の材料とソースを供給し始めた。

本当はあまりにも忙しくてソースを作る暇もないぐらいだったが、助けを求める人々には原価以上のお金を取らなかった。しかし、あまりにも大勢の人々が助けを求められたため、次第に問題が生じた。肝心の材料である鶏肉の質が落ちてきたのだ。

元々鶏肉を供給する工場には7つの決まりに従うように指示していた。「1.鶏肉は一等級の足の部分だけ使うこと」「2.皮は完全に除去すること」「3.軟骨と筋は完全に除去すること」「4.青黒い色を浴びる肉は絶対使わないこと」「5.手掴みの部分は7cmを維持すること」「6.切れ端肉は使用しないこと」最後に「7.これらを守らないと取引先を変える」というのが7条項である。

しかし、助けを求める人々から頼まれた鶏肉の注文量が多くなると、手作業だけに以前からのビジネスパートナーだった加工工場から届く肉には軟骨がきれいに除去されない鶏肉が大量に混入するようになった。鶏肉を串に刺す加工工場は零細企業で、他の取引先も屋台中心のため、行事が多い春と秋に忙しく、夏と冬はほとんど休みだ。串をさす作業員の多くも日当の人員だった。

「このままではいけない。」とジャン社長は思った。 仮に年間で発注する肉の量が予測できるなら、加工工場でも計画生産が可能となり、年中無休で働く正社員を雇うこともできる。本格的にフランチャイズ化するしかないという結論に辿りついたのだった。


7.続けざまの試練を克服した自己暗示

知人から法人の設立を手伝いたいという話が舞い込んできたのは、1997年に事業をスタートして3年目、釜山に2号店をオープンして大盛況の最中だった。コンサルティング経験者、銀行出身者など、4人の専門家が共同経営者となりパートナーシップで会社組織を作ることになった。

この時点でもジャン社長自身は、法人組織が何なのか全く分かっていなかった。いざ会社組織としてスタートすると、鶏肉の加工工場の購入、物流システムの整備、社員教育など経営に関するあらゆる点でパートナー間での意見が合わず、互いに不信感だけが深まった。さらにパートナーたちの意見で無理をして自社工場を建設したために赤字が続き、段々と資金調達も難しくなる。結局、会社設立からわずか8カ月で、共同経営は壊れてしまった。

共同経営の失敗により、彼女は4年間で儲けた資金5億ウォン(約3800万円)を全て失った。おまけに家族が住んでいたマンションも処分せざるを得なかった。しかし、このような状況の中でも彼女は決して希望を捨てなかった。「ここで諦めれば敗者になる。この試練は神さまが私をもっと大きな経営者に鍛えるために与えたものかもしれない」。だから、決してパートナー達を恨まなかったという。

むしろ何もかも失ったことで、より一層、自分の家族と職員たちを守らなければという責任感が芽生えていた。ビジネスをより積極的に本格的に展開したい。韓国の全国ブランドとして成長し、海外進出する、そのためには、どうしても首都ソウル市内で勝負してみたかった。 しかし、資金は全くなく破産同然。そんな時に知り合いの大学教授から株に投資するために貯めておいた3億ウォン(約2300万円)を彼女に投資したいという提案が舞い込んできた。

天にも昇る気分で若い社員達を連れてソウルへ進出した彼女は、従業員たちと合宿生活を始めた。しかし、またもやアクシデント。初めてソウルに直営店をオープンしたその日に、鳥インフルエンザのニュースが流れたのだ。その後、4カ月もの間、彼女の店は赤字に苦しんだ。カードローンや消費者金融から借金をしても赤字を埋めることが難しい。彼女は苦しんだ。しかし、いくら考えても誰も助けてくれる人はいない。困難にぶつかった時に信じるのは自分しかいないのだ。

「お前はすごいよ!ほんとうに大したものだ!」
鏡の中の自分を見つめ、話しかけながら彼女は自分自身に自己暗示をかけた。毎朝、鏡に向かって「あなたは絶対やり遂げるよ。あなたはものすごい存在だからね。」と強い眼差しで自分に言い聞かせることで不思議と自信がわきあがってきた。

一つの目標を心の中で繰り返すことで、無意識に自分の心構えと行動が目標に向かって集中されていく。自己暗示による成功への道とは、つまりは自分自身を信じることから始まる。 「私は素晴らしいリーダーだ!とても素晴らしいリーダーだ!」ジャン社長は自己暗示によって、苦しい時期を乗り越え、問題を解決し、さらなる成功へと導かれていった。

2004年4月の春、鳥インフルエンザ騒動も静まり、ソウルに初めて加盟店がオープンした。 社員全員で歓声を上げた。それが、ようやく踏み出したソウル進出の第一歩だった。その後1号店は大成功し、口コミで加盟店が急速に増え、人気が急上昇していった。


ジョン社長は社員を「友達」と呼び、ソウルで一緒に合宿生活を共にしている。
この日は、仕事が終わった後、社員の誕生日パーティーを開いた。

8.競争相手が、自分をさらに成長させてくれる

商売がうまく行くと必ず競争相手が増える。周りに同じような店や屋台が毎日のように増えていった。ある時とてもショックなことが起きた。4坪の彼女の店の隣に18坪の中国レストランがあったのだが、ある日突然、代わりに新しい焼き鳥屋が開店したのだ。その店は彼女の店を参考にしながらも、焼き鳥を少し高級に調理し、座って食べられるようテーブル席も用意するなど、より洗練された店づくりだった。ジャン社長は大きな衝撃を受けた。インテリア、メニュー、売り場の大きさ、サービス、すべての面で彼女の店を上回っていたのだ。

「どうすることもできない」。考えた末にジャン社長は、もう一度基本を徹底することにした。品質、清潔さ、サービスに一層気を配った。ラッキーなことに、隣の店は1点だけ人気飲食店となるための基本テーマに問題があった。味が劣っていたのだ!そのため、時間が経つにつれて、自然と客たちは狭い彼女の店に戻ってくるようになり、結局、隣の店は無理な設備投資で固定費がかかりすぎ1年程度で閉店した。このことから、彼女は大きな教訓を得た。「もしも隣の焼き鳥が美味しかったらどうなっていた?これからは絶対気を抜かずに努力しょう!」

忘れられない出来事として、競争相手からの嫌がらせもあった。朝出勤すると売り場の販売台の前に針金で巻いた木の枝や、腐った鳥肉と塩が置いてあったりした。「販売台の上を犬のフンで隅々まで塗られたこともあったんですよ!」


9.拡大のためだけの成長には要注意!

“加盟店の拡大戦略は?”と聞くと意外な返事が返ってきた。
「積極的に加盟店を増やすことはしません。普通はフランチャイズに加盟したい人がいれば大歓迎かもしれませんが(私はそうではありません)。必ず潰れない保証はありませんからね。」

以前は経験が浅かったため、要望に応えて簡単に加盟店となることを許可していた。そのため、一時期は加盟店が100店舗を超えていた。しかし中には客に対するサービス精神が欠如していたり、忙しくて店内が清潔に保てないなどの理由から徐々に客足が遠のき閉店した店舗もあった。段々とフランチャイズ化を希望する人が現れると、面接を重ねて人柄をチェックし、店舗の立地条件を社員が徹底的にチェックするようになった。また、お金儲けなどプラス面よりも、仕事のマイナス面〜仕事がきつい、1年中休みなしにお店をオープンした方がよい、どんなに忙しくても1日2回は掃除が必要など〜を強調して、それでもやる気のある人とだけ加盟店契約を結んだ。その結果、現在の加盟店数は70店舗にまで絞られたのである。

突然、ジャン社長が鋭い目つきで私に質問した。
「焼き鳥用の肉は、産まれてから何歳ぐらいの鶏が使われるかご存知ですか?」

考えたこともない質問に私が困った表情を浮かべると彼女は説明を始めた。
「鶏を自然の中で飼って人間が食べるぐらいに大きくなるには1〜2年間かかります。けれどもスーパーやレストランでたくさんの鶏肉が需要されるので、養鶏場では短い期間で太らせるための特別な飼料を与え、産まれて40日ぐらいで鶏は食材として使われます。私たちが口に入れている鶏肉はこのように歪んだプロセスを経ているのです。そのような肉をたくさん食べている人間が、性格まで乱暴になるのは当然のことです。」

「本来私は動物をとても愛しています。だから鶏を毎日殺す仕事をすることに罪悪感を深く感じています。このビジネスでお金を儲け、そしていつか、肉の味がする野菜を開発したい。それによって、動物も人間も助けることができる。それが私の夢です。」
こう語る彼女からは本当に強い使命感が感じられると同時に、とても悲しそうな表情だった。


<エピロ-グ>

彼女に“「お金」についてどう思いますか”と尋ねてみた。
「お金は恋人以上に愛してあげないといけません。お金で人を生かせることもできれば、殺すこともできます。」と彼女は熱く語り始めた。
「現代の教育ではお金を儲けることばかり教えて、お金を使う方法を教えていない気がします。まずお金を知らないとお金は儲けられません。シャンプー1個を買う時にも自分が払ったお金がどこに行くのか考えるべきです。もしかしたら、自分のお金で潤っているシャンプーの製造会社が、今この瞬間もシャンプーの安全性を確かめるために残虐な動物実験をしているかも知れません。」

「お金を追いかけるのではなく、お金が付いてくるようにしなければなりません。お金は自分に責任を持って最後まで愛情を注いでくれる所についていきます。お金を使う価値があるところ、人類を幸せにしてくれるお金の使い方ができるところにお金は流れていきます」

私よりも随分と若いのに、しっかりした金銭哲学を持つ彼女を見て、自分を省みてとても恥ずかしい気がした。最後に今を生きる若い女性経営者に将来の夢について聞いてみた。

「将来の夢はたくさんのお金を儲けて、田舎に土地を買って障害者と子供がいない年寄り、いろいろな事情で親がいない子供たちが一緒に生活し、仕事ができる共同体の村をつくることが大きな目標です。自然の農場で彼らが野菜を作り、鶏を育てフランチャイズ店に提供する。そこには捨てられた犬やペットも一緒に飼うつもりです。」

“多くの青年失業者にもアドバイスをお願いできますか?”
「何かを始めたらあきらめない。成功するまで絶対あきらめない。成功したら周りのみんなとその恩恵を分かち合う。この美しい地球の生き物のために…。」
彼女の素晴らしい言葉は、取材からの帰途もずっと心に残る私自身へのメッセージとなった。

(2010年11月取材)

ジャン・ジョンユン社長が経営する串焼き店舗「コジと友達」(韓国サイト) http://www.ccozi.co.kr/


申 美花(シン ミファ)氏
1986年文科省奨学生として来日。慶應義塾大学商学博士。立正大学経営学部非常勤講師、立教大学大学院21世紀社会デザイン研究科非常勤講師などを兼任。著書は共著として『Live from Seoul』、『日本企業の経営革新―事業再構築のマネジメント』など。日本と韓国企業における経営全般でのコンサルティング事業にも長年の経験を有する。現在、SBI大学院大学准教授。
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