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社外との協働を通じて産業界に活動を広げる


Q:2010年11月には2012年までに全製品に関してEPD(Environmental Product Declarations:環境製品宣言)を実施すると発表しました。
マッカラム:これまで当社はあらゆる業界・企業が実施する環境に関する検証方法を精査してきました。その結果、やり方が千差万別であると同時に、時にはその手法・基準が非常に曖昧である、時に外部の人間を混乱させる、ミスリードする情報であると感じるものもありました。その根本要因は透明性の欠如です。

当社のEPDとは、製品のライフサイクル過程における全てを開示します。製品および原材料の成分開示、原材料がどのように製造されたのか、原材料採取から製造・使用・廃棄過程の全ライフサイクル過程における二酸化炭素排出量、エネルギー使用量を開示します。
もちろん、開示情報は第三者機関がISO14021(ライフサイクル評価に関連する基準)に基いて検証されます。このEPDの実施によって、もはや当社の製品情報はブラックボックスに入りようがない、ガラスの箱に入っているようなもの、完全なる透明性を保持することになります。


Q:日本でもサプライチェーンマネジメントがCSR活動の重要な鍵と認識されつつありますが、EPDの実施にはサプライヤーの協力が非常に重要となりますね?
マッカラム:そのとおりです。ミッション・ゼロに向けた私たちの活動において、従業員とともに、もう一方の鍵となるのがサプライチェーンとの協働です。当社は原材料を購入する、サプライヤーを選択する際には、原材料の中身はもちろん、排出量もチェックし、サプライヤーへの監査も行います。

原材料段階での環境負荷低減のためにサプライヤーとの共同開発も行っています。先日もあるサプライヤーとバイオマテリアルを製造する技術に関する合同特許を取得しました。ご存じのように、カーペットの原材料であるナイロンは基本的には100%石油化学燃料からつくられています。今回のサプライヤーとの共同開発では67%まで石油に依存しないバイオマテリアルの製造を実現します。

当社の「7つのチャレンジ」では「6. Integrate sustainability into the culture(サステイナビリティの原則が、日常業務に反映される企業文化の創造)」「7. Pioneer new business models for sustainability(持続可能なビジネスを開発し、新たなビジネスモデルを構築する)」を打ち出しています。この2つは社内に限ったテーマではありません。アンダーソン会長が最初に考えたように、当社が創造する革新的な事業モデルは当社を差別化するだけでなく、他社に模倣いただき、サステイナビリティへの取り組みを広げていきたいのです。サプライヤーとの協働も、一つには他社に環境への取り組みを啓蒙、促進する一助となればと思っています。


ミッション・ゼロ達成に向けたさらなる革新


Q:革新的な環境への取り組みがビジネスチャンスを生み出すという考える一方で、環境規制に伴うコスト増大が経済成長を損ねるという懸念の声も未だ聴かれます。

マッカラム:一つ申し上げたいのですが、サステイナビリティと経済性は決して相反するものではありません。

先ほど当社は1994年から廃棄物を80%削減したと申し上げましたが、金額でみると廃棄物の削減により当社は4億3,300万ドルの費用を節約しています。つまり損益に直接的に貢献しているわけですが、むしろ革新的な取り組みが、どれだけ当社ブランドを差別化し、顧客からの信頼性を高めてきたかのほうが、より重要かもしれません。 アンダーソン会長がよく「doing well by doing good(良いことをして、業績を残す)」と言いますが、まさに環境に良いことをして財務面にも良い影響が得られてきたわけです。

もちろん、当社の中でも議論が生じないわけではありません。以前に、カリフォルニアの工場で太陽光パネルを取り付けようとした際にも、会計士から費用対効果の点で疑問が出されたことがあります。一方で、営業部門では再生可能エネルギーを使って製品を製造することが、消費者にどれだけ当社を差別化し、売上げに貢献するか明白でした。

事実、当社の革新的なリサイクル技術クールブルーを使った製造過程では100%の再生可能エネルギーを使っており、高い評価をいただいています。

取り組み事例 2
リサイクル技術「クールブルー」

サプライヤーとの共同開発による技術で、使用済みタイルカーペットの裏(バッキング)から取り外したナイロンを粉砕・再加工し、新しいナイロン素材として次のカーペットに再利用する技術。これまでにクールブループロジェクトを通じて、捨てられるはずだった10万トンものナイロンのリサイクルに成功している。


そのジョージアの工場敷地内には製造工程で廃棄する腐敗物があり、二酸化炭素よりも21倍の濃度の温室効果ガスを大気中に排出していました。まさしく環境への負荷が生じていたわけです。そこで工場では新たにパイプをとりつけ、ガスを工場内に取り込み、クールブルーの製造エネルギーとして再利用することにしたのです。
これこそ、発想と技術の変革によるイノベーションと言えます。もともと大気中に排出されていたガスを使っているわけですから、ガスに新たな費用はかかりません。サステイナビリティの実現において追加コストばかりを見る人にはない発想でしょう。こうした事例を当社はもっともっと世界各地の多くの事業に伝えていきたいと思っています。


Q:ミッション・ゼロの達成に向けて、これからの課題を教えてください。
マッカラム:60%を達成したとはいえ、残り40%の道筋は決して簡単なものではないと私たちは自覚しています。最終目標に到達するにはさらに大きな課題をクリアしていかなければなりません。全工場でさらに再生可能エネルギーの使用率を高め、リサイクル率も100%をめざします。社員一人ひとりが、さらなるイノベーション、革新を日々実現しなければなりません。

しかしながら冒頭にご説明したように、当社はミッション・ゼロへの挑戦を2020年まで26年間の長期計画として1994年にスタートし、既に16年間が経過しています。当社のサステイナビリティへの取り組みは決して一時的な流行(ファッション)ではなく、市場へのマーケティング活動として短期的視点での取り組みでもありません。長い間に社員一人ひとりの中にDNAとして根付いている、もっと地に足がついた活動です。

私が好きな言葉に「コンパスはスピードに勝る」という表現があります。つまり、スピードではなく、どこに向かっているのかが重要だということです。例え、一歩ずつでも正しい方向に向かって歩み続ければ、必ずミッション・ゼロという大きな達成すると確信しています。

(2010年11月取材)