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Q:海外でのフィールドワークも進めていると聞きましたが。
中間 成熟社会モデルを探して、ヨーロッパに目を向けました。なかでもスウェーデンやデンマークなど、スカンジナビア諸国の社会実験のような社会改善の取り 組みは、いろいろな意味で示唆的です。彼らの働き方、生き方を見たときにワーク・ライフ・バランスの発想が見えてきました。人生と仕事の両方を楽しむとい う生き方です。私たちは、スウェーデンの未来研究所ともやりとりがありますが、彼らのバランス感覚には、いつもうらやましささえ感じます。忙しい中に連絡 すると、バケーションで地中海クルージングを楽しんでいるという連絡が入ってきたりします。決して大富豪のバカンスではないんですよ。(笑)。

Q:日本では雇用対策から、ワークシェアリングに関心が向かっています。
鷲尾 ワークシェアリング推進の動きが高まっていることは望ましいことだと思います。ただし、仕事をシェア(分け合う)して雇用を守るという側面だけではなく、豊かな人生を楽しもうという視点を持つことが大切だと思います。

中 間 ワークシェアリングについては、数年前にオランダモデルを研究するために現地調査もしました。オランダ社会は、どちらかというとヨーロッパの中では保 守的で、男女の役割がはっきりした国でした。男性はフルタイムで働き、女性は専業主婦という関係です。夫婦間の仕事のバランスは、1:0が普通だったわけ です。1+0=1というわけです。


鷲尾氏

Q:オランダ経済の悪化で、女性も働かなければならないということで、ワークシェアリングが始まったと聞きましたが。
中間 彼らは、家族で過ごす時間をとても大切にしています。夫婦共働きに出ると、子どもたちとの触れあいがおろそかになると考え、実際には夫婦で高収入の方にウェイトを置きながらも、0.75+0.75や1+0.5という働き方を積極的にするようになり、家計のピンチをしのいだのです。政労使の真剣な議論の中で、全体の賃金レベルは少し下がっても、二人で働いて、豊かな生活を維持できるように、社会の仕組みも整えたのです。

Q:オランダなどの現地ではワークシェアリングを非常にポシティブにとらえているようですね。
中間 例えば、学校や福祉、警察等の現場でもワークシェアリングは導入されています。学校で子どもたちを見る目が1人 から2人になるということは、ある先生は子どもの持ち味と相性が悪くても、別の先生には認めてもらえる可能性が出てきたりします。見守る目が増え、複眼的 な見方ができるというメリットがあるわけです。ただ、今の日本で考えると、パートタイムの担任という発想は、保護者の同意を得にくいかもしれませんね。

鷲尾 ビジネスでも、1つの仕事に二人の価値観が入ることで、相乗効果が得られるという見方もあります。

Q:経団連がワークシェアリングの難しさとしてあげているのは、日本独自の年齢給への対応ですね。
中間 オランダなどでは、同一労働、同一賃金という考えがベースにあります。フルタイムも派遣やパートも、同じ仕事であれば同じ賃金にするという考え方で す。フルタイムとパートは勤務時間が異なるだけで、待遇にはまったく差はありません。ただし、新しく仕事に就く場合、その仕事に必要な水準以上のスキルが 求められるわけです。そのための職業訓練の場は充実しています。そこで資格がとれれば、空いているポストに応募できるわけです。0.75+0.75や1+0.5という働き方が一般化する中で、オランダ人夫婦の働き方は「1.5モデル」と呼ばれようになっています。

Q:オランダと北欧ではワーク・ライフ・バランスに向けた動きは異なるのでしょうか。
中間 オランダのような「シェアリング」を加速させようという動きは、スウェーデンやデンマークでは目立っていsないと思います。すでに、パートタイムとフル タイムの働き方を柔軟に使い分けている現状があります。もちろん、そこには同一労働、同一賃金というベースがしっかり根づいています。パートタイムだから 仕事の能力や水準、報酬が低くてよいということではなく、その仕事に就くのに必要となる能力と、勤務時間によって、極めて合理的な雇用システムが成立して いるのです。