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特集: COP15をいかに見るべきか?


192カ国・地域が参加して行われた国連気候変動枠組み条約第15回締約国会議(COP15)。先進国と途上国の複雑な利害が交錯する中、「合意に留意する」というあいまいな決着に終わった。地球レベルの気候変動対策は待ったなし。COP15をいかに総括し、次につなぐべきか、識者たちに聞いた。



失敗を乗り越え、緑の産業革命を


東京大学生産技術研究所教授
(エコプロダクツ展示会実行委員長ほか)
山本 良一

Q:COP15の合意をどのように評価されていますか?
山本 34,000人を会場に集め、周りを10万人のデモ隊が取り巻くという一大イベントでしたが、成果を上げることができませんでした。“みじめな失敗”の一語に尽きます。空中分解といってもよいほどです。気候変動問題に関していえば、地球は戦国乱世に戻ったといってよいでしょう。いまは少しでも意味のある失敗にしなければと考えています。

Q:失敗の責任は?
山本 世界の2大排出国である中国やアメリカの責任は大きいと思います。1997年に京都議定書が締結されましたが、その直後にアメリカが離脱しました。その時点でこの取り決めは半身不随の状態でした。いまにして思えば、その時点で京都議定書を放棄すべきだったのかもしれません。日本は自国で行われた国際会議で決まったためにそれをなかなか言い出せなかったのでしょうが……。
今回、日本は25%削減を叫び、150億ドルの拠出を訴えましたが、届きませんでした。

Q:途上国は先進国の排出責任を叫んでいますが?
山本 これまでの責任の大半は先進国にあります。しかし、これからの責任は途上国にもないわけではありません。大気中に排出されたCO2などは長期間にわたって空気中に残留するといわれています。CO2などの60%は海や森林が吸収するといわれてきましたが、わが国の森林を見ても分かるように吸収力が弱まっています。現在では5%ダウンの55%にまで吸収力が衰えているといわれます。つまり、中国やインドなどの途上国が排出するCO2の45%がこれからどんどん大気中に蓄積されていくのです。
先進国の放出量はそれなりに減少しています。つまり先進国の責任は過去への責任であるのに対し、途上国には未来への責任が待っているわけです。
もう1つ、温暖化による影響は、アフリカや島国に影響を及ぼすだけではありません。結局は大量に排出している国々に跳ね返ってくるということです。
たとえば、ブラジルはアマゾン流域に熱帯雨林を持っていますが、地球の気温が2度上昇することで、熱帯雨林が致命的な打撃を受けるといわれています。中国も砂漠化で大きな打撃を受けることになるでしょう。

Q:日本はどのような対策を講じるべきでしょうか?
山本 長期的には80%の削減を目指さなければなりませんが、2020年の中期目標としては2009年6月に麻生内閣が打ち出した1990年比8%削減案があります。また、9月には鳩山内閣でも25%という目標値を掲げています。2010年の1月には各国とも削減の目標値を明示しなければなりませんが、下限で8%、上限で25%とすべきでしょう。交渉ごとですから、この2つの数字を上手に使えばと思います。

Q:温暖化に向けた対策は間に合いますでしょうか?
山本 地球の温暖化は非常事態です。もう時間の猶予は20年もありません。いますぐ産業をグリーンインダストリーにシフトし、全力で取り組んでも5年はかかるでしょう。その間、温暖化がストップするわけではありませんから、残された時間は限られています。地球全体では2050年までに最低でも50%のCO2を削減しなければならないといわれていますから……。

Q:技術の裏づけは大丈夫でしょうか?
山本 技術革新はどれだけでも進みます。問題は社会の制度というか仕組みの改革が手付かずであるということです。社会や国民の意識を変えるためにも環境税の導入は避けて通れないと思います。その上で、①CO2を削減すれば利益になる ②産業界だけでなく一般住宅やビルなどにも規制を強化するということが重要です。排出量取引はその後からでもよいでしょう。

Q:いまこそ社会全体の本気度が試されているわけですね。
山本 北欧やスイス、モルディブなどさまざまな取り組みが始まっています。まだ、日本はふらついている状態ですが、産業についても“緑の産業革命”を急ぐべきです。20世紀型の古い産業は縮小せざるを得ないかも知れませんが、必ず新しい産業が生まれてきます。
もう一つ提案があります。COP15が重要な取り決めができなかったことで、ツバルやモルディブなどの島国の水没はかなり難しい状況になっています。日本が率先してこれらの島国の人々を受けいれるという方針を打ち出せれば、中国やアメリカだけでなく、世界への大きな影響力を発揮できるでしょう。

このコメントは山本良一教授の談話を当編集部の責任でまとめました。文責は当編集部にあります。