「政府間合意の失敗」。これがCOP15の率直な評価といえるだろう。気候変動を緩和するための世界的な枠組みが、白紙になるという最悪の事態は回避されたというものの、「合意の先送り」が合意されただけという今回の結論は、今後の気候変動をめぐる議論に、大きな地殻変動をもたらす可能性がある。
第一は、「政府間合意によって、温室効果ガス排出を世界的に抑制することは困難だ」という疑念が広がっていくということである。この結果、今後は、よりミクロに企業、製品サービスを評価し、多排出なものにマーケットを通じて圧力をかける動きが強まっていく。具体的には、カーボン・フット・プリントの大きな製品や多排出企業に対するネガティブキャンペーンや課徴金制度が強化されていくだろう。
第二は、「世界が気候変動を緩和できるか否かの鍵は、世界最大の排出大国である中国が握っている」という認識が一層広がっていくということである。「発展途上国にとって、最重要課題は貧困撲滅だ。発展途上国では相当数の人がまだ電気を使えない状況にある。したがって、大雑把に全世界の排出ピーク値の目標を1つだけ設定するのは、工業化の過程にある発展途上国にとって不公平だ」「国連気候変動枠組み条約は、発展途上国には排出量を増やす必要があることを、明確に認めている」という立場を認めるとしても、2020年までに単位GDP当たりの二酸化炭素排出を05年より40〜45%減らす目標では、GDPが年率8%で成長していけば、2020年の排出絶対量は05年の2倍近くになってしまう。これでは気候変動はとめられない。
第三は、「関心の焦点が、緩和から適応に移行し、同時に、国際的な所得再分配を実現する新たな仕組みが次々に提起される」という状況が生じるということである。気候変動による深刻な物理的影響を所与とする必要性がハッキリしてきた。今後、適応の科学や技術を有する国や企業には、高い評価が与えられるだろう。また、REDD(途上国の森林減少・劣化防止による排出削減対策)や国際連帯税への期待も高まることになろう。しかし、ここでも抜き差しならない利害対立が生まれる恐れがある。
20世紀初頭、主要国が、自国の利益保護を優先しブロック経済を形成して保護貿易の度合いを深めていった、その歴史の繰り返しがCOP15の結果からは透けて見える。最後に残ったこうした処方箋が、米国国防省の予想するような世界規模の紛争に繋がることがないよう祈るばかりである。