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Home > 識者に聞く > [短期シリーズ:いま改めて、CSRを考える] 21世紀は企業とNGOとの“相克と協働”の時代へ [後半]

海外企業にはNGO出身もいると伺いました。

寺中:確かにいますが、欧米でもそれほど多いわけではないと思います。日本では企業のCSR担当者とNGOとの交流自体が始まったばかりです。

長坂:1990年代後半に環境NGO出身の人がロイヤル・ダッチ・シェル社の環境問題担当者になり、日本のメディアはNGO側の「企業に寝返った」というコメントで報道しましたが、今ならそういう視点の報道にはならないと思いますね。

寺中:今の事例はNGOと企業が互いの窓口部署間で交流したので良いのですが、企業とNGOの洗練された戦いは、互いの監視機能であるべきです。NGOから企業に単純に“寝返った”ケースもありうるでしょうし、その人間が何をするかであって、NGOから企業に入ることの良し悪しではないですね。


日本にはNGOセクターが根付きにくい土壌があったのでしょうか?


長坂:主要9カ国で「この一週間に他の人と社会性のある事柄で情報・意見交換しましたか?」とアンケートをとったら、多くの国で70%でしたが、日本がとくに低く最低の6%だったそうです(エデルマン調査)。なぜかというと、本来は私と他者がいて、私益と他者の利益を調整することで公共益、つまり「私」「公共」「公」の三元論で私達の社会は成り立っているのですが、日本は明治維新で近代国家を作るときに「公共」部分は政府がやるからと、現在に至るまで「公」「私」二元論の教育を受けてきているからです。
以前に政府の渡航禁止勧告を聞かずにイラクに行った3人の若者が国内で一斉にパッシングされましたが海外では何故彼らがバッシングされるのか全く理解できません。フランスのルモンド紙は「彼らは“公共益(Public interest)”のために行動をしたのに、なぜ日本はあんなにもパッシングしたのか」と言うことを書きました。しかし日本は「公」「私」二元論ですから、政府の方針と合致しない公共益的行動は認められません。ここに、公共益を目指して活動しているNGOを必要な存在だと認識しにくい日本の土壌があります。私は日本特殊論を余り言いたくないですが、こうした二元論は日本独特です。

寺中:実はアムネステイは1970年に設立して、公益法人と許可されるのに2000年までかかっています。公益法人は国益に利するものでなければダメだというのが許可がおりなかった理由です。1998年にはNPO法人化が可能となりましたが、我々としては「アムネスティが公益でなければ、何が公益なのか?」、政府に公共益を認めさせる戦いだと考えて、公益法人化にこだわりました。

長坂:すでに社会は「公」「私」二元論で解決できない大きな問題が顕在化しています。公共益であるNGOの役割を社会システムに組み込むCSRは、日本が「私」「公共」「公」の三元論を我々の意識の中に確立する過程でもあると思います。

(2009年12月取材)

長坂 寿久(ながさか としひさ)氏(左)
拓殖大学国際学部教授(国際関係論)。現日本貿易振興機構(ジェトロ)にてシドニー、ニューヨーク、アムステルダム駐在を経て1999年より現職。2009年にオランダ-日本の交流に長年寄与する功績により、オランダ ライデン大学等より蘭日賞を受賞。主要著書「NGO発、「市民社会力」−新しい世界モデルへ」(明石書店、2007年)、「オランダモデル-制度疲労なき成熟社会」(日本経済新聞社、2007年)など。近著「世界と日本のフェアトレード市場」(明石書店、2009年)

寺中 誠(てらなか まこと)氏(右)
学生時代からアムネスティ・インターナショナル日本(注)での活動を行い。2001年からアムネスティ・インターナショナル日本の事務局長に就任。共著に「インターネット法学入門」(日本評論社)、共訳書に「日本の死刑廃止と被拘禁者の人権保障」(日本評論社)、「入門国際刑事裁判所」(現代人文社)など。

*アムネスティ・インターナショナル日本
英国に国際事務局を置くアムネスティ・インターナショナルは人権侵害に対する調査と独立した政策提言、ボランティアによる市民の力に基づいて活動する国際的な人権団体で、世界150カ国に180万人超の会員、サポーターを有する。アムネスティ・インターナショナル日本は世界に50以上存在する支部のひとつとして、日本国内でキャンペーン活動を展開する。