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Home > 識者に聞く > [短期シリーズ:いま改めて、CSRを考える] マーケティング・コンサルタント斉藤ひろ子
[短期シリーズ:いま改めて、CSRを考える]
企業とNGO/NPOとの協働:
社会問題の理解・認知を高めるコーズ・マーケティング
日本では企業の寄付活動sは隠れて行うのが美徳とされてきた。企業が非営利団体と連携し、なおかつ事業活動を通じて表立って社会貢献に取り組むコーズ・マーケティングの意義とは何か、欧米系企業での経験も長いマーケティング・コンサルタントの斉藤ひろ子氏に話を伺った。

斉藤ひろ子氏

コーズ・マーケティングとは何か?


Q: コーズ・マーケティングという言葉自体、まだ耳慣れない人も多いと思います。

コーズ(Cause)とは「大義」の意味ですが、何らかの特定の社会的課題のことを指します。企業が事業活動を通じて得た収益の一部を企業がテーマとする“コーズ”に関連する非営利団体に寄付する、または製品・サービスの売上にかかわらず様々な活動を通じて支援する、その両方の活動を含めて総合的にコーズ・マーケティングと呼んでいます。

こうした活動は昔から行われてきましたが、海外では1983年に米国でアメリカン・エクスプレス社が「自由の女神」修復のために、同社のクレジットカードの利用1回につき1セントを寄付するキャンペーンで、コーズ・マーケティングという手法が一般に認知され始めました。

米国では企業がコーズ・マーケティングに投じる費用が、1990年には年間で1億2千万ドルであったのが、2009年にはその10倍以上の15億7千万ドルに達すると推測されています。(米国 IEG調べ)。

コーズ・マーケティング:以下のふたつを含む総称。
コーズ・リレーテッド・マーケテイング(Cause Related Marketing)
企業が製品の売上から得られた利益を何らかの組織に寄付すること。その寄付活動は、たいてい、期間を限定し、特定の製品や慈善活動に対して実施される。

コーズ・プロモーション(Cause Promotion)
コーズに関する意識や関心を高めるため、もしくはコーズのための資金調達、コーズへの参加、ボランティアの募集を支援するための資金提供や物資供給。
★なお、非営利・公的な団体が行うソーシャル・マーケティングはコーズ・マーケティングに含まれない。
ソーシャル・マーケティング
公共、公衆の健康、環境、社会福祉を改善しようとするキャンペーンの開発や実行を支援する。行動変革にフォーカスをあてている。
定義の出典:フィリップ・コトラー「社会的責任のマーケティング」(2007年東洋経済新聞社)


Q: 日本では具体的にどのような活動を指すのでしょうか?
日本における先駆的な事例としては、2007年にキリンMCダノンウォーターズ株式会社が販売するミネラルウォーター「ボルヴィック」の「1L for 10Lプログラム」が知られています。最近では、2009年からスタートしたユニクロの「UT x UNHCR チャリティ Tシャツ」キャンペーン、同じく2009年春に第1弾が行われたアサヒスーパードライの「うまい!を明日へ!プロジェクト」なども、コーズ・マーケティングの手法を用いた事例です。



Q: コーズ・マーケティングは、企業と非営利団体が協働して社会的課題を解決する仕組みということですが?
コーズ・マーケティング自体はその名のとおり“マーケティング手法”ですが、同時に、企業と非営利団体が互いの持つリソースを活用して、単独に活動するより効果的に、社会的課題の解決に向けて活動を実践する仕組みといえます。

コーズ・マーケティングにかかわるのは、企業、消費者・一般市民、NGO/NPOの三者です。企業は支援すべき社会的課題=コーズを設定し、その課題に関する活動を行っているNGO/NPOをパートナーとして、主には金銭的支援、または従業員による人的支援や製品・サービスなどの物的支援を行います。一方で、NGO/NPOは自分たちが関わる特定の社会的課題に関する情報や支援のノウハウを企業に提供します。



Q: コーズ・マーケティングという手法が注目される背景、そこにかかわる三者にとってのメリットは何でしょうか?
企業サイドでは製造業を中心に加速度的に技術革新が行われ、製品・サービス自体の差別化が困難になりつつある状況です。

一方、先進国における消費者は物質的な欲求がかなりのレベルまで満たされ、物質的価値以外の要素を製品・サービスに期待する気持ちが強まっています。加えて、政府・行政機関の汚職・スキャンダル事件が相次ぎ、一般市民が“自分たちの力で社会問題を何とかしたい、自分自身が関与したい”という欲求が高まっている、こうした社会的背景がコーズ・マーケティングという手法をより有効にしていると思います。

実際にコーズ・マーケティングが成功した企業の多くで、製品ブランド等のイメージが向上し、結果的に売り上げ増に結びついています。

他方で、NGO/NPOにとっては、一般市民に“コーズ(社会的課題)”の認知・理解を促進できるということが重要な目的です。同時に企業から寄付を得る方法を多様化できる、つまり“資金調達の多様化”も大きなメリットです。