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Home > 識者に聞く > [短期シリーズ:いま改めて、CSRを考える] マーケティング・コンサルタント斉藤ひろ子

コーズ・マーケティングにおける注意点


Q:海外ではコーズ・マーケティングによって、逆に世間から批判を浴びた事例も少なくないと伺っています。どのような点に注意すべきなのでしょうか?
過去に欧米で批判を浴びた事例から、いくつかの留意点が考えられます。
  1. 告知における表現:
    米国企業が小児がん治療への寄付を“クッキーを買って、命を救う”と表現広告コピーがストレートすぎる(短絡的すぎる)とブログ等で批判された
  2. コンプライアンス:
    医薬品メーカーの広告に寄付先の財団に所属する医師が登場した。
  3. メディアへの過度な露出:
    あまりにも莫大な広告支出により、「莫大な広告費用をかけて、消費をあおっただけではないか」という批判が生じた。
  4. NGO/NPOとの連携:
    (中立であるべき)医師会が健康器具メーカーと連携し、製品に医師会のロゴや名前を掲載
  5. 企業とコーズの適合性:
    消費者の目からみて、企業の支援先が相応しい、“共感を得る”ことができるか。


コーズ・マーケティングにおける成功/失敗は、誰かが明確に判断してくれるわけではありません。コンプライアンスの問題を含めて法的に守るべきことを守るのは当然ですが、例えば上記の(1)告知における表現や、(3) メディアへの過度な露出のケースは、企業やクリエイターはカッコ良いものを作って世間の認知度を高めようと良かれと思ってしたことが、一部のメディアや、消費者からは批判があったということです。

重要なことは、コーズ・マーケティングの広告展開に際しては“かっこ良さ”が目的ではなく、“社会の問題を解決すること”が目的であることを、常に理解している必要はあると思います。

欧米ではNGO/NPOがかかわる活動の歴史があるので、広告代理店にも非営利分野の担当部署がありノウハウを蓄積しているようです。日本ではこれから企業と広告代理店等が共に勉強していく部分もあるかもしれません。


コーズ・マーケティングの意義:マスの力で社会問題を解決に導く


Q:日本企業の場合、“良いこと(寄付)は隠れて行う”という考え方が主流でした。 改めて、なぜコーズ・マーケティングとして目立たせることが必要なのでしょうか。
確かに、コーズ・マーケティング自体は目新しい言葉ですが、日本の企業には、昔から外に言わずに製品の収益の一部を寄付してきた企業がたくさんあります。

コーズ・マーケティングに身構えてしまう企業に申し上げたいのは、「もともと企業は社会に良いことをするための存在ではないのですか?」ということです。 その企業が社会に寄与するために事業活動を行うという理念があるならば、コーズ・マーケティングを特別なこととして身構えることもないでしょう。

常日頃から、社会のために行っている事業の中にたまたま寄付という要素を組み込むだけですから、何も隠す必要も照れる必要もない、普通のことですよね。

コーズ・マーケティングとは、“社会で認知・理解されていない問題”を多くの人に知らしめることが目的です。むしろ、社会問題を解決するために企業市民としてコーズ・マーケティングに参画すると捉えればよいのではないでしょうか。

Q: 企業が黙って寄付を行うだけでは、問題意識が広がらない。企業が本業の中で表立って寄付活動を行うことは、収益を挙げることが主たる目的ではなく、社会問題を世間に広く知らしめる有効な手段だということですね?
私自身はコーズ・マーケティングをそのための重要な方法論だと思っています。社会的問題の理解・認知度を高める目的であるから、マスマーケティングを利用することが効果的になります。

もちろん欧米企業の事例を全て肯定するわけではなく、環境団体がグリーンウォッシング(Green washing)などと批判する----企業が環境に良いイメージ写真を多用した広告や情報量の多いCSR報告書などによって、実際には環境負荷が高い事業活動を覆い隠すこと---要素もゼロではありません。しかし、企業が社会全体を良くしようとする倫理感を基盤にコーズ・マーケティングを行う部分があるのも本当です。

Q:日本企業ならではのコーズ・マーケティングのあり方、可能性はありますか?
コーズ・マーケティングは関与する全ての人にベネフィット(利益)をもたらすと申し上げましたが、欧米の事例でも、 “従業員のやる気”を高める効果が良く言及されます。製品を販売する際に営業マンたちがお客様からの直接の反応を聞くことで「非常に社会的に意義があるビジネスをしている」と感じることが励みになるということです。

日本では終身雇用制度が崩れたと言われていますが、欧米に比較すれば、個人が会社にコミットする傾向が未だ強いと感じます。
日本企業の事例では、“事業を通じて社会貢献活動をしたい”という社員の気持ちを形にすることがコーズ・マーケティングを実現する基盤になったという話も伺います。日本人の場合は、企業人として会社を通じて社会貢献をしたいと考える人が多いのではないでしょうか。 そのあたりに、日本企業のコーズ・マーケティングを発展させる鍵があるようにも思いますね。

(2010年2月取材)

マーケティング・コンサルタント 斉藤ひろ子 氏
ジョンソン・エンド・ジョンソン株式会社での消費者向け製品マーケティングを経て、ピルスベリージャパン株式会社(米国。ジェネラルミルズ社と合併し世界最大の食品会社)や、日本ベーリンガーインゲルハイム株式会社(ドイツ。世界的製薬企業の日本法人)のOTC事業部でマーケティング部門を統括。 その後、独立し、企業ならびにNGO/NPOへのマーケティング・コンサルティング、調査・研究を行っている。