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Home > 識者に聞く > 早稲田大学大学院 横山 隆一教授
Q:スマートグリッドには期待も大きいというわけですね。
スマートグリッドそのものの定義はまだしっかり固まっていません。 ただ、スマートグリッド以前に検討されてきた「モダーングリッド」とほぼ同様のものとすれば、次の7つの特徴が挙げられます。
  1. 自己修復(送電上の問題点を自動検知し、適正に対応する)
  2. 消費者の意識付けと取り込み
    (消費者に情報が知らされ、消費者が効率的な電力使用に関与できる) 
  3. 攻撃への耐性(サイバー攻撃や自然災害に強い)
  4. 21世紀のニーズに応じた電力品質の確保
  5. すべての発電、貯蔵オプションの適用(分散型電源と電力貯蔵施設が大規模発電と共存。再生可能エネルギーへのアクセスが焦点に)
  6. 市場の機能化(成熟した卸売市場と信頼度調整者を含め全国統合)
  7. 資産の最適化と効率的運用(電力網の資産管理とメインテナンスが可能に) 


これらが実現すれば、電気事業者だけでなく、需要者(消費者)にも大きなメリットがあります。たとえば、消費者参加型のネットワークが誕生すれば、消費者自身がエネルギー消費をよりよく計画・管理できるようになり、無駄な電気をカットしやすくなります。また、消費者側で電気の貯蔵ができれば、ピーク時の負荷低減による省エネルギー、省コストも大きく進みます。電気自動車普及に向けた基盤づくりも前進するはずです。

このように需要家が、節電や省エネルギーに取り組んでくれることを需要家応答(デマンドレスポンス)といい、スマートグリッドの柱の一つでもあります。この実現のためには、需要家の情報を収集し、分析したあとに、重要家自身にエネルギー消費に関する情報を提示することが必要です。この役目を果たすのが、スマートメータと呼ばれるデジタル型の電力測定・記録・送信装置です。


Q:わが国の場合は送配電網がかなりきちんと整備されているのでアメリカのような大きな投資は必要ないという声もありますが。
スマートグリッドの効能は、送配電網の整備だけにあるのではありません。 今後、低炭素社会を実現するためには、化石燃料などに頼らない太陽光や風力発電等の再生可能エネルギーの大量導入を進めなければなりません。 ただし、再生可能エネルギーも“よいこと尽くめ”ではありません。太陽や風力は自然が相手だけに発電出力の変動が激しく、電力品質(周波数、電圧、高調波)を悪化させる懸念があります。

欧米と異なり、わが国の電力供給システムはかなりしっかり整備されています。 当然ながら次世代電力網の整備も欧米とかなり違ったものになる可能性はあります。 私が考えているのは、大規模で高価なネットワークを一度につくるのではなく、離島や僻地向けなどで再生可能エネルギーを組み組んだスマートグリッドの技術を確立し、開発途上国向けの電力供給システムの開発で実績をつくることが大切だと考えています。

早稲田大学が、東芝などと共同で研究を進める再生可能エネルギーを使った電力インフラ構築に有効な配電システム「クラスター型(地域や集落特性に合わせた適正規模の供給システム)拡張グリッド」はその一例です。 これは“地産地消”型エネルギーともいうべきもので、地域ごとに太陽光発電などの供給電源を設置し、連携インバーターを介し他地域と電力の過不足を補い合うものです。これだとスマートグリッドに向けた要素技術の確立に向けた実証実験が十分可能です。研究の成果は、米国電気電子技術者学会(IEEE)や日本電気学会(IEEJ)などで報告を行っています。




実は、スマートグリッドの技術については、わが国の方がはるかに先行しています。わが国の技術を取り込もうという思惑もあり、ハワイや沖縄では日米クリーンエネルギー技術協力も始まっています。