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Home > 識者に聞く > 早稲田大学大学院 横山 隆一教授
Q:再生可能エネルギーだけでは不安だとの声もあります。低炭素社会の実現に向けたエネルギー対策に秘策はあるのでしょうか。
1971年から2005年までの世界全体のCO2排出量をエネルギー起源別に分析してみました。それによると火力発電所が26.0%、鉄鋼業が6.3%、セメント産業が2.9%、自動車などの道路輸送が17.1%で、これらの合計だけで全体の約52%を占めていることが分かります。ここにメスを入れない限り、大きなCO2削減は難しいと思います。


下の図は各国の電力CO2排出原単位を国際比較したものです。石炭依存率の高いのが、上からインド、中国、アメリカ、ドイツの順となっています。ドイツは、脱原発を選択した結果ですが、インド、中国、アメリカは国内に石炭資源が豊富にあることも影響しています。カナダ、中国、インド、イタリアなどは水力の比率もかなり高いことが分かります。一方、原子力の比率が高いのはフランス、日本、ドイツ、イギリスです。なかでもフランスは、原子力の比率が79%と抜きんでています。

低炭素社会は、当然ながら化石燃料への依存度を縮小せざるをえません。石炭のクリーンコール化技術やCO2回収貯蔵の技術もありますが、実用化には不確定要素もある中で、世界の流れは原子力発電への回帰に向かっているといえます。アメリカが30年ぶりに新規の原子力発電所を建設します。フィンランドやイギリスは、原子力の新規建設に舵を切りました。中国、インド、ロシアはおのおの20基以上の新設を計画しています。

わが国は被爆国であるとの特殊性を持っていますが、足元を見ると世界の原子力プラントメーカーは、東芝(+ウエスチングハウス)、日立(+ゼネラルエレクトリック)、三菱重工(+アレバ)の日本の3社が核になっています。世界の原子力プラント建設は日本企業の双肩に掛かっているといってもよいほどです。おそらく、日本のメーカーが中心になって取り組む原子力プラントのイメージとしては、安全性と効率性を重視した次世代型の軽水炉となるでしょう。原子力といえば、これまでは辺鄙な地方に設置されてきましたが、消費地に近いところで、小型の超安全な原子炉を運用し、安定運用に徹するというのが、低炭素社会実現の近道かもしれません。

原子力というと感情的な議論が先行してきましたが、もう一度冷静な議論を進め、国民的合意をはぐくむべきときだと思います。最後に、かつての原子力反対派と地球環境派の最新のコメントをご紹介しましょう。

「原子力のもたらす脅威など取るに足らないものだ。再生可能エネルギーは聞こえはよいが、今のところ効率が悪く高くつく。将来性はあるものの、非現実的なエネルギーを試している時間は今はない。私は原子力を今使用すべき唯一の特効薬と考えている」(ガイア理論の提唱者 ラブロック博士)

「(反対派は)科学的根拠を持たずに反対を打ち出すばかり。エネルギー問題では、原子力も化石燃料もダメ、水力もダメ。再生エネルギーだけにすべきだという。しかし、簡単な算数ができれば実現が無理なのは明白だ」(グリーンピースの共同創設者 パトリック・ムーア氏)

2010年3月取材

横山 隆一
昭和48年、早稲田大学大学院理工学部博士課程修了。工学博士。三菱統合研究所産業技術部研究員を経て、昭和53年から東京都立大学(現首都大学東京)助教授、平成元年から教授として教鞭を振るう。平成19年4月より早稲田大学 理工学術院 教授、現在に至る。電力系統とエネルギー市場の計画・運用・制御及びシミュレーション解析、先端数理計画手法の大規模システムへの応用研究に従事。最近では、再生可能エネルギー有効利用のための次世代エネルギーネットワークの実証研究を進め、クラスター拡張型スマートグリッドを提案。IEEE Fellow、IEEE Fellow Commission委員、電気学会Senior Member、電気設備学会、CIGRE会員、経済産業省新エネルギー部会委員、資源エネ庁変圧器判断基準小委員会委員長、2009年電気学会業績賞受賞

IEEE(米国電気電子技術者学会)とは
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IEEEは160カ国に37万5千人以上の会員を擁する世界最大の技術専門家の協会。航空宇宙システム、コンピューター、電気通信、生体医用工学、電力、家庭用電気製品など、各種分野で指導的な役割を担い、電気・電子のエンジニアリングの分野およびコンピュータ・サイエンスの分野で世界の約30%の文献を出版し、900近い業界標準を策定している。また本協会は、世界中の最新の技術進歩が公表される850以上のコンファレンスを主催、または共催している。

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