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旭硝子財団アンケート結果から
生物多様性を巡る先進国と途上国の戦いとは?
公益財団法人 旭硝子財団 安田事務局長


2010年10月18日から愛知県名古屋でCOP10「生物多様性条約第10回締約会議」が開催される。しかし昨年のCOP15「国連気候変動枠組み条約第15回締約国会議」の折には国内でもCO2削減目標数値の是非が議論されたことと比べると、一般にはCOP10のテーマがもう一つ見えにくい状態であるのも事実だ。
公益財団法人 旭硝子財団 安田事務局長に同財団が実施した「第19回 地球環境問題と人類の存続に関するアンケート」調査結果とともに、いま世界各国では生物多様性に関するどのような議論がなされているのかを伺った。

公益財団法人 旭硝子財団
安田哲朗 事務局長

右のボードは毎年のアンケート結果に基づく 「環境危機時刻」。2010年全回答者平均は9時19分、昨年から針は3分戻り2年連続で後退した。

有識者にもテーマが見えにくい生物多様性の問題

Q. 貴財団は毎年世界の環境問題有識者にアンケートを実施されていますが、今回は昨年のCOP15評価と次回COP16への見通し、そして今回特にお伺いする、生物多様性をテーマとするCOP10への期待に焦点を当てられました。
実は事前に生物多様性の専門家の方からも(気候変動問題に比べると)生物多様性の問題を全て分かって回答できる専門家は世界でもかなり少ないですよと言われました。 答えがかなり分散する結果となりましたが、これは回答者(回収数675通)の皆さんが、テーマが見えにくい中でも、それぞれに真剣に問題を考えていただいたためだと思います。

● 「生物多様性条約(CBD: The Convention on Biological Diversity)」 における
3つの目的
1.「生物多様性の保全」
2.「生物多様性の構成要素の持続可能な利用」
3.「遺伝資源の利用から生ずる利益の公正で衡平な配分」
生物多様性の問題に世界全体で取り組むために1992年5月、「生物多様性条約」がつくられ、2010年2月現在、日本を含む193の国と地域が締約している。

Q.生物多様性の専門家が必ずしも多くないことと連動するかもしれませんが、有識者自身も“生物多様性に関する議論が成熟していない”意識をお持ちのようですね。
生物多様性に関してはCOP10事務局から非常に細かい戦略テーマが開示されていますが、多くの世界の環境関連の識者にも生物多様性の問題のポイントがどこにあるのか把握しきれていないのが現状だと思います。
今回のアンケート結果でも、有識者のベイシックな意見として「まず生物多様性の基本の中身をもっと世の中に知らしめたほうが良い」と思っている方が非常に多いことが分かりました。

「COP10に対する期待」

生物多様性の問題に関する“議論の促進、関心の喚起”“国際連携の強化”という基本的な取り組みを求める声が多くを占めている。気候変動問題に比べて世界各国間での連携や議論が遅れている様子が伺われる。
出典:旭硝子財団「第19回 地球環境問題と人類の存続に関するアンケート」調査結果

またアンケート結果から“生物多様性の利用”というとネガティブな印象を持たれる識者が多い--- ただし“持続可能性な利用”とすると選択数が増える---という印象も持ちました。

Q.“利用”に対するネガティブなイメージは一般に“生物多様性=守るべきもの”という意識が強いからだと思います。一方「生物多様性条約」では2番目の目的に「生物多様性の構成要素の持続可能な利用」を掲げています。つまり経済活動が中心となる現代社会では生物多様性に影響を与える活動を完全に排除することはできない、従って持続可能性のある利用を考えるべきだということですね。
生物多様性の専門家はそのように考えています。経済活動と結び付けなければ本当に環境問題、生物多様性の問題は解決できないという意識が専門家には強くあると思います。しかし、多くの一般の方々の頭の中では環境問題と日常的な経済活動が切り離されてしまっています。今回の有識者へのアンケート結果でも、同様の傾向が見られます。

「人と生物多様性の関わり」

生物多様性の「管理、育成、保全」が全体の73%を占める。「生物多様性の利用」は27%(そのうち、「持続可能な利用」が15%)と全体では低い割合に留まった。
出典:旭硝子財団「第19回 地球環境問題と人類の存続に関するアンケート」調査結果

ただし、上記アンケート「人と生物多様性との関わり」回答についてもう少し分析しますと、「生物多様性資源の利用」について、アフリカ、その他アジア、中南米という途上国での問題意識が高く、同じグループに属していることが良くわかります。一方で、北米やオセアニアはまだ関心が低いようです。