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Home > 識者に聞く > 公益財団法人 旭硝子財団  安田哲朗 事務局長
「人と生物多様性の関わり」
(コレスポンデンス分析: 途上国を中心とした動きの追跡)

途上国(アフリカ、その他アジア、中南米)が一塊になって「生物多様性の利用」への関心が高い。
出典:旭硝子財団「第19回 地球環境問題と人類の存続に関するアンケート」調査結果


「COP10に対する期待」
(コレスポンデンス分析: 途上国を中心とした動きの追跡)

冒頭に掲げたように、左の円グラフ全体では“議論の促進、関心の喚起”“国際連携の強化”が上位を占めるが、下記のコレスポンデンス分析のとおり、途上国では「遺伝資源の原産国権利の保護」に非常に関心が高いことが分かる。
出典:旭硝子財団「第19回 地球環境問題と人類の存続に関するアンケート」調査結果

上記のコレスポンデンス分析では、途上国と東欧・旧ソ連も「遺伝資源の原産国権利の保護」に対する高い関心がある結果となりましたが、東欧・旧ソ連の関心度度が高い背景として推測されるのが、東欧・旧ソ連の地域は生物資源が分布する広大な地域あり、旧ソ連のツンドラ層は---種子など遺伝子としての過去からの蓄積物を冷凍保存して埋蔵している、いわば遺伝資源の金庫---です。今後の技術発展によってはツンドラ層で保存されたDNAから過去の植物・生物などを再現できる可能性がある、その場合、今から遺伝資源の権利を明確にしておきたいという意識があるのかもしれません。


「遺伝資源の利用から生ずる利益の公正で衡平な配分」での激しい対立


Q.「遺伝資源の利用から生ずる利益の公正で衡平な配分」(ABS: Access and Benefit-Sharing)における、代表的な事例としてエイズ治療薬の問題が挙げられます。
エイズ治療薬などの医薬は遺伝子情報を基に設計されることがありますが、その元になる材料として、アフリカや南米、特にアマゾン川周辺に生息する植物資源が非常に多く使われている、また原住民が古くから使用していた植物から作った薬を新薬に適用・研究開発されているという事実がありあす。(しかしながら、アフリカ地域では貧困問題を背景に薬が不足してエイズが蔓延しています。)中南米やアフリカなどの途上国は自分たちが非常に価値ある遺伝資源--エイズ治療薬の源泉をはじめとして--を有していること、それらが自分たちにとって数少ない輸出資源であることを非常に強く認識しています。

「ポストCOP10の目標として取り上げるべき事項」


最初に掲載した全体の円グラフでは“遺伝資源の公正な利益配分”が16%に留まるが、次のコレスポンデンス分析を見ると、途上国の多くは“生物多様性の健全と遺伝資源から得られる利益の公正な配分を国際的仕組みにより促進する”ことに関心が高い。
出典:旭硝子財団「第19回 地球環境問題と人類の存続に関するアンケート」調査結果

さらに途上国は、現在だけでなく過去にさかのぼって遺伝資源の権益を請求したいと考えているようです。例えばジャガ芋はもともと南米がルーツであり、過去の時代にスペイン人が欧州へ持ち帰り世界に広がっている、それらの事実を含めて過去からの経緯を反映した途上国の権利を守る国際法を作るべきだという主張などです。それに対して西欧を中心とする、この問題を既に意識している先進国は過去の経緯を問題にすべきではなく、途上国の主張(過去にさかのぼり多大な請求をされる可能性がある)を認めるのは難しいというスタンスです。
直近に行われたABSに関する会議が不調に終わったのも、双方の国益に対する議論が真っ向から対立したせいだと推測されます。

過去の既得権を返還する極端な例を言えば、たとえば大英博物館にある所蔵品を全てもとの地域へ返還すべきという議論になってしまうわけで、遺伝子資源に関し途上国の主張を受け入れると、そもそも途上国のいう過去に遡った権利保護が国際法上で妥当なものか、主張自体がかなりチャレンジという部分もあります。
しかし、途上国には遺伝子にまつわる資源を過去全て先進国だけが独り占めしてきたという意識があります。途上国側は貧困という非常に差し迫った問題を背景として「今の自分たちに残された(経済力につながる)最大の資源は遺伝資源である」というギリギリのところから、この問題だけは決して譲りたくないという強い姿勢を打ち出しています。