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グローバル化がもたらす新たな課題
日本企業が直面する海外労使紛争とは?
全日本金属産業労働組合協議会(金属労協/IMF-JC) 浅井 茂利 政策企画局次長


製造拠点を海外展開する”グローバル化”は中小企業から大企業まで、今や日本企業すべてに共通のキーワードだ。しかし、企業は日本人と異なる文化や価値観を持つ現地従業員との労務・人事問題という新たな課題に直面している。 世界ではCSR(企業の社会的責任)の中核に位置するのが労働問題と語る全日本金属産業労働組合協議会(金属労協/IMF-JC) 浅井 茂利 政策企画局次長に、日系企業における海外労使紛争の現状を伺った。

グローバル化とともに増加する海外労使紛争


Q. 金属労協(IMF-JC)が海外労使紛争に取り組むきっかけを教えてください。

浅井茂利 政策企画局次長

MF-JCがCSR(企業の社会的責任)と連動した取り組みを始めたのは1997年です。1990年代に企業のグローバル化が急速に進展し、途上国の製造現場における児童労働をはじめ様々な問題が生じ、その一つが海外製造現場で頻発する労使紛争の問題でした。ILO国際労働機関(ILO: International Labour Organization)が、多国籍企業の活動の拡大に対応し、4つの中核的労働基準については、ILO条約の批准の如何を問わず、加盟国すべてで遵守されなければならないとする「新宣言」[注1]を行ったのも翌1998年です。



IMF-JCは国際金属労連(IMF:International Metalworkers’ Federation)の日本組織ですが、1997年にはIMFが、IMFと世界の多国籍企業、その企業の本国の労働組合の3者間でILOの4つの中核的労働基準を遵守する協約を締結しようという活動を始めました。世界で最初に締結したのは食品メーカーのダノン社ですが、現在、金属関係では、ダイムラーやルノーはじめ19件が締結されています。


[注1] 「労働における基本的原則及び権利に関するILO宣言(新宣言)」
最優先条約として以下の4分野8条約を提示している。

分野条約
結社の自由及び
団体交渉権
87号(結社の自由及び団結権の保護に関する条約)
98号(団結権及び団体交渉権についての原則の適用に関する条約)
強制労働の禁止29号(強制労働に関する条約)
105号(強制労働の廃止に関する条約)
児童労働の実効的な
廃止
138号(就業の最低年齢に関する条約)
182号(最悪の形態の児童労働の禁止及び廃絶のための即時行動に関する条約)
雇用及び職業における
差別の排除
100号(同一価値の労働についての男女労働者に対する同一報酬に関する条約)
111号(雇用及び職業についての差別待遇に関する条約)

日本は「105号(強制労働の廃止に関する条約)」「111号(雇用及び職業についての差別待遇に関する条約)」を批准していない。 “国家公務員法・地方公務員法においてストライキへの共謀者に懲役刑を定めていることが105号に抵触する”“ 111号条約が禁止する差別を明確に禁止する国内法が不在である”が未批准の主な理由。

[注2] IMF(国際金属労連)とIMF-JC
IMF(国際金属労連)は世界100カ国、200組織、2500万人が加盟し、金属労働組合の国際的な団体として、人権・労働組合の自由・民主主義および社会正義を求めて活動している。IMF-JCはIMFの日本組織として、5つの産業別組合、2,800社以上の企業の労働組合、200万人以上の労働者が結集している。


私どもIMF-JCも本部と連動して1997年から加盟企業に対して中核的労働基準の協約を推進してきましたが、残念ながら日本では1社も締結しておりません(他業種ではデパートの高島屋が締結)。(IMF-JCの対象業種には自動車産業など幅広く製造業が含まれますが)製造業では中核的労働基準が他業種以上に現場の活動に実質的に影響するため、遵守することは当然としても、IMFを交えて協約を締結するというかたちには慎重な姿勢をとる企業が多いからです。

そこで締結を推進しつつも、現在は(締結するしないにかかわらず)労働現場で実質的に中核的労働基準を遵守する取り組みに力を入れており、日系企業における海外労使紛争の未然防止・早期解決に向けた活動も、その一環です。

並行して日本でも2003年がCSR元年と言われ、私どももアメリカなどCSR先進国で調査を始めました。その結果、日本ではCSRを社会貢献や企業不祥事を防ぐなどのテーマでとらえがちですが、世界的には労働問題がCSRの中核となる重要テーマであることもわかりました。
つまり中核的労働基準の遵守を推進する、CSRを支援する、二つの流れから海外労使紛争に関わる取り組みに注力する必要が出てきたわけです。


Q. IMF-JCは具体的にどのようなケースで労使紛争にかかわるのですか?
労使紛争が増加する背景は、単純に日系企業の海外拠点数が増えただけでなく、日本から(最終製品もしくは鍵となる重要部品など)より高度な製造拠点が海外移転するようになり、現地の生活水準も、働く人々の意識も向上する、それによって労働組合の要求水準もあがる、そうしたことがあると思います。

IMF-JCの基本的な役割として、現地でストライキがあったから全て我々が出ていくわけではありません。労使間での意見の相違でストライキが起きる---もちろんないに越したことはありませんが---それ自体はありうることで、企業内で労使で話し合って解決していただくしかありません。

問題は、ストライキが起きた際に労働組合の役員やストライキに参加した皆さんを不当に解雇する、または優秀な技術者を掃除係に格下げするなどの事例が起きることです。これらは中核的労働基準「結社の自由及び団体交渉権」を侵害することとなり、われわれが解決に向けてお手伝いせざるをえないわけです。

日系企業における労使紛争事例:タイの二輪車製造の事例

[紛争までの経緯]
2009年5月に生産量を調整するため会社が労働時間の短縮制度を導入。しかし、現地労働組合が時間短縮による収入減少を懸念するとともに、説明不足による「昨年の業績が良かったのになぜ説明なしに短縮するのか」への不満から制度導入を拒否し、同年6月末にストライキが発生。経営側はこれを違法ストとして参加者を解雇。

[IMF-JCの取り組み]
ストライキに入ったことをIMF-JCで把握し、日本の親会社と工場に連絡して協議。会社サイドが従業員と労働組合役員の復職を認めたことで7月初旬にストライキが終了。その後、完全解決に向けて、8月の労働組合による総会で労働時間の短縮を含む労働協約上の問題を全体で討議された。 (IMF-JC機関誌「IMFJC」2009年秋号より)