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Home > 識者に聞く > 全日本金属産業労働組合協議会(金属労協/IMF-JC)  浅井 茂利 政策企画局次長

労使紛争を生みやすい現地の事情と未熟な日本企業の対応


Q. 日本とは異なる、途上国の従業員が不満を貯めやすい事情もあるようですね。
経済成長に向かう途上国では、労働組合がないので新たに作ろうという動きも良くあります。しかし、労働組合設立の気配を察知したとたんに指導的立場の人間が解雇されるケースも多いです。

そもそも日本では組合員2名がいて登記すればすぐに設立できますが、途上国では労働組合を設立する法的な手続きが複雑で時間がかかります。例えば従業員の過半数の賛成が必要とか、過半数といっても分母となる社員の範囲はどこからどこまでか、経営者側と労働者側の区分はどこか、法律自体が曖昧だったり会社によって解釈がまちまちだったりします。従って組合設立にまで数か月かかることも普通です。

つまり海外では、“組合つぶし”をする時間的余地がある、現地の経営者サイドが労働者の動きを妨害することができる、もちろん、制度的にそういうことができても、経営者がやらなければよいだけの話しなのですが、もしやってしまうと、当然のことながら労働者は不満を貯めてしまう、その結果、労働者が過激な行動を起こしがちという悪循環が起こります。 。

理不尽なことを言われてカッとなり会社の備品を壊して解雇通告を受けるなどといった事例もあります。もちろん多くの場合、労働者側に悪意があるわけではなく、前向きに自分たちの労働環境を良くしたい、会社をよくしたいという労働者が追い込まれてしまうように思います。

海外労使紛争事例:タイの電機・電子製造の事例

[紛争までの経緯]
2007年5月に労働組合を組織しようとした指導者4名が解雇、その後6月に労働組合が正式に登録されたが、7月には労働組合幹部がさらに解雇された。 それに対して、タイのNGOタイ・レイバー・キャンペーンが国際NGOであるグッドエレクトロニクスの仲介のもとオランダのFNV(合同産業労連)とともにオランダの現地法人に復職要求を提出。10月に復職が決定した。

[CSRの観点から企業を監視するNGOネットワーク]
グッドエレクトロニクスはオランダに本拠を置き、企業倫理やCSR、環境面から電子分野の企業を監視する国際NGOで、インドやインドネシア、タイなどの東南アジア各国で活動している。上記の事例でも、グッドエレクトロニクスは紛争を把握した時点で、IMFおよびIMF-JCに通知するとともに、親会社も含む関係会社への通知や抗議書簡を送付している。なお、親会社は日本企業だが、その多数組合はIMF-JCに加盟していない。
(IMF-JC機関誌「IMFJC」2009年秋号より)

Q. 現地のトラブルを日本本社がほとんど把握していないと伺いました。
IMF-JCは、直接アジアの労働組合から「日系企業で問題が起きているから何とかしてくれ」と連絡が入る場合もありますし、本部のIMFが情報をつかみIMF-JCに連絡が来ることもあります。

IMF-JCはすぐに産業別組合、企業別組合を通じて、日本本社にコンタクトしますが、ほとんどの日本本社は現地の労働問題の状況を把握していません。問題が起きていることも、われわれからの連絡で初めて知ってびっくりされることが非常に多いです。

結局のところ、労使紛争は現地の経営陣にとってネガティブ情報ですから、本社への連絡は遅くなりがちです。すぐに日本本社に対応頂いて解決する場合もありますし、難しい場合はIMF-JC、日本本社、その企業の日本の労働組合、現地労働組合、IMFなど関係者が集まって、協議する場合もあります。

まずは情報分析ですが、しばしばIMF-JCが当事者である労働組合から聞いている状況と、日本本社が現地の経営トップから把握する情報が食い違います。細部はともかく大筋としては、労働組合からの情報が正しい場合が多いようです。いずれにしても双方の情報を付け合せて、正確な現状把握をしたうえで本社に対応いただくことになります。


Q. 海外労使紛争では日系企業の対応の不味さが目立つとか。
欧米企業が日本企業よりも労働組合に理解があるとか、労使紛争が少ないなどということはないように思います。しかしどうも日本企業の対応があまり上手ではない場合があるということは言えるかもしれません。

一つには、日本から赴任される経営者に人事労務の経験が少ないことが要因です。日本で人事労務の経験豊富な方が現地にいれば、ここまで問題がねじれなかったのではと感じるケースも多いですね。

日本から赴任したばかりの方は現地の管理が生ぬるく感じることもあるようです。そこで改革しようとなるのですが、現地労働者と十分に話し合い、疑問に応えながら手順を踏んで改革すればよいのですが、いきなり180度変えようとすると、現地の工場で働く社員たちからの反発が起きやすく、そうした中で突発的に些細な事件が起き、経営サイドが一方的に解雇を通告、労働紛争へ至るというパターンです。

もう一つのパターンとして、日本人の現地トップが人事・労務に詳しくないため、現地の人事労務マネージャー、またはコンサルタントや弁護士にまかせきりで、団体交渉・労使協議にも出てこないといった場合も労使紛争が起きやすくなります。
現地の人事労務マネージャーの中には、経営者に良いところを見せようとして現場の管理や改革を強行に進めがちになる人もいます。一方で外部コンサルタントや弁護士の場合はトラブルが生じ、裁判沙汰になったりするほど儲かるという側面があることは否定できません。

IMF-JCに加盟する2800社は大企業だけでなく中小企業もたくさんいらっしゃいます。中小企業の皆さんの中には、労使問題について十分な理解のないままに海外進出されて痛い目にあうケースもあるのではないかと推測します。