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識者に聞く
Q:市民の力という場合に、NGO/NPOを意味することも多いと思うのですが?
小川 私が言う市民力とはあくまでも“個人の力”です。「つながりを回復する」ために非常に大事な3つのコンセプトがあります。

1つは「主体が個人」であること。20世紀の主体は組織でした。しかし、これからの時代は組織ではなくて個人であることがとても大切です。NGO/NPOであっても組織である以上、企業と同じように組織の論理というものが生まれます。組織の論理が出てくると、個人のつながりは生まれないのです。ですから今回の市民プロジェクトでは、例えばNGO/NPOの代表に対しても、あくまで個人として参加いただくようお願いしました。

2つ目に大切なことが、「個人がフラットな関係でつながる」ことです。企業が時代のエンジンであった20世紀には常に組織がかかわり、関係性はピラミッド型でした。特に日本は親分子分などの上下の関係性が強い社会ですからね。そうではなくて自発的に行動する個人がフラットな関係を結ぶことが大事です。

主体性、関係性、そして3つ目に何よりも重要なことは「プロセスを成果として考える」ことです。20世紀は常に人よりも早く大きな結果を出すことを求める時代でしたが、そのために「つながり」、人間同士の関係性が壊れてしまいました。そうではなくて、“良いプロセスを経験する、生み出す”ことこそがつながりを作るために非常に大切なことです。


「企業発」から「個人発」へのパラダイムシフトがCSRの鍵


Q:個人の力を活かすために、企業はどのように貢献することができるのでしょうか?
小川 「つながりをデザインする」という21世紀のテーマは、企業のCSRでも同様に重要なテーマではないでしょうか。企業と市民が協働しながら、もう一度社会につながりを取り戻す、それが本来の企業のCSR、企業市民として大事じゃないのかなと、これまでの万博でのイベントを通じて強く感じます。

今までの市民参加プロジェクトは行政や企業から市民に呼び掛ける “こ の指とまれ型”でした。そうではなくて、市民が自発的に自分に何ができるかを考え、カスタマイズした動きに対して、企業や行政が連携するほうが本当に社会 を変える力になると思うんですよ。「愛・地球博」の場合も終了後にプロジェクトがさらに継続し大きくなっている、例えばある9人から始まった農業プロジェクトは現在約100人 規模のものへと成長しています。“この指とまれ”型は行政や企業がやり続けるかどうかで決まりますが、自発的に市民が始めたプロジェクトだからこそ、持続 的に継続していく可能性が広がっていく。まさに行政と企業との新しい関係性の中でプロジェクトを展開することが大切で、もう一つ重要なことが、ワーク ショップのような場の提供、一緒になって考えて解決を求めていくメソッドと空間が非常に大切です。


Q:企業のかかわり方について、もう少し具体的なイメージを教えてください。
小川 今回の「開国博 Y150」では横浜という街全体を見渡していただくために、3つのエリア「ベイサイドエリア」「ヒルサイドエリア」「マザーポートエリア」を設けていますが、2009年7月からスタートするヒルサイドエリアでは先ほど申し上げた189の 市民プロジェクトを展開します。そこには、メインの取り組みの一つとして、約2万本の竹で「竹の海原」を作りました。ご存じのように日本やアジアの文化で 愛されてきた竹ですが、最近では放逐竹が森を侵食する環境問題の一つとして取りざたされています。こうした背景から、「竹を使いなおす」というテーマが市 民から提示され、一つのプロジェクトとなり、複数の企業が技術協力を行っています。

つまり、今までのように企業が発案したプロジェクトではなく、市民が考えたプロジェクトに対して「私たち企業に何ができるか」と問いかけ、一緒に考える時代に来たのではないでしょうか。そのように企業側が思考をシフトすることがCSR活動において重要じゃないかと思います。