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CSRフラッシュ
5月8日は世界フェアトレードデー特集 (4)
援助よりも公正な貿易を!
第4回 フェアトレードの深化と拡大
国際シンポジウム「フェアトレードの拡大と深化」から

○討論と質問に答えて


進行役 : 渡辺龍也(東京経済大学現代法学部教授/国際開発協力・NPO論)
渡辺:これまで各国のフェアトレードの経験や経緯をうかがうとともに、「企業セクターへの浸透」「政府・自治体への浸透」「社会への浸透」についてディスカッションしてきました。最後はそれらをまとめる意味も込め、こらから10年先を見越してフェアトレードを広げていくにはどのような近未来を描く必要があると思われるか、各人から語ってもらいます。

イアン・ブレットマン楽しいイベントでした。
2日間で4つのテーマを取り扱ったが、多くの人々をひきつけ、持続可能な社会を実現していくには気候変動の問題を無視できないと思います。気候変動も社会的な不正義の問題です。北の問題が南の人々にも影響を及ぼしています。
フェアトレードは炭素排出ゼロの地域のものを買うという意味でも意義深いと思います。また生物多様性を守る上でも重要です。

交易は人と人の関係そのもの。モノとモノの関係ではありません。失われた人間関係を復活することが大切なのです。この30年間で貿易のあり方が変わろうとしています。コストを小さくして、バリューを買うという仕組みが大切です。
拡大と深化に向けて、あらゆる組織が多様性を尊重しなければなりません。また、企業には大きな責任があり、責任ある行動をしなければならないと思います。

クラリベル・ダヴィッド:拡大と深化の間には対立があります。
拡大は広げる、生産者を増やす、財政基盤をつくることですが、深化は活動の原則を示しています。
生活の基盤をつくるために前払い制度を設けたり、人々を訓練したり、南の少数の人々を助けることが大切なのです。そこには矛盾も存在します。

援助はパートナーシップそのものですが、これからも続けていく必要があります。南の人々のアイデンティティの危機が続くからです。恐らくこれからの10年で決着がつかないでしょう。
ただし、フェアトレードのマーケットを成長させていくことが必要です。20世紀のモデルを21世紀も守るだけでは生き延びることはできません。これからの10年で世界経済はずいぶん違ったものになるでしょう。

これからはブローカーが介在することで、生産者と消費者の距離はもっと近くなるでしょう。それだけマーケットにアクセスできる機会が増えるのです。
私たちは自分たちを変える21世紀のビジネスモデルをつくっていく必要があります。北の人々は新しいチェーンに新しい価値を付加するため、国内マーケットを開発する必要があります。また、南の中間層の台頭で、アフリカや南米などとの貿易は拡大するが、同時に南と南の南南貿易や域内貿易が大切になっています。

カルメン・イエツィ:この会議はジャン・マリ・クリエによってハイジャックされました(笑)。彼は“多様性の中の統一性”が重要だと語っています。“多様性の中の統一性”があれば拡大は達成できるというのです。
たしかに団結はしないといけません。役割は分担しないといけません。
多様性を組織、事業、個人に働きかける必要があります。
放置しておくとエネルギーはあちこちに拡散されていきます。エネルギーを1つに集め、力を統合つながっていきます。

ジャン・マリ・クリエ:ハイジャッカーだと名指しされたが、もう少し発言の機会をください(笑)。日本には新しい試みがあると思いました。このシンポジウムは全国のプラットホームを育てるよい出発点です。団結を強め、学びの機会をつくり、合同の行動計画を立て、同じ目標に向かって進むことが大切です。世界フェアトレードデーだけでなく、他の行動を通じて、1人ではないと気づくことが重要です。

欧州では国際的な協力活動が始まって、オーストリアからフィンランド、イタリア、ポルトガルなども同じ目標に向かってキャンペーンが広がり、20カ国に広がっています。フェアトレードの将来についてはだれも分かりません。人々のムーブメント、皆さん1人ひとりの活動で10年後が決まるのです。

ブルース・クラウザー:このシンポジウムでは多くのインスピレーションを受けました。世界の未来は明るいと思いました。
このあと、私は日本のフェアトレードの拠点である名古屋と熊本を訪ねます。
気候変動で地球規模の対立が起きています。ランチの時間に奴隷制の話をしましたが、この2つの問題はつながっています。フェアトレードに関心のある人は、気候変動にも関心があると思います。われわれは地球規模の問題を解決するためにもフェアトレードの運動を続けなければなりません。

カルメンさんはジャンマリーがこの会議をハイジャックしたと語ったが、ジャンマリーは私のメモを盗んだのではないかと思いました(笑)。私も多様性の中の統一性がなによりも大切だと思ってきました。心を1つにして、共通している要素で協力しなければなりません。
われわれはエチオピアの農民からコーヒーを買っています。テクノロジーが発達しているが、人間と人間が直接会うことには意味があります。私たちのフェアトレード・タウンに彼らを招いて500人の交流会を開きます。私は熊本の話を明石さんから聞いて感銘を受けました。ガーナではわれわれとのフェアトレードで人々の生活がよくなり、家をつくった農家もあります。いつかガーナのカカオ農家に訪ねてください。また、ガースタングにも訪ねてきてください。

カルメン・イエツィ:ガースタングよりアメリカの方がずっと近い(笑)。9月の半ばにはボストンでイベントがあるのでぜひ訪ねてきてください。

長坂:行かなければならないところがたくさんできましたね。今日はたくさんの方から有意義な話をいただきました。
最初に世界の動きだが、クラリベルさんからフェアトレードには理念が必要だという話がありました。また、フェアトレードであるからには信頼性がとても重要です。

国連の統計だと1日1ドル以下で生活している人々は10億人弱といわれています。リーマンショックで12〜13億人に拡大しているのではないでしょうか。1日2ドル以下だと25億人、BOPビジネスの定義である年間所得3,000ドル以下だと世界の人口の約7割に相当する40億人が貧困層と定義されます。

先ほどイアンさんのFLOの対象として58カ国750万人をカバーしているという話がありましたが、家族も含めるともっと大きな数字になるでしょう。それでもフェアトレードがカバーしているのは世界の数%に過ぎません。フェアトレードが深化するには、現在の開発モデルで成果を出せるのか十分研究調査される必要があります。
世界の人口の7割が貧困層である中で、フェアトレードの市場を拡大していくには、企業、自治体におけるフェアトレード・タウン、途上国の国内市場、南・南貿易を増やしていく必要があります。

日本国内でもフェアトレードは、世界の貧困、平和、人権などあらゆる問題の入口となっています。しかし、日本のフェアトレードの世界シェアは約1.7%に過ぎません。NGOやNPOなどのセクターも小さいと思います。ジャン・マリ・クリエさんがいったようにピープルズ・ムーブメントが必要です。

日本は明治以来、政府が公共権を占有してきました。公共のことは政府に任せておけというスタンスです。そのため市民の公共に対する意識が遅れをみせてきました。フェアトレード・タウンの運動は日本でも盛り上がりつつあります。各地域の人々、ショップの人々がネットワークをつくって行政に働きかけていくことが大切です。そうしたネットワークが、日本のフェアトレードの中核になるのではないでしょうか。それを支えるのが下からのピープルズ・ムーブメントです。

渡辺:ピープルズ・ムーブメントに関していえば、人権、平和、女性、環境、オーガニックなど、幅広い市民運動とどう関わっていくか、フェアトレードの理念をどう共有してもらうかが課題だと思います。フェアトレード運動だけで問題を解決できるわけではありません。
欧州ではそうした多分野の市民運動との連携が発展し、フェアトレードの裾野を広げてきましたが、日本ではまだまだです。

それから“多様性の中の統一性”についてですが、多様性には大きく2つの方向性があると思います。1つはラベルに代表される拡大志向で、一般の企業や市民にフェアトレードを広めることです。もう1つはWFTOに代表される深化志向で、フェアトレードの原則を堅持するとともに、生産者と消費者の間にパートナーシップないし連帯の関係を築くことです。その2つの間の統一性をどう実現していくことができるのか。イアンさんとクラリベルさんにうかがいたいと思います。

イアン・ブレットマン:FLOの拡大は、同時に深化でもあります。
私たちはさまざまな生産者の生産物を市場化できるようラベルの認証を進めています。ただ、もっとも貧しい国や紛争国からは認証の動きはきていません。監査の人間を送り込むことも難しいのです。生産者の状況を正しく把握することも難しいと思います。年次総会に出席を求めることも難しいのです。

私たちとしては、認証を厳しくしたいと思っているが、限界もあります。
深化と拡大は、フェアトレードにアクセスしやすくすることです。
1つのものを買うことから始まります。1人でも多くの人たちにフェアトレードに参加いただくことが、生産者を育てることにつながります。

イギリスでは、大きな小売業者がフェアトレードを始めています。小売業者が生産者に直接リーチしているのです。それだけ関心が高まっています。あるスーパーでは顧客も期待し、私たちも企業にアプローチする方法を模索しています。

渡辺:WFTOとはどのように協力してきましたか。

イアン・ブレットマン:この数年でFLOはメインの食品に参入し、WFTOの協力を得ています。それまではそれぞれの活動に埋没してきました。ただし、ビジョンについては共有しています。活動を一緒にやることで互いの役員との関係もできます。協力は生産者のためでもあり、組織のためでもあります。

クラリベル・ダヴィッド:FLOは活力にあふれていると思います。ただし、WFTOには正統性があります。FLOは生産者に対するコミットメントで折り合うところまで来ています。持っているものをフルに活用すれば、生産者には恩恵があるのです。WFTOの組織は小さいが、FLOは大きい。2つのアイデンティティは大きな問題になっています。活動の重複はまずいと思いますが。

長坂:5年後に2つの組織は統合しているのではないでしょうか。日本のマーケットは2008年でFLOのラベル認証を受けた製品が18%、非認証製品が82%です。現在、別のゆるやかな組織も伸びる可能性があるので、3〜4年後にはラベル認証を受けたものが50%、非認証製品が50%になる可能性があると思います。

ヨーロッパは現在FLOが90%、非認証製品が10%だが、日本はヨーロッパ型になるのか、輸入団体やショップの人たちが頑張って行く方法もあるのではないでしょうか。というのは、日本のフェアトレードを考えると3つのタイプに分かれると分析しています。1つはFLO、1つはWFTO、そしてもう1つは独自にフェアトレードブランドを確立しようとしている団体の動きもあります。

渡辺:WFTOのカトマンズの会議に参加したが、FLOとWFTOが事実上統合されているという文書が配布されましたが、その点はどうでしょうか。

イアン・ブレットマン:トップダウンで統合しようとすると組織は脆弱なものになる可能性があります。

クラリベル・ダヴィッド:WFTOにはアジアの生産者が多く参加しています。一方、FLOにはアフリカの生産者が多い。ボトムアップの統合であれば反対はしません。

長坂:フェアトレードは非認証製品から認証製品に向けた動きがあります。ヨーロッパは現在FLOが90%、非認証製品が10%だが、日本はその逆となっています。ラベルの統合の歩みにはプラスとマイナスがあると思うが、もう1つ新しい道をつくるためにアドバイスはありませんか。

カルメン・イエツィ:この課題はいつもつきまとうものです。私はコーヒーが大好きなので1日に6〜9杯も飲むが、マグカップは1つだけ。ハンドメイドのコーヒーであろうがなかろうがかまいません。コーヒーは世界で2番目に多い交易産品だが、すべての手工芸品にラベルをつけても手工芸品は手工芸品です。問題はいかに普及させるかがポイントなのです。

ブルース・クラウザー:コーヒーと手工芸品を競争させても意味がありません。生産者たちの声を聞いて下から草の根で積み上げていく必要があると思います。
2005年のシカゴでの会議でもいまと同じ質問が出ました。フェアトレード・タウンは人々の団結の成果。アメリカのフェアトレード・タウンではフェアトレードのラベルも認めています。ガースタングの署名は、制約する署名。1年に1回、フェアトレードコーヒーを飲む署名を集めています。ネッスルが急に素晴らしい企業になることはありえません。ただし、フェアトレードコーヒーにも企業の参入は増えています。

ジャン・マリ・クリエ:正しい問いかけが必要です。黒白はっきりしていませんから。
フェアトレードを進める人はプロとして活動すればよいのです。ラベルの人はラベルの取り組みをし、ワールドショップの人はその道で頑張るのです。役割の分担が必要なのであって、これかあれかという選択の問題ではないと思います。
ラベルがないとフェアトレードは死んでいくと思います。協会や第三世界ショップなど新たな組織づくりも必要かもしれません。オーストリアではラベル制度を強化してから、ワールドショップの数が3倍になりました。

長坂:ほぼ期待通りのお答えをいだきありがとうございます(笑)。

渡辺:NGOやNPOのほか、労働組合や生協にもフェアトレードに関心を持ってもらいたいと思っているが、欧米の経験では、NGOやNPOがフェアトレードに関わりを持ち始めたのは自然発生的だったのか、働きかけたものですか。

カルメン・イエツィ:私たちは意図的にやりました。共通の目的意識を持って人を集めたのです。たとえば、バレンタインやハロウィンのときなどは、児童労働や奴隷労働に関心のある団体と協力するようにしました。ときには思わぬところにパートナーがいるものです。学生、WEBデザイナーなどパートナーシップを築けるメンバーたちと意識的に共通の課題づくりを進めたのです。

イアン・ブレットマン:パートナーシップには伝統的なやりかたがあります。摩擦があっても相手を敬うことができるのです。民間企業は利益追求という課題があるので、比較的パートナーシップは築きやすいと思います。それ以外の団体、たとえば労働組合なども問題点さえ克服できれば、お互いの関係を築けるのです。

クラリベル・ダヴィッド:それぞれの国の固有のあり方を尊重することが大切です。
日本は市民運動がそれほど活発ではありません。欧米の経験を聞くことも大切だが、日本独自のフェアトレードの手法の確立が必要です。

ジャン・マリ・クリエ:労働にはおのずと役割があります。それぞれが専門分野に取り組むことです。多くの問題をすべて束ねるのは意味がないと思います。すべての人間が世の中のすべてを学び、解決するためにやれるわけではありませんから。

ブルース・クラウザー:私は獣医だが、動物保護だけをやっていればよいわけではないと思います。アフリカでは奴隷制が廃止されたが経済は崩壊したままです。
フェアトレードが広がれば経済の崩壊を免れることができるはずです。日本で広げることは無理ではありません。