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CSRフラッシュ
国際連帯税を推進する市民の会(アシスト)シンポジウムから
今こそ国際連帯税の実現を!

●“国際連帯税とは何か?”を各々に表現したパネリスト参加者(写真左から)
稲場雅樹(「動く→動かす」事務局長)
小西雅子(WWFジャパン気候変動担当オフィサー)
池田香代子(『世界がもし100人の村だったら』編著者)
佐藤克彦(全日本自治団体労働組合国際部長)
狩野伊知郎(日本リザルツ・ディレクター)
金子文夫(国際連帯税推進協議会委員、横浜市立大学国際総合科学部教授)

司会 杉浦秀典(賀川豊彦記念・松沢資料館学芸員)



司会:まず、自己紹介を兼ねて日ごろの活動と国際連帯税との関わりについてお話ください。

稲場:「動く→動かす」は、ミレニアム開発目標を実現して世界の貧困をなくすことを目標に生まれた国際NGOのネットワークです。世界の途上国でさまざまな活動を続けるNGO55団体が参加しています。世界反貧困デーで行われるスタンドアップという運動はご存知かもしれませんね。このイベントには昨年日本で3万5千人が、世界で1億7千万人が参加しました。
もう1つは政策提言を民主党政権の下で進めています。現在、ODA(政府開発援助)の改革が行われようとしています。保健や教育や社会サービスなどへの援助は日本の二国間援助の26%にすぎません。多くの国では40%前後となっています。ミレニアム開発目標については先ほど池田香代子さん(当日の講演者)がしっかり話してくれましたので、私は国際連帯税の思想史的な意味についてお話したいと思います。


「富」を社会化する


稲場:
気候変動や貧困・格差は元をたどれば資本主義がつくったものです。気候変動は資本主義がこれまでの活動の中で出したCO2の問題であるといえます。貧困・格差は奴隷貿易によって始まり、不公平が何百年にもわたって繰り返された結果、アフリカはずっと貧困な状況に留め置かれ、ますます貧困になりました。欧州はどんどん金持ちになり、さらに産業革命が起こって格差が固定化されていきました。しかし、500年にわたって続いてきた今の体制は危機に瀕しています。グローバリズムの中では“共存共栄”しかないという理論も一部であります。ところが、世界不況に遭遇してみると、この“共存共栄”がいかにもろいものかが分かります。


「動く→動かす」事務局長
稲場雅樹氏

ただ、かつてのように革命によって資本主義を倒すという選択肢ではなく、別の方法があるのではないかと言われています。グローバルな資本主義によって形成された「富」を、グローバルな仕組みをつくることで、今の危機を解決していくということです。

一方、社会主義に関連していえば、私が社会主義といっているのはマルクス・レーニン主義ではありません。マルクスたちが空想的社会主義といってけなした欧州型の社会主義を指しています。これが国際連帯税の思想史的な骨組みをなしています。

サン=シモン、フーリエ、シモーヌ・ベーユといった人たちが体現しているもう一つの社会主義です。資本主義の中で「富」が一部の人たちの中に私有化され、「格差」「貧困」が固定化されてしまうのは良くないということを述べています。「富」というものを別の形で管理していかなければならないということです。これが基本的な社会主義の思想です。それに対し、資本を社会化していくという方法があるのではないか。マルクスは資本を社会化していくことを考えたわけですが、これは破綻してしまいました。生産手段を共有化するのではなくて、資本主義で生み出された「富」を社会化するシステムをつくることにありました。その一例が国際連帯税ではないでしょうか。

小西:WWFジャパンで気候変動を担当しています。WWFジャパンは世界規模で活動する国際自然保護団体です。5つのプログラムの中で、私は地球温暖化の国際交渉を担当しています。地球温暖化に関わっている者がなぜ国際連帯税に関わっているのかについてお話します。

2007年にIPCC(気候変動に関する政府間パネル)の科学者の報告書はご存知だと思いますが、その予測でいきますと、今から100年後には平均気温は大体1.8度〜4度の間で上昇すると言われています。4度というのはそれほど大きな上昇だと感じない人が多いのですが、今から10万5千年前の氷河時代、今との違いは4度から7度です。100年間で4度も上昇するというのは、氷河時代から現在に一気に移るようなインパクトのある気温の変化になります。


WWFジャパン
気候変動担当オフィサー
小西雅子氏

実は地球の温暖化というのはもう防げません。私たちが化石燃料を使っている以上防げません。CO2というのは、一旦大気中に発散されると海とか森とか生態系に吸収されない限り、大体200年くらい大気中に存在し続けると言われています。すでに私たちは生態系が吸収できる倍以上のCO2を排出しているので、毎年蓄積されて、2000年レベルに維持しても気温は上がり続けるわけです。

これからどれくらいまでに気温上昇を抑えて温暖化の悪影響と共存できる道を探れるかどうかに掛かっています。すでに南の島では海岸浸食が発生しています。異常気象が増えています。


先進30カ国でCO2の80%を排出


小西:今、CO2の排出はどこの国が多いかというと、1位は中国、2位はアメリカ、日本は5位です。世界の主要な30カ国で排出量の80%を排出しています。残りの160カ国で世界の20%です。非常に不公平だと思いませんか。 一人あたりで見るとアメリカはCO2で1人20トン、日本人が10トン、中国は急速に発展しているといわれるが4.3トン、インドは1トンです。日本人はインド人の10倍排出して地球を痛めながら、快適な生活を送っているということになります。

国際協定をつくってCO2の排出量を減らしていかなければなりません。それで国際会議が行われています。京都議定書は2008年から2012年までに世界全体の排出を削減しましょうという取り決めです。実は2013年以降はなにも決まっていません。各国で利害がぶつかりあって決まりません。飢餓や貧困に苦しんでいる途上国では排出削減は考えられませんし、そういう国ほど温暖化の悪影響にさらされています。

私たちがCO2をがんがん排出してきたような経路ではなく、最初から省エネ型の開発を進めるよう技術移転をして、莫大な資金でそれを推進していかなければいけません。地球温暖化対策というのは先進国の莫大な資金をいかにして途上国に移すかということにつきるわけです。国際連帯税は非常に有望なオプションです。

佐藤:地方の自治体で働く労働者の組合、自治労の佐藤です。 自治労が参加する国際組織にPSI(国際公務労連)という組織があります。2月までそちらの組織で仕事をしていました。3月に日本に戻ってきました。

皆さんのお手元に国際労働運動の組織状況という資料が配られています。上の方にWFTU(世界労働組合連盟)があります。これは昔のソ連邦などの労働組合が中心になっている組織です。ソ連邦が崩壊したためにこの組織はほとんど影響力がなくなっています。その下のITUC(国際労働組合連合)というのがありますが、これは昔のICFTU(国際自由労連)とWCL(国際労連)という2つが統合してできた新しい組織です。日本の連合など各国のナショナルセンターと呼ばれる労働組合が参加しています。


全日本自治団体労働組合国際部長
佐藤克彦氏

その下にGUF(国際産業別労働組合組織)というのがあります。建設、林業、教育、化学、エネルギー、鉱山などの産業別の組合が参加しています。自治労は公共サービスの組合としてここにも参加しています。それとOECD(経済協力開発機構)の中に、ビジネスの代表のほかに労働組合側代表としてTUAC(労働組合諮問委員会)というのがあります。ITUC(国際労働組合連合)とGUF(国際産業別労働組合組織)とOECD-TUAC(経済協力開発機構・労働組合諮問委員会)の3つを合わせたものが、いわゆるGlobal−Union(グローバルユニオン)と言われています。

右側にTUSSO(労働組合連帯支援組織)というがありますが、これは先進国の政府と労働組合が出資している途上国支援組織で、ITUC(国際労働組合連合)とGUF(国際産業別労働組合組織)も財政的な支援をしています。このほか、皆さんがよく知っているILO(国際労働機関)というのが国連の機関としてあります。もちろん、私たちはNGO(非政府組織)とも常に協力しています。


労働組合の中に国際連帯税を浸透させていく


佐藤:昨年、インドネシアのジャカルタでワークショップを開きました。 私たちPSI(国際公務労連)とBWI(国際建設林業労組連盟)という2つのGUF加盟組織が一緒になって国際連帯税を促進しようとする会合でした。ACIST運営委員の上村雄彦先生に講演をお願いしました。そのあと、さまざまな活動を進めています。

ACISTやオルタモンドの方に情報を提供していただきながら、私たちも協力して活動を続けているところです。労働組合は大きな組織を持っていますが、まだまだ認識が薄いところがあります。労働組合の中に浸透させていくことが重要な問題だろうと思います。NGO(非政府組織)とも連携して世界的なネットワークを構築していきます。

狩野:日本リザルツは、世界から結核をなくしていこうという活動をしているACTIONグループの一員です。米国、カナダ、フランス、英国などの組織と協力し国内外で活動しています。

2009年末のWHO(世界保健機関)の発表では、世界で毎年940万人が結核に罹患し、180万人が死亡しています。極めて治りにくい多剤耐性結核(MDR-TB)の脅威が推定50万人に拡大してきています。ご存知の通り、結核は空気感染する病気です。中国・韓国といった隣国も多剤耐性結核蔓延国とされています。これから世界との交流がますます盛んになっていく日本では、隣国の脅威は自国の脅威になります。


日本リザルツ・ディレクター
狩野伊知郎氏

私は、昨年10月にパリで開催された国際連帯税の閣僚級ハイレベルタスクフォース創設会合、今年1月にチリのサンチアゴで開催された第7回国際連帯税リーディンググループ総会にオルタモンドの田中徹二事務局長と2回続けて国際会議に出席する機会を得ました。

チリの会合では、日本政府代表の外務省国際協力局地球規模課題総括課の植野課長が次回の第8回リーディンググループ総会の議長国に立候補し、参加国から拍手を受けた場にいあわせ大変感激しました。2006年の創設からわずか4年でリーディンググループが60カ国近くにまで拡大して国際的潮流になってきたことに感銘を覚えます。

世界の主要通貨である円を発行している国での総会開催は、今までの欧州中心の動きにアジアの主要国が加わったことでさらに拡大したと国際的には見られています。日本の市民社会・NGO・政府などは大いに期待されています。日本もこのような海外での動きと連携し、国際連帯税の実現に向かっていきましょう。


少しのお金で1人の命が救えます


狩野:パリ出張時に、フランスの航空券税からUNITAID(ユニットエイド:国際医療品購入ファシリティー)への流れについて調査をしてきました。

フランスは、航空券税という形で2006年から税金をかけ、その税収の大半をジュネーブのWHO(世界保健機関)の中にあるUNITAIDに流しています。国際線ビジネスクラス以上に40ユーロ、エコノミークラスに10ユーロ、国内線・EU域内線のビジネス以上に4ユーロ、エコノミーに1ユーロであり、これはフランスから出国するすべての航空機利用客に課せられます。これによる収入は年間2億ユーロと見積もられています。

またチリは国際線一律で2米ドルを課し、2009年は400万ドル、2007年以降総計1,100万ドルをUNITAIDに全額送金しています。2010年1月時点での航空券税実施国はベニン、ブルキナファソ、チリ、コンゴ、フランス、ギニア、象牙海岸、マダカスカル、マリ、モーリシャス、ニジェール、韓国の12カ国にのぼります。

すでに、これまでの3年間でUNITAIDを通じて10億ドル近くが結核、エイズ、マラリアの三大感染症の診断・治療に当てられました。この三大感染症で毎年440万人が死亡しています。この機関は資金供給機関であり、8つのパートナー機関経由で93カ国へ診断薬、治療薬、予防ツールを提供しています。年間数百億円という必ずしも大きな金額でない資金で大きな成果があげられることは大きな驚きです。

ケニヤの結核・エイズ活動家のルーシー・チェシーレ氏は、たびたび日本を訪れ、日本国・日本の市民の皆様に感謝を捧げると同時にこれからもアフリカなどの感染症高蔓延国を支援して欲しいと訴え続けています。結核の場合は。20ドルの薬で1人の患者が救えます。ほんの少しのお金で1人の人の命が救えます。国際連帯税の実現に向けてがんばりましょう。

金子:私は横浜市立大学の教員ですが、国際連帯税の関係ではオルタモンドの運営委員でもあり、ACISTの運営委員も行っています。さらに国際連帯税推進協議会委員もしています。国際連帯税推進協議会は寺島委員会と略称で言っています。

国際連帯税はフランスが音頭を取って進めているのですが、これを進めるにあたってはシラク大統領の下でランドー委員会(委員長のジャン=ピエール・ランドー氏の名を取って)という政府関係者、経済界、研究者、NGOなどが参加しての諮問委員会からのレポートがありました。ミレニアム開発目標のための新しい資金としてこんなものが考えられるということでまとめたものです。

寺島委員会の中間報告というのがお手元にありますので、それを見てください。座長は寺島実郎さんで日本総合研究所の会長で多摩大学の学長です。よくテレビにも登場していますね。あとは大学教授などの研究者、NGOメンバー、そして国会議員も入っています。オブザーバーとして外務省、財務省、環境省、世界銀行からも参加しています。

この委員会は国際連帯税(とくに通貨取引開発税)の内容を詰めていくのですが、密接に関わっているのが国際連帯税創設を求める議員連盟です。超党派で2年ほど前にできました。当時は自民党が与党で、民主党、公明党、共産党、社民党が参加していました。この当時は自民党の税制調査会の会長であった津島雄二衆議院議員が会長、自民党としても本気でやろうということでした。事務局長が民主党でした。その後政権交代があって与野党が逆転したために、現在は民主党の弘中和歌子参議院議員が会長です。この議員連盟と密接に関係して1年ほど前から寺島委員会というのができました。昨年末に中間報告を出しました。12項目からなりますが、メインとなる3、4、5、6のポイントだけ列記しましょう。


寺島委員会が昨年末に中間報告


金子:メインのポイントは、以下の4つです。
  1. 通貨取引税の導入はドル、ユーロ、円、ポンドの主要国が同時に行うことをめざす。
  2. 主要国をけん引するため日本単独でも円取引への課税を実施に移す。
  3. 税率は、短期・中期・長期で考え、初期段階ではミレニアム開発目標の達成のための税収を得ることを目的に0.005%から行う。
  4. 税収を徴収し、管理・分配する国際機関は透明で民主的でアカウンタブルな運営が保障される組織でなければならない。


国際連帯税推進協議会委員、
横浜市立大学国際総合科学部教授
金子文夫氏

課税対象は2項目目に書いていますが、決済取引を行う者から各国通貨発行国政府が徴収し、国際機関に拠出するとあります。主要国が同時にできないとしたら、まず日本は日本の円に課税することから始めるわけです。

今年になってから、この中間報告書は岡田外務大臣、菅財務大臣(現総理)もご覧になっています。岡田外務大臣は非常に積極的で前向きです。ある程度世界の足並みが揃わないとできないというのはあります。いかに各国が足並みを揃えていけるかが重要なのです。

この夏に向けて最終報告書にしていこうとしています。どこに課税するかですが、この報告書はかなり限定して通貨取引としていますが、もう少し広げて金融取引全般でどうかという声もあります。すでに一部で実施されている航空券への課税というのも実施されていいだろうと思います。8月までに最終案を策定したいと考えています。

司会:国際連帯税を実現するため、今後市民の皆さんにどのように周知・啓蒙していくのかについてお伺いします。


世界レベルのネットワークを


稲場:先ほど今の世の中は危機にあるという話をしました。危機に対する人々の対処の仕方には2つあります。

1つは自分の身を守ることで汲々としており、他人のことなんかどうなっても良い、自分だけが生きていければ良いとする考え方です。もう1つは危機にあるからこそ物事を長期的に考え、長期的な危機の解決策を見つけるため新たなビジョンを立てていくことです。

わが国では、自分の身を守る、今の生活水準を下げないという考え方の人が多いかもしれません。それが外国人を排斥するという方に行ったりします。今の危機は単にわが国の危機なのではありません。地球レベルの危機でもあるのです。それを認識した人たちが核になって、1つは政策提言を行う。もう1つは回りの人たちに呼びかけて知らしめていくことが大切です。

国際連帯税という1つの解決策があるということも言わなければなりません。知っている者たちの責務です。危機のレベルのサバイバルをどのようにしてパブリックなレベルにまで引き上げるのか、日本の多くの人に問うていくことが重要です。幸い、自民党の中にも、民主党の中にも国際連帯税をやらなければならないという層が存在しています。それを生かして世界レベルのネットワークを構築しないといけません。


地球全体のためになる仕組み


小西:日本はODAもやっているし、二国間援助もやっています。なぜ、さらに国際連帯税が必要なのでしょうか。

国際連帯税のメリットは途上国の貧困を解決したり、気候変動の悪影響に途上国が適応できるようにすることです。

その資金は、途上国が先進国のお情けにすがるだけではまかないきれない額となっています。2020年には温暖化の対応だけで最低10兆円ぐらいが必要だといわれています。それぞれの国に政治家がいて、首相や大統領がいて、私たちは税金を払っています。確かにわが国もODAや二国間援助をやっていますが、政権が変わるとこうした援助が不安定なものになりがちです。

政治家は有権者や納税者でもない人たちにお金を出すということに消極的です。国際連帯税のようなものを充てていかないと難しい。国際連帯税は1つのオプションです。

国際連帯税がただちにできるとは思いませんが、2020年に向けて継続してやるべき強いオプションだと思います。日本からの声として、日本が国際社会に向けて果たす責任としても大切です。日本は国際社会で姿が見えないと言われています。顔の見える援助でお金をだすというだけでなく、新たな仕組みを提案していかないといけません。地球全体のためになる仕組みを立ち上げることが重要なのです。