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CSRフラッシュ
シンポジウム
ミレニアム開発目標(MDGs)と報道を考える


2015年までに世界の貧困の半減をめざす「ミレニアム開発目標(MDGs)」。 9月20日から22日に達成状況確認のための首脳会合(MDGs国連首脳会合)が開催されます。しかし、国内におけるMDGsへの関心は依然として低いまま。日本の国際協力NGO59団体でつくる「動く→動かす」は、わが国の報道の第一線で貧困・開発問題に取り組んできた報道関係者とメディアリレーションに豊富な経験をもつNGO広報担当者をパネリストに向かえ、MDGs報道に向けた問題点などを語るシンポジウムを開催しました。


○シンポジウム参加者
日本放送協会(NHK) 解説委員 道傳愛子
共同通信社 編集委員 井田徹治
日本テレビ NEWS ZEROプロデューサー 山崎大介
フリージャーナリスト 志葉玲
特定非営利活動法人世界の医療団 広報担当 熊野優
司会 CSOネットワーク 共同事業責任者 黒田かをり

○問題提起(主催者:「動く→動かす」政策チームディレクター山田太雲)
ミレニアム開発目標(MDGs)は8つの目標からなっています。 1が「極度の貧困と飢餓の撲滅」、2が「初等教育の完全普及の達成」、3が「ジェンダー平等推進と女性の地位向上」、4が「乳幼児死亡率の削減」、5が「妊産婦の健康の改善」、6が「HIV/エイズ、マラリア、その他の疾病の蔓延の防止」、7が「環境の持続可能性確保」、そして8が「開発のためのグローバルなパートナーシップの推進」です。

1〜7は途上国の政府に対するもので、「貧困対策を重視した政策・計画・予算を策定し、実施すること。また、そのために市民社会に対する説明責任を求めています」。一方、8は先進国に対するもので、「途上国が積極的に貧困対策を行う際に、貿易のルールやお金の流れなどで途上国の努力にそうよう環境を整える責任が先進国にある」としています。

MDGsは世界の数十億人の生活を左右する大きな約束です。貧困者の多くはそれぞれの国における政治的発言力が弱い層だけに、政府が約束したことをどれだけ誠実に実行するのか、監視することが重要です。

MDGsは計画から10年が経過しました。残るは5年ですが、この間、世界で新たに3,000万人の子供たちが学校に行けるようになりました。しかし、課題も残っています。サハラ砂漠以南のアフリカでは5歳未満の乳幼児の死亡率はまだ7人に1人となっています。このままでは「乳幼児死亡率の削減」という目標の達成は2045年までかかってしまうと言われています。残された課題を見ると女性など社会的な差別を受ける弱い人たちに関する問題が浮かび上がってきます。

本日のシンポジウムで、以下の4点について議論が深まればと願っています。
1)日本で世界の貧困問題を報道する意義は、また障がいがあるとすれば……
2)NGOは十分な情報発信を行っているか
3)メディアとNGOの連携は可能か
4)受け手であると読者や視聴者はどういう役割をもっているのか

司会(黒田):9月20日から22日の間、ニューヨークの国連本部で国連MDGsレビューサミットが開催されます。日本では民主党の代表戦などの報道はさかんですが、MDGsの報道はほとんど見られません。まず、参加の皆さんに「日本で世界の貧困問題を報道する意義」に対する見解とそれぞれが「どのような取り組みを行ってきたのか」についてお話いただければと思います。

井田:私は環境問題の専門家ですが、貧困問題を先駆的に取り上げてきたかといわれればそうじゃないと言わざるを得ません。ただ、私のようなものでも先駆的に見えてしまうほど、日本のメディアは貧困問題を取り上げてきませんでした。 山田さんへのお答えですが、日本は世界とつながっています。世界の貧困問題は日本人にとっても知るべき問題です。知るべき問題であるにも関わらず、理解が進んでいない上に、多くの誤解があります。ジャーナリストとしては取り上げなければならない問題です。

動機ですが、環境問題をやっていますと、途上国の取材に出かけることも多いのです。環境破壊と貧困の悪循環が起こっているのが分かります。カンボジアに行ったときのことです。メコン川の流域にダムができて魚が獲れなくなり、川辺に住んでいた人たちが山に引っ越さないといけなくなりました。山に行って天然林を切って、カシュナッツを育てるわけです。やがて土地もやせ細り森林もなくなり、さらに貧しくなるというものでした。パキスタンの水不足の問題、ブラジルの森林破壊の問題も同様の背景です。


500人の子供を乗せた飛行機が1時間おきに365日墜落


2001年にセーブ・ザ・チルドレンのキャンペーン取材でアメリカに行きました。その記者会見の場で主催者から挑発的な発言がありました。世界で1歳の誕生日を迎えられずに亡くなる子供たちが年間500万人いるというのです。それは500人の子供を乗せたジャンボ機が1時間おきに世界のどこかで墜落し、それが365日続くのと同じだというのです。

貧困に対する想像力の欠如は、政治家だけでなく記者にも及んでいると思います。その記者会見が2001年9月10日。翌日の早朝に起きたのが9.11のテロでした。こうしたテロの背景にも貧困問題があるといわれています。NGOの皆さんにあえて申しあげれば、セーブ・ザ・チルドレンの記者発表のように刺激的なメッセージを発信してほしいということです。
日本のMDGs報道は、量的にも質的にも不十分な状況が続いています。


つながっている日本とイラク


志葉:
私は環境、平和、人権などをテーマにしてきましたが、これまで紛争地の取材が多く、イラクには計7回入りました。紛争地の取材をしているといろいろな問題がつながっていることがよく分かります。いまアメリカの戦闘部隊のイラク撤退が話題になっていますが、インクでは難民・避難民が国民の1/6にもなっており、ほとんど破綻国家の状態です。戦争は新たな貧困を生んでいます。たとえば、イラクで親を失った子供は450万人と言われています。戦争で父親を失った子供の多くは長男が学校に行かないで、家族を支えるパターンがほとんどです。

国際社会のイラクに対する関心が減っている中で、国連でさえも十分な予算を提示できないでいます。イラクの初等教育を見ると就学率は明らかに悪化しています。通常の年齢で初等教育を受けられる子供たちは44%にすぎません。学校に通っていてもドロップアウトしてしまうケースが増えています。一番大きな原因は貧困です。民主化のために戦争を進めたといわれますが、女性の権利の面でも悪化しています。宗教勢力が幅を利かせる中、女性がスカーフを被ることを強要され、仕事場に出てくるだけで脅迫されるという事態も起きています。それどころか治安が悪化しているため、女性や子供が外に出られないという状況さえ見られます。

私がこのような取材を続けている理由は、日本も無関係じゃないと思うからです。沖縄問題で抑止力ということが言われていますけれども、抑止力とされる海兵隊は日本を守るためのものではありません。2004年にイラクのハルージャーという町で大規模な戦闘があって、1万人ほどの人が亡くなっているわけですが、このときの米軍の主力が31海兵遠征部隊で沖縄のキャンプ・ハンセンで訓練を受けた部隊でした。日本で思いやり予算という名の税金を使って訓練された部隊がイラクに遠征しているわけです。日本は決して無関係ではありません。

道傳:東南アジアの政治経済とともに、地雷、HIV、難民など国を越える問題を取材してきました。きょうは私が関わった番組の映像をお持ちしました。のちほどご覧になっていただきます。

MDGs報道が重要な課題であっても、MDGsだけだとNHKの中でもそれなにということになりかねません。テレビの場合、なぜいまその問題を放送しないといけないかというタイミングの問題が重要です。職場の同僚の質問や視聴者の疑問にも応えないといけません。国連の○○○デーに合わせたり、日本でこういうキャンペーンが行われているからというタイミングを生かします。テレビメディアですので、具体的な取り組みやどなたか魅力的な発信をしている人物の発言を大切にしながら、映像を交えてお伝えすることが多いのです。
もう1つ大きな問題はどの枠で放送するかという問題です。朝・晩のニュースや解説番組であっても、「きょうはミレニアム開発目標についてお話します」といきなり切り出しても視聴者がチャンネルを合わせてくれるのかという問題があります。