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CSRフラッシュ
シンポジウム
ミレニアム開発目標(MDGs)と報道を考える

お金とメディアの縦割りに風穴を


志葉:
貧困の問題を日本に引き寄せて考えるところが以外と難しいと思います。お金の流れから見ていくことは非常に大事だと思っています。 2008年の食料危機のときにアフリカの国々で備蓄の穀物を売って借金を返した国がありました。そのような国々は食料危機が一層深刻になりました。なぜそのようなことになったのかと申しますと、IMFの構造調整プログラムでやったわけです。IMFに資金を供与している国の1つが日本です。いまパキスタンは洪水で大変ですが、パキスタンも準債務国です。建国以来の大洪水のときにそんな国から日本はお金を取るのかという議論はできると思います。メディアは縦割りでなかなか難しい問題があります。私もマスメディアで仕事をすることがありますが、そもそもフリーランスの人間を嫌がる風潮があります。外報部があるのになぜフリーランスがイラクにいって撮ってきた映像を使わないといけないのかという議論がでるわけです。お金の問題とメディアの縦割りの問題はあると思います。


視聴率は無視できない


山崎:
障壁だらけですね。視聴率の問題は大きいと思います。組織の人間ですから視聴率はなかなか落とせません。裏番組がどうだとかということをすごく気にしています。何が大事なことかということは十分知っているつもりですが、項目というニュースの順番のところは非常に神経を使います。「あと3キロやせたい」という視聴者や「あしたの子供のお弁当のことを考えている」視聴者に、貧困の問題を出すとキョトンとされてしまうのではとついつい考えてしまいます。見なきゃいけないと思わせる努力が必要なのです。外報部の先輩がいますが、NEWS ZEROは特派員からのニュースを買ってくれない(放送に取り上げない)といわれています。貧困の問題を取り上げるにはアイデアと情報が必要かなあと思っています。



司会(黒田):いまメディア側の放送枠や紙面といったキャパシティの問題、アイデアや情報の問題に入っていますが、井田さんからオルタナティブの情報が存在しない、それを出すのがNGOではないかという話もありました。先ほど、熊野さんから治療も大事だけど、NGOは何が起きているかを伝える役割があるという発言でした。NGOは報道をうながすためにどのようなことをやってこられたのでしょうか。


メディアの関心をひきつける情報の工夫を


熊野:
NGOは総合デパートではありません。治療という場合も特定の専門分野に特化してやっています。たとえば人権問題を扱うところ、環境問題を扱うところ、それぞれ特徴があります。治療と関係のある大元のところをお話する場合も自分たちの専門分野と関わりのある部分については詳しく説明ができますが、いま何が起きているのか包括的にパッケージで発信することは難しいのかもしれません。
これを解決するにはどうすればよいのか。メディアの求めに応えるためには、常に首尾よく情報を整え、データなども出しながら進めていくことが重要です。ここにアフリカのコンゴ民主共和国の話をするとします。どのような人が住んでいて、どのような問題を抱えているのかを簡単に説明することは簡単ではありません。ただ、携帯電話の一部に使われている希少金属を産出している国ですという一言で、メディアの皆さんの関心につながるかもしれません。新しいつながりが生まれるかもしれません。

司会(黒田):NGO側の発信ということで志葉さんいかがでしょうか。

志葉:海外にはケーブルテレビなどでパブリックアクセス枠のある国があります。市民メディアやNGOがつくった番組を一定時間流すという決まりがあります。日本でもそういうものがあってもよいのではと思っています。この前、国際青年NGOの会議に参加しましたが、本気でテレビがCSRフォーラム2010ということでパブリックアクセス枠を求めようということを言っていました。NGOの中にもこういうことを言い出すグループが出てきたのだなあと思いました。

NGOの方々もどうやったら情報発信できるのか、スキルを磨いてもらったらと思います。最近はユーストリーム(ライブ動画共有サービス)やツイッターなどメディアで活用できそうなものが登場しています。ビデオカメラも高性能かつコンパクトなものが出ています。テレビ局の人でも家庭用のハンディカムをもって取材している人もいます。

司会(黒田):メディアとNGOのおつきあいというのはどの程度あるのでしょうか。

志葉:人によると思います。日本の場合、最近になってNGOがメディアを重視するようになりました。洞爺湖サミットのNGOプレスセンターは画期的でした。個人のディレクターや記者とNGOが取材を通じて仲良くなっていくというケースも見られました。それが一番確実ともいえます。いままでは興味をもって近づいてくるメディアにNGOも依存していたのかと思っています。メディアの方も記者クラブの中にいるのではなく、NGOに近づく努力をしたらよいと思います。記者クラブの中にNGO枠があってもよいのかもしれません。

司会(黒田):NGO側の発信ということとNGOとメディアとの連携はどこまで可能かという点に移ります。

山崎:番組がどういう風に成立するかということですが、私も日本テレビの報道局にいますが、真ん中にセンターテーブルというのがあって、政治部、経済部、社会部、外報部があり、一日3回ぐらいそのテーブルを挟んで立会いというのがあります。取材先から下ろされたニュースをデスクと言われる人たちがプレゼンテーションをして、番組の編集がラインにのせて、項目立てに反映していきます。そこのシステムが出来上がっていますので、そのラインに乗せられるかどうかなのです。その議論の中に登場しないと切り捨てられる情報ということです。30秒数千万円の電波の価値の中で、頼むよという俗人的なものがどこまで通用するかです。

CDや映画会社などからは毎日のように売込みが来ます。それに比べたらNGOの姿はまだまだ見えません。NGO=報道番組という発想だけでなく、音楽番組と絡めるなど柔らかい発想のアイデアに私たちも期待しています。メディアとコミュニケーションの場をNGOもつくっていって欲しいのです。

井田:私はNGOの手先だと思われています。グリーンピースのことを知っているかというような話は全部私のところに来ます。私自身はNGOにどれほど取材でお世話になったかしれません。実は記者クラブというのは10数人の記者がいて同じ話を聞かされるわけです。NGOと仲良くなって聞く話にはほかでは聞けない面白い話があります。いまNGOといったのは大部分が国際NGOです。きちんとしたファクトを集めて、NGOなりのリサーチをして、違った見方をわれわれの周りに提示して欲しいのです。そのときに自分たちが集めたファクトと主張をきちんと区別することが大切です。ここらへんが曖昧だと「うさんくさいなあ」ということになります。

日本でNGOという存在は非常に難しい立場にあります。社会的な認知の対象になりません。ただ、きちんとした資料を持ってくれば初対面でも会ってくれるメディアはあります。私は人と違うものを書きたいという希望があるのでちゃんと受け止めます。外国のNGOがメディア相手にどのような活動を行っているのか勉強もしてください。

道傳:タイにいたときにタイのNGO、欧米のNGO、日本のNGOの皆さんにお世話になって、いろいろなニュースを日本に向けて報道しました。ただ、NGOの方がファックスで情報を流しても、ニュースセンターには山ほどファックスが届いています。


緑黄色野菜をおいしく調理する


欧米の子供番組をつくっているディレクターに聞いた話ですが、「緑黄色野菜であってはいけない」と言われました。緑黄色野菜が身体によいことはだれもが知っています。しかし、いきなりほうれん草を生で食べろといわれても子供たちは振り向きません。「開発や貧困の問題は大事なことだから取材してください」と言われても、なかなかそのような流れにはなりません。ほうれん草はこんな料理にすれば子供たちも食べるよという知恵が欲しいのです。

もう1つ言うと、現場でインタビューをする際にはもう少し簡潔なお話しを心がけられてはいかがかと思います。テレビの場合は時間の制限がありますので、問題の根源の話からお話されても放送されません。先ほどのインドの校長先生のように「インドのどこが大国といえましょうか」というようなところからお話していただくと、ええっとなるわけです。


2010年9月


9月17日(金)〜19日(日)

貧困をなくすために“立ち上がる”
世界同時イベント“スタンドアップ”
STAND UP TAKE ACTION