« CSRマガジントップへ
CSRフラッシュ
シンポジウム
ミレニアム開発目標(MDGs)と報道を考える

貧困や識字率の問題をやさしくお茶の間に


私が扱ったのはお昼のスタジオパークという番組で、「暮らしの中のニュース解説」というコーナーでした。そういう時間帯で「世界の貧困」といってもどれだけの方が見てくださるのかと同僚も心配してくれましたが、スタジオの公開収録の経験では貧困や識字率の問題であってもしっかり見ていただけるという確信がありました。正味6分の長い放送ですが、早回しをしますので見てください。今年4月に放送したものです。

○放送から
「世界中の子供のうち働いている子供は7人に1人といわれ、7,200万人の子供たちが学校に通えないでいます」という男性アナウンサーの声。「きょうのテーマは世界一大きな授業ということですが、どんな授業ですか」と道傳愛子解説委員にバタンタッチ。「世界一大きな授業でギネスブックの記録にも挑戦するようです」という道傳さんの言葉のあと、「世界180カ国のNGOが協力して行う授業で日本では300校4万人が参加します」『教材には「どうして外で授業を受けているのだろう」という質問もあります。アフガニスタンの内線で校舎が破壊されて外で授業をしているわけです』「(世界の)学校に行けない子供たちのおよそ半分にあたる4,000万人の子供たちが紛争で学校に行けなくなった子供たちです」と解説も。

続いて、インドで私立の学校を運営している教育者のコメントで「インドは世界の経済大国として成長しているが、どこが大国なのだろうか」という強烈なメッセージが。この教育者は、女性、少数民族、カーストの低い子供たちの教育で奨学金を出したり、制服を支給したり、教材をただにしたりということをしながら、教育をしている。「親が学校に行けないと子供たちもいけないという貧困の連鎖が続いています。教育にはこうした悪循環を断ち切る役割があります」と道傳解説委員。このあと、「私たちが学校で眠たくなりながら授業を受けているとき、どこか遠くの国ではきょう生きるために働いている子供たちがいるかと思うとやりきれない思いだ」というこのイベントを企画したNGOから集めた日本の子供たちの感想を最後のまとめに使っている。


私は伝える仕事をしていますが、国連、政府、外務省、JICA、NGOの代弁者ではありません。イベントなどの取材では何を伝えるのか、いつも自分の視点で伝えることが問われているのです。なるべく日本に引き寄せて伝える、日本との関連でどうなのか、世界で起きていることであっても日本や日本で生活している私たちと決して無関係ではないというメッセージとして伝えることができればと思っています。このときは識字率の話でしたが、これをきっかけとしてODA、アフリカ、アジアの子供、ジェンダーなどの問題を考えるきっかけになればと考えています。

山崎:日本テレビのNEWS ZEROという番組のプロデューサーです。この番組は今年の10月で5年目を迎えます。報道の原点に返りたいということで、ゼロという言葉使いました。そのあと、キリンビールとかでもゼロという商品が出てきました。最初の企画書に「日本をよくすることに貢献したい」と書きました。若い人たちにニュースを見てほしいということで「ニュース、スポーツ、カルチャー」を核に若い人にも興味を持ってもらえる報道番組をめざしています。

ワイドショーと一線を画したエンターテインメントからいまが見えるということで、映画や音楽もニュースの価値として伝えられたらと思っています。アンジェリーナ・ジョリーさん(UNHCR親善大使も務める人気女優)がパキスタンに入ったというニュースも報道しました。ジョージ・クルーニー(2005年映画『シリアナ』でアカデミー賞主演男優賞)に取材する機会があり、「なぜアフリカに行くのですか」と質問したところ、「私は医者でもないし看護士でもないから目の前の人間を助けることはできないが、皆さんがいるでしょう」という答えでした。つまり報道がテレビカメラをもってついてくるところに意義があるという考えなのです。


アーチストの社会貢献という切り口でハイチ大地震を支援


日本の芸能界では世の中のためになることは影でこっそりやるものだという考えでしたが、最近は大きく変わりつつあります。ハイチ大地震の際には、Love for Haitix ZERO というハイチ救援ライブを若いタレントとともに開催しました。また、ライブのダイジェストを深夜の特別番組で流し、そこでも救援の活動を行いました。ハイチ大地震は遠い国の問題で、ニュースのプライオリティとしては端っこの問題かもしれません。しかし、タイミングがうまくあえば、視聴者にも見てもらえます。NEWS ZEROでは、アーチストの社会貢献という切り口で、貧困問題なども取り上げていけるのではいないかと考えています。


医療活動の背後にある課題を掘り下げ、伝える


熊野:
NGO世界の医療団の広報を担当しています。きょうここに並んでいる皆さんとは少し立場が異なりますが、活動の紹介だけではなくて、どうやって活動の中身までを知っていただくかという視点からお話させていただきます。世界の医療団というのは、医療チームを世界の被災地などに派遣しています。現在、世界78カ国352の場所に派遣しています。日本の方々に私たちの活動を紹介することにどんな意義があるかということですが、お医者さんや看護士さんが被災地の緊急支援活動を行っているのは報道でよく見ていると思います。ところが問題の根本のところはあまり見られていません。

たとえば、川に子供が流されていればおぼれないように助けると思います。ところが駆けつけて子供を助けると上流から子供がどんどん流されてきます。実は川上で子供をどんどん落としている人がいたのです。私たちの役割には、子供を治療する、助けるだけでなく、どうしてこのような子供たちが生まれてくるのかということを伝える役割もあります。現場をもつNGOとしては、触れなければいけない問題です。

MDGsのようなグローバルイシューについてはNGOも情報を発信する責任があります。どうしたらより広く深く情報を出せるかという部分では、ここに並んでいるメディアの皆さんと同様の責任があると考えています。

司会(黒田):井田さんがおっしゃっていた報道関係者の想像力が働かないというお話ですが、本来は遠い現場と私たちをつなぐべき役割であるにも関わらず、関係がないように考えているから想像力が働かないのかなあと思いました。伝えることの難しさだと思います。井田さんは量も質も足りないということですが、新聞の紙面やテレビの番組に取り上げるにあたって何が障害になっていると思いますか。


メディアの競争が足りない


井田:
原因としては、メディア側が切磋琢磨していない、メディアの中に競争がないことが挙げられます。もう1つは外国の場合ですが、英語の壁という問題もあります。英語の情報はあふれているのですが、日本のメディアが非常に内向きな部分があって、情報を取りきれていないという課題があります。また、貧困問題などのニュースは編集者に受けないという問題もあるでしょう。

アフリカというと、貧しい、ガバナンスが悪くて政府が腐敗しているというステレオタイプの情報しかありません。20年間そういうアフリカ報道をやってきたわけです。そんな情報はもう読者からは飽きられています。実は新しいことは起きているのだけど、伝え切れていないという問題があります。ステレオタイプというのは楽なのでなかなか新しい報道はできません。

貧困のようにグローバルで多面的な問題へのアプローチでは、多元的な取材とともに、経験が必要となります。報道を肉付けするには国際的なシンクタンクの取材や研究者の取材、NGOの取材も必要となります。その際に英語の壁が立ちはだかります。
日本だと霞ヶ関の役人の官製情報に依存できるわけです。ところが霞ヶ関ではオルタナティブな情報に肉薄することは難しいのです。これを提供できるのがNGOだと個人的には思っています。


もぐりこませる知恵を


道傳:
井田さんと重なる部分はありますが、タイミングという問題は大きいと思います。きょうあたりでいえば、台風や民主党の代表戦などニュースのオーダーが決まっている中でアフリカや貧困の問題はなかなか入りにくいという問題はあります。テレビのニュース番組の時間も限られていますし、新聞の紙面も同じです。NGOの情報発信でいえば、その中で伝える側の「もぐりこませる知恵」が求められると思います。組織は国際部、政治部、社会部と分かれています。たとえば世銀の総裁が来日するときにだれがインタビューするのかという問題が出てきます。おのずと経済部長とか政治部長になるわけです。みんなやりたいのだけど誰が責任を持ってやるのかという組織の構造的な問題はあります。