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中立的な立場で捕鯨問題を俯瞰した渾身レポート!鯨問題の基本を知らない日本人必読です。

クジラをめぐる戦争



プロローグ:今年もゴジラとの戦いが始まる


Diplomat誌の『クジラをめぐる戦争』の最新記事へようこそ。
「ゴジラと捕鯨船の対決」――ある日の新聞の見出しは派手にはやし立てた。
日本の捕鯨船団は11月末に計画されている直近の南氷洋への調査の準備を進めていた。他方、過激な反捕鯨・環境保護団体であるシーシェパードは、その新型アンチ捕鯨船を日本映画史上もっとも有名な怪獣---ゴジラにちなんで名づけ、戦いを仕掛けてきている。日本のゴジラの生みの親たちはゴジラが故国の捕鯨船と戦うような事態をよもや想像だにしなかったに違いない。

「この夏をとおして日本の捕鯨船団の活動を停止させるためにはこの反捕鯨船が重大な役割を果たすことになるだろう」とシーシェパードの船員であるジェフ・ハンセン(Jeff Hansen)は11月29日にオーストラリアのフリマントルでレポーターたちに語った。シーシェパードは市長の支援を受けてフリマントルで登録されている。

他方、捕鯨船側は違法行為を阻止するために日本の海上保安庁の保安官をその船団に乗船させる計画であると報じている。外交面では、捕鯨支持国と反捕鯨国に分裂した国際捕鯨委員会(IWC)に対抗する新たな捕鯨支持組織の立ち上げを日本が計画しているという別の報道もあったが、オーストラリア政府は日本の調査捕鯨に反対して国際司法裁判所(ICJ)への提訴を続けていた。

いずれにせよ、つまるところはいがみ合う両国の海上そして外交上での決戦が繰り広げられることになる。映画『ゴジラ』シリーズの新エピソードというよりは、むしろこのドラマの主な登場人物たちにとっては今シーズンもまた 『恋はデジャ・ブ(Groundhog Day)』 のように同じことの繰り返しになるのだろうか?

毎年恒例の調査捕鯨を前に、Diplomat誌では日本の捕鯨産業の論理的根拠と将来について日本国内外の専門家の見解を詳しく調査した。捕鯨支持者はこの産業を日本の文化的慣行と見なしているが、これを批判する人々は捕鯨を「日本にとっての緋文字(Scarlet Letter:捕鯨は重大な罪であり、その罪を重く受け止めて日本は相応の贖罪を要すべきことであるという認識)」と考えている。歩み寄りの兆しはほとんどないが、現在の対決状況の継続に賛成する者もいなかった。


日本が商業捕鯨を続ける理由


「日本人は9,000年以上にわたって鯨肉を食べ、鯨骨、鯨の脂身そして油を利用している」と財団法人日本鯨類研究所(ICR)の広報担当者であるグレン・インウッド(Glenn Inwood)は語った。

1987年に農林水産省の所管で設立されたICRは、南極および北大西洋西部で行われる日本の捕鯨調査プログラムに責任を負っている。こうした調査プログラムは国際捕鯨取締条約(ICRW)の第8条に則り正式に実行されている。

インウッドによれば、ICRが運営する捕鯨会社である共同船舶(編集部補足チャートご参照)は来たる2010/11年のシーズンにはおよそ850頭のミンククジラと50頭のナガスクジラを捕らえる計画であり、この数字は「統計学的に役立つ情報を手に入れるために必要最小限のサンプルサイズである」という。

日本の捕鯨船団は通常は11月前半に出航し、翌年3月には帰港を開始し、日本には4月に帰国する。しかしながら、今年の出港遅延の報道によって捕鯨期間が短縮されるのではないかという憶測が飛び交っている。

南極を囲む南氷洋クジラ保護区での日本による捕鯨を非難しているオーストラリアとニュージーランドの両政府は、この動きを歓迎することだろう。日本の反対にもかかわらずIWCが1994年に設定した5,000平方キロメーターの保護区を両国は全面的に支持している。

「オーストラリア・ニュージーランドの両政府は南氷洋からあらゆる捕鯨活動を撲滅する意志があることを明らかにしています」とインウッドは述べた。

「両政府はNIMBYな姿勢――好ましくないものを他所に設置するのはいいが自分の近所には絶対いやだという典型的な地域エゴの姿勢(not in my backyard)――をとり続けており、この姿勢こそがこうした国々が日本の調査プログラムを重視する理由をある程度説明しています」

さらにインウッドは次のように付け加えた。「反捕鯨NGOそしてその他の団体は、日本の調査が南氷洋保護区に違反したものだという発言によってあからさまに人心を間違った方向へ導いているのです」

「商業捕鯨活動にのみ保護区が適用されるというのが事実です。調査捕鯨に対する許可証の発行を可能にするICRWの第8条に則って実行される活動は、条約のあらゆるその他の側面の対象外なのです」

日本は1986年以降その調査捕鯨プログラムのもとで12,000頭を超す鯨を捕獲している。1986年と言えばIWCが商業捕鯨一時禁止を成立させた年である。1986年には商業捕鯨産業の規模は1億米ドルと見積もられたが、近年では売り上げは5,000米ドル以下に落ち込んでいる。そして、2,000件の雇用を生み出している日本の捕鯨産業が収支を合わせるためには2008/09年には1,200万米ドルの年間補助金を必要とするものと推定された。

しかしながら、日本の領海外での捕鯨はかつての西側同盟国とともに環境団体の激しい怒りを引き起こした。2010年5月にIWCでの交渉に失敗したときにはオーストラリアの不満があらわになった。オーストラリア政府は日本の調査捕鯨に反対してICJで法的行為に出ることで要求水準を引き上げたのである。

「私たちは南氷洋において科学の名を借りてクジラが殺される行為に終止符を打ちたいのです」と提訴を発表するにあたって当時のオーストラリアのピーター・ギャレット(Peter Garrett)環境大臣は述べた。日本の外務省広報担当官はこの動きを「遺憾である」と表現した。

法的措置の有効性を疑いながらも、アデレード大学のジョエル・ラサス(Joel Rathus)は「オーストラリア政府が『わが国の領海』と考える地域内での捕鯨に反対しているのは明確です」と語った。

「クジラを捕獲するために商業船隊を調達して地球を半周するのにやぶさかでないというのであれば、これを伝統的な漁業とか調査捕鯨とか呼ぶことはまずできません――これはわざわざここまでやって来て保護区からクジラを捕獲するという故意の行為なのです」とラサスは述べた。

テンプル大学日本校のジェフ・キングストン(Jeff Kingston)教授はこの行為を日本による外交上の「オウンゴール」であり、国際社会における環境保護の分野で日本が果たした確かな実績に対する汚点であると説明した。

「日本の捕鯨政策ほど世界的な非難を招いた政策は他に例がありません」とキングストン教授は語った。

「日本において捕鯨から利益を享受する人々の数は最小限であり、捕鯨がもつ経済的重要性は最小限であり、鯨肉は日本人のタンパク質摂取量の1パーセントにも満たないのです。この問題を乗り越えるために日本政府がどれだけの苦悩を抱えるかを考えると、日本国内にもその支持者がほとんど存在しない政策を政府が推進し続けるという事実はまずもって信じがたいことです」

それでは日本が捕鯨を続ける真の理由は何なのだろうか?