« CSRマガジントップへ
Home > 海外最前線レポート > クジラをめぐる戦争

『規制の虜(regulatory capture)』


日本の捕鯨擁護者は国のアイデンティティーの一部としてこの産業を支持している。そして、捕鯨に反対する西側対立国の「人種差別主義的」姿勢を非難している。

「シーシェパードやグリーンピースなどの反捕鯨環境団体の中にはその意見広告のうちに人種差別主義が垣間見えるものがあり、シーシェパードはとりわけ人種差別的組織であり反日感情を公にしていると多くの日本人は考えています」とICRのインウッドは語った。

「南氷洋保護区における日本による捕鯨を妨害しようとしているシーシェパードなどの活動によって、日本国内での捕鯨に対する支持がむしろ高まっているのです」と指摘しているのは東京を本拠地に活動するジャーナリストのデヴィッド・マクニール(David McNeill)だ。

シーシェパードのアディ・ギル号と捕鯨船第二昭南丸が2010年1月に衝突し、その後アディ・ギル号のピーター・ベチューン(Peter Bethune)船長が逮捕された。この出来事は海外の「エコテロリスト」疑惑に反対する日本人の愛国心に一層火をつけることになった。

「日本のメディアはベチューン船長が昭南丸に乗り込み一人のクルーに対して暴力をふるったことを重点的に報道しました。ところが現実にはベチューン船長は過激な自然保護論者には『ほとんど何の共感をもたずに』アディ・ギル号に乗船していたのです」とマクニールは語った。

「プレスは水産庁から手がかりを得ています。そして公海上で日本の船団に攻撃を加えたこうした愚か者たちを見ろ――私たちはついにその一人を逮捕した――というのがメディアの切り口でした」とマクニールは述べた。

「日本人の大部分は捕鯨を支持していませんが、反捕鯨に賛同してもいません。日本には捕鯨の正当な権利があり、違法性はこちらにはないというのが日本の方針です」

「日本による海外での捕鯨活動は外圧に対して『その指を突きつける』めったにない機会を日本に与えています」とマクニールは語った。

「外交政策のことになると、日本は欧米諸国などによる外圧のまったく言いなりになっています。怒りをあらわにするチャンスすらないのです。ところが、捕鯨は日本が自らの意志を主張できる一つの分野なのです。ある意味では外国からの圧力が日本側のキャンペーンを増幅させています」とマクニールは述べた。

商業捕鯨禁止後にいくつかのクジラの種に回復が見られているという報告もまた、全面禁止ではなく捕鯨産業に対して科学に基づいたアプローチを取るべきだとする日本の要求を後押しした。

最近のIWCの年次総会で発表されたその記者会見メモでは日本はその目的が以下であることを提示した。「科学的根拠のある捕獲割り当てや有効な強制措置を含む国際的管理のもとで数多く生息する種を実現するための持続可能な捕鯨を再開すること[が日本の目的である]・・・私たちは絶滅の危機にひんした種の保存と保護に熱心に取り組んでいる」



しかしながら、オーストラリアのシンクタンクであるローウィー国際政策研究所(Lowy Institute for International Policy)のマルコム・クック(Malcolm Cook)は、日本の捕鯨政策は選挙で選出された政治家よりも官僚が長きにわたって優位に立っている国によく見られる昔ながらの『規制の虜』(訳注:独占的な利潤を生産的な活動に振り向けず、既得権益保持のためのロビー活動に使用し、官民癒着をもたらす)の一例であると指摘している。

「規制の虜こそが日本の捕鯨産業が継続している理由であり、日本がこれから逃れることを想像するのは困難です」とクックは述べた。

「政府歳出の一部として、捕鯨補助金は非常に重要な位置づけにあり、与党が保有する沿岸捕鯨地域の中の特定の地区は捕鯨継続に向けた高い政治的既得権益を有しています」

「日本政府内部の多くが捕鯨は経済的利益をもたらさないにもかかわらず日本の評判をおとしめていることを認識していることは確かでしょう。しかし、つまるところ産業、地方政治、そして官僚制度の支配体制がタッグを組んで産業の継続に取り組んでいるのです」

「官僚はもう一つの『天下り』先、つまり退任後のもう一つの就職先を守ることにむしろ関心をもっています」とテンプル大学日本校のキングストン教授も政官業の支配体制の存在を否定しない。

「捕鯨は言い訳に過ぎません――その国民の大部分がクジラを食べない国において捕鯨を助成することに加えてICRの主な機能の一つは、高位の退任する官僚に対して居心地よく実入りの良い閑職を提供することなのです」とキングストン教授は指摘した。

キングストン教授によれば、水産庁は国会議員で構成される捕鯨を支持するロビイスト団体を生み出した――このグループが捕鯨に関する歳出予算に確実に賛成票を投じていたのである。反捕鯨の立場をとる世界自然保護基金が発表した2009年の報告書では、日本の捕鯨産業の捕鯨運営にかかる増加するコストそして減少する収入をカバーするために、1988年以降捕鯨産業に対して総計1億6,400万米ドルの補助金が提供されていると見積られている。

キングストン教授によれば日本における鯨肉の消費は『人為的に作られた伝統』であり、第二次世界大戦後までは全国的に広まることはなかった。戦後間もない時期こそは鯨肉は学校給食での主なタンパク質源であったが、高濃度の有害化学物質に対して厚生労働省が懸念を表明したことから給食メニューからはずされてすでに長いときが経過している。