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カルチュラルインテリジェンスをめぐるストーリー
カルチュラルインテリジェンス: 世俗的企業の新たなるマントラ
アドリエヌ・ジョーンズ(Adrienne Jones)著



カルチュラルインテリジェンス(Cultural Intelligence、別称Cultural Quotient: CQ)――それはグローバル企業の舞台では感情的知性(Emotional Intelligence、別称Emotional Quotient: EQ)の後を継ぐ新たな経営のマントラ(真理を表す秘密の言葉)のような存在だ。

この言葉は、不慣れな環境で文化的相違を尊重する一方で、企業が有効に経営する能力を意味している。実際、かつて欧米の経営者たちはこの概念を『自分のお腹をこすりながら頭を撫でようとするようなものだ』と揶揄したものだったが、いまやそれが急速に高い地位を獲得している。

グローバリゼーションは企業の地勢を作り変え、企業の学習能力は新たな景観に精通し、異文化経営哲学を曖昧な経営用語から現実の世界のサイエンスへと突然変異させた。異文化間スキルの技量を磨くための心理学的前提条件として、カルチュラルインテリジェンスはグローバルに足場を固めようとする企業の最高経営責任者(CEO)やその他の上級管理職といった役職にある人たちにとっては身につけることを義務づけられた能力である。

オーストラリアそしてアジア太平洋地域の上級管理者たちがカルチュラルインテリジェンスを備えた人材としてその厳格な基準を満たしているか否かはさておくとしても、企業の大半が実際にこうした厳格な基準が必要であるという現実を受け入れていることは明らかである。

世界的な金融危機が起こったことで、トレーニング・プログラムの機能が損なわれ、国外に駐在する管理職の能力が損なわれるのではないかという不安の引き金が引かれた。そしてこの地域の人材担当のマネージャーたちは現時点では進化の途中にあるこの概念のすべての複雑さを理解し始めたに過ぎない。しかしながら、全般的な予算削減にもかかわらず、国際的な企業トレーニング・プログラムが資金面で苦労をしているという兆候はほとんどない。エグゼクティブ(企業幹部)向けの講座を提供しているビジネススクールやコーチングスクールは「従来と何ら変わりのない入学者数を予想している」といまだに口を揃えている。

いかにも、世界的な金融危機の後遺症にあえぎながら世界中の経済が再調整をする中で、異文化経験豊富なグローバルなエグゼクティブに対する推進力はどちらかといえば加速している。

オーストラリア人的資源研究所(Australian Human Resource Institute: AHRI)のピーター・ウィルソン(Peter Wilson)所長によれば、最近のAHRIによる調査の対象となった企業の3分の2は『金融危機をきっかけに自社の社会的責任プログラムを強化した』と回答している――企業の社会的責任(CSR)はカルチュラルインテリジェンスと暗黙のうちにつながっているのだ。

「この2つの概念は非常に緊密な提携関係にあります。近年では、CSRに対して責任を負うには十分に開発された異文化間スキルが必要となります」とウィルソン所長は語る。「多様性に対処する能力が高くなければ、実際にはCSRを可能にすることはできません――そして国際的な企業にとっては、これを実現する要因の一つが強力な異文化間開発プログラムなのです。」

「グローバリゼーションの影響は永続的です。世界的な金融危機は著しい矯正をもたらしましたが、連続性を破壊してしまったわけではありません。トップ企業は自社の人材開発を継続し、すべてのオーストラリアの企業も『自社の人材を国際的なエグゼクティブにするためにトレーニングする』というこの革命の一翼を担っているのです。カルチュラルインテリジェンスは講義要項に永遠に掲載される科目の一つというわけです」とウィルソン所長は付け加えて述べている。

北京の北京大学国立開発学院(National School of Development)の経営学教授兼ブレリック国際学部長であるオーストラリア人の行動科学者、ブルース・ステニング(Bruce Stening)教授は、「中国に拠点を置く多国籍企業には深刻な人員削減はまず見られていない」と語っている。

「今回の金融危機は企業よりもむしろ個人に影響する公開講座に影響しています。と言うのは、もしトレーニング予算を削減してしまったらその他の問題が起こります。企業はこうした予算をあっさり削減することはできないという現実を理解しているのです」とうステニング教授は述べている。

この地域の異文化間経営の分野では最前線に立つ専門家の一人であるステニング教授は「文化的相違の理解、そして国境を越えた実効性のある経営は、今回の金融危機をきっかけにグローバルな企業にとってよりいっそう重要な事柄となりました」と指摘する。