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「グローバリゼーションについての世間一般の通念の多くに反して、文化的価値はいまだにきわめて深く根差しており、認識されているいずれの収束も表面的なものにすぎないという一貫した証拠が存在しています」とステニング教授は続けて述べている。

「世界はフラット化してきているという命題はビジネスのやり方に関することで、『こうした国境を越えたビジネス展開そのものがいまではまったく容易になった』ということを意味しているのではありません。この命題をめぐっては本質的な議論が続けられていますが、文化的相違はいまだに著しく、そう考えない人は世界を実際に目にしていないという見解を私は強く支持します」と教授は語っている。

「今日の欧米では、合併と買収で失敗したくなければ、こうした問題に対処しなければならないことは一般によく理解されています。と言うのは、ダイムラー社とクライスラー社のようなケースは巷にいくらもあふれているからです。ある2つの企業が合併し、その企業文化が異なったままだったら――ダイムラー社とクライスラー社の場合には非常に異なる国民文化という問題がありました――、こうした相違を原因に取り組みは突然停止してしまうのです。」

「世界的な金融危機はこうした問題をより関連のあるものとしたにすぎません。競争はますます熾烈になり、競争力をつけるには、企業はこれまでよりもいっそう本当の意味で明敏であることを求められるようになったのです。」

欧米でのチャンスに注目するアジア企業の間でカルチュラルインテリジェンスの枠組みに対する関心が高まっているという現実は、シンガポールの南洋理工大学の南洋ビジネススクールのリーダーシップ・カルチュラルインテリジェンス・センター(Centre for Leadership and Cultural Intelligence: CCI)のエグゼクティブ・ディレクターであるスーン・アン(Soon Ang)教授にとってはまったく意外なことではなかった。

アン教授はこう述べている。「これまでは、欧米企業は人材、あるいはより低価格な輸出市場を求めて中国やインドに向かっていました。しかし今では、世界中の、とりわけオーストラリアとアフリカのあらゆる資源(人的資源、天然資源を含めて)を手にして、中国がその逆を実行しようとしているのです。」

アン教授はカルチュラルインテリジェンスという概念の生みの親の一人であり、これをテーマとした草分け的な著作を2003年にP.クリストファー・アーリー(P. Christopher Earley)と共著で出版している(Cultural Intelligence: Individual Interactions Across Cultures, Stanford University Press)。

「国際的マネジメント教育に対して欧米企業が目に見えて高い関心を示しているのには2つの根本的な理由があります。1つ目にビジネススクールでは圧倒的に欧米で作成されたマネジメント関連の教科書が使われていること、そして2つ目に沈黙というアジア特有の文化の存在があります」とアン教授は語っている。

「経営慣行の多くは欧米で著された教科書の中で論じられています。世界中で利用されているあらゆる経営関連の教科書のうち実に90%は米国、オーストラリア、そして英国で著されたものです。つまり経営慣行を理解するという観点からは、アジアというコンテクスト(訳注:コミュニケーションを成立させる共有情報)はほとんど体系化されていないのです」とアン教授は指摘する。

「1980年代に日本経済が急成長を遂げて初めて人々は日本的な経営スタイルについて耳にし始めるようになりました。しかしながら、南米の経営スタイルについては皆何も知りませんし、アジア的な経営スタイルや中国的スタイルについては無知もいいところです。こうした点にこそ本当の意味での知識の欠落があるのです。」

アン教授は次のように付け加えている。「もう一つの原因は、沈黙というアジア特有の文化の存在です。アジアには沈黙は尊敬に相当するという考えがあります。私たちアジア人にとっては多くが暗黙のうちにわかっていることであり、直接的な講義というアプローチから学ぶよりも、私たちは環境の中で観察と手がかりを頼りにすることがほとんどです。こうした現象を正しく認識することは欧米の人々にとっては実に困難なことでしょう。」

メルボルン・ビジネススクールのマウントエライザ・エグゼクティブ教育のクラレンス・ダ・ガマ・ピント(Clarence Da Gama Pinto)・プログラムディレクターは、中国とインドのリーダーシップ・スタイルを研究テーマとしている。ピント・ディレクターは「中国企業は、技術とオーストラリア的な物事のやり方を学び、これを中国に移転することを目的に豪州企業の子会社をしばしば買収しようとします。」と語る。

「こうして中国企業が豪州企業を買収すると、トップ管理職の役割は中国共産党との関係の管理であり、企業の経営そのものはオーストラリア人の経営者に任されたままになります」とピント・ディレクターは述べている。

しかしながら、「文化的なレベルでは中国人経営者とオーストラリア人経営者は互いの理解に困難を実感することになります」とピント・ディレクターは指摘する。

「両者はともに学習しなければなりません。というのも今や経営陣は中国人だからです。オーストラリア人の経営者はインド人の経営陣の手なずけ方を学ばなければならないのと同じように、中国人のボスの操作方法を学習する必要がでてくるでしょう。中国人側に言わせれば、立場は逆転してしまったのです」とピント・ディレクターは語っている。