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北京を本拠地とするマネジメント・コンサルタント兼コーチであるマリナ・ユー・チャン(Marina Yue Zhang)博士は、中国および欧米の経営者たちを対象に異文化間スキルを教授している。チャン博士によれば、カルチュラルインテリジェンスの欠如は双方向の誤解の原因となり、ビジネスにとって潜在的に深刻な結果をもたらす危険性があると指摘している。

チャン博士は、フランス系のスーパーマーケット・チェーンであるカルフールを脅かした北京オリンピック中に発生した事件を例に挙げて説明している。カルフールは中国最大のスーパーマーケット・チェーンの一つである。

この事件では、フランス人抗議者が車椅子に乗った中国人競技者による聖火リレーを妨害した事実を受けて、激怒した中国人市民がカルフールをボイコットしたのだ。ところがこの聖火リレーの妨害行為をすみやかに非難するどころか、カルフール側は守りに入った対処をした――しかもそれも遅きに失するものであった。

「カルフールは中国ではフランスを象徴する存在であるためスケープゴートにされました。そしてこの遅すぎた対応を中国国民はある種のフランス的な優越感ないしは傲慢さと解釈し、事件全体が雪だるま式に悪化してしまったのです」とチャン博士は語っている。

彼女は、カルフール側の『認識の甘さ』とオンライン技術のスピードと組織的潜在力に対する『認識の欠如』を指摘している――このどちらもカルフールにいかにカルチュラルインテリジェンスが欠如していたかを明らかに反映していると言えよう。

しかしながら、カルチュラルインテリジェンスの原則はアジアというコンテクストに明確に吸収されつつある。

南洋理工大学のエグゼクティブ養成講座では、今後同校を志望するすべての学生に対して海外留学前にカルチュラルインテリジェンス・コースを履修することを義務づけている。そしてごく最近、2009年のアジアでの津波とパダン地震の発生を受けて、シンガポール軍の災害救助チームをサポートすることを目的にカルチュラルインテリジェンスに関する訓練を受けた心理学者を同大学のリーダーシップ・カルチュラルインテリジェンス・センターでは任命した。

「チーム・メンバーはそれぞれの専門的能力をもとに選抜されましたが、一夜にしてこのチームは被災地域で団結して作業に当たらなければならなくなったのです」とアン教授は語る。「そこで私たちは指揮官の目と耳になるようにカルチュラルインテリジェンスについて訓練を受けた心理学者を現地に派遣しました――メンバーたちの士気や、チームの分裂、そして現地の人々との間に発生する誤解といった問題に対処するためです――こうすれば、指揮官は人道的任務に集中することができると考えたのです。こうした理由で、シンガポールは平和維持においてきわめて有能なのです。と言うのも私たちは文化の仲介者であり、そうした能力が私たちのDNAに組み込まれているからなのです。」

マネジメントの専門家によれば、カルチュラルインテリジェンスは異文化間チームワークも促進するという。そんな事実は、オーストラリアのロッド・モアハウスASEAN通商担当にとっては耳寄りな情報である。

オーストラリアでは最近、ASEAN域内貿易の急増について産業界に概要を伝えるため――さらには2015年までには欧州連合スタイルのASEAN共通市場が登場する可能性があることを説明するために――モアハウスASEAN通商担当は、オーストラリアの企業に対して自社のASEANについての「見方」を再検討することを要請した。

「ASEANに加盟する10ヶ国それぞれについて個別に調べるのではなく、オーストラリアの企業は、各国を非常に多様で、とても困難で、さらにとてつもなく複雑なASEAN全体を構成する不可欠な要素として認識する必要があるのです――それぞれの文化の総和としてASEANという文化の共通性を理解しようと努力して欲しいのです」とモアハウス通商担当は述べている。

「それは共通性に取り組むという問題であり、それから関係をつうじて相違がどのように相互作用するかその答えを出す作業です。道理にかなった出発点はシナジーであり、それから相違に関する意見を積み上げていけばよいでしょう。」 「すでに複数の文化を横断する仮想チームワークをモデルとして、オーストラリア貿易促進庁(Austrade)のチームは同様な課題に対応しています」とモアハウスASEAN通商担当は語っている。

彼はこう続けて述べている。「しかしながらこれは一方通行の試みではありません。ASEANにおいて圧倒的な存在であるアジア文化を理解する義務が私たちにあるのと同じように、ASEAN各国の人々にも等しく責任があります――それはアングロ・サクソン文化を含めてASEANにかかわってくる文化を理解することにほかなりません。」

- アドリエヌ・ジョーンズはメルボルンを拠点として活動するフリーのライターである。