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労働時間による差別の撤廃は世界の流れ。
「世界でも稀なセーフテイネットがゼロの国、それが日本です」。
拓殖大学国際学部 長坂 寿久 教授


オランダモデルは誤解されている?

Q:2000年に『オランダモデル〜制度疲労なき成熟社会』を出版されましたが、ようやく日本でもオランダのワークシェアリングが注目されています。
長坂 まず、言葉の定義ですが、「政府」、「企業」、それにNGO/NPOな ど市民社会団体の3つのセクターが対等な関係で話し合い、合意しつつ三位一体で社会経済の仕組みをつくっていく、それが「オランダモデル」です。マスコミ 等ではワークシェアリング=オランダモデルと誤解されている向きもありますが、ワークシェアリングはオランダモデルの一部にすぎません。

 オランダモデルとは、いわゆるオランダ型ワークシェアリングを含む、「オランダ経済の奇跡」をもたらした一連の経済政策については、干拓の国オランダの意味を込めて、オランダでは「ポルダーモデル」と呼ばれています。

 大きな意味でいうと、改めて21世 紀に民主主義をどのように機能させるか、そのための仕組みづくりともいえます。つまり、今まで“政府”と“企業”との合意だけで作り上げてきたシステムに 限界が来て、崩壊しつつある、そこに第3の市民社会セクターが対等な関係で参画することで、もう一度、民主主義を機能させる仕組みをつくろうということで す。実際には欧米でさえ、必ずしも市民社会セクターは大きな力を持つわけではなく、これから40〜50年かけて世界が目指そうとしているモデルだといえます。それをすでに体現しているのがオランダで、それをオランダモデルと呼んでいるわけです。

 オランダでは経済政策については、労働組合が市民社会セクターの役割を果たしており、政労使の三者が対等な関係で話し合ってできあがったのがオランダ型ワークシェアリングです。

Q:オランダ型のワークシェアリングの特長とは?
長坂 労働時間差による差別を禁止する(注1)ということですね。同じ仕事であれば働いた分の賃金を受け取ればよいのであって、フルタイムなど労働時間が長い人が一方的に有利なレートの給与を得るといった格差を作らないということです。
労働時間差による差別を禁止したことで、パートタイム労働が促進されると同時に、女性もまた自己実現しながら働け、普通の人々が2つの人生を生きることも可能な社会になりました。例えば、土日以外に月曜日を休んで写真家の学校に行き、同時にキャリアを追求するということも可能なのです。
男女平等で働く場合も、夫婦で働いて家族所得を2倍に増やすアメリカ型ではなく、アメリカの場合は家族所得を1.0から2.0へと移行する過程でもたらされた家族の崩壊など社会問題に対する反省から、オランダ型では2人で1.5人分にして0.5人分は家族を大切にしようという働き方をつくりあげたのです。たとえば、1.5のうち1.0が男性でも女性でもよいし、夫婦が0.75人分ずつ働き2人でウィークデイも子どもと一緒にいられる日を増やすという方法もあります。どれを選択するかは夫婦で話し合って決めればいいわけです。こうした家族の合意による自由な働き方の導入によって、出生率も上がってきたし、女性も自己実現しつつ家族を大切にする21世紀型の働き方を実現しつつあります。

(注1)1996年に労働時間差差別を法的に禁止したオランダ
これによりオランダではバートタイム労働が急増していった。また、企業の経営者側は、従業員からフルタイムからバートタイムへの移行、バートからフルへの移行の要請があった場合にはこれを最優先で対応する旨の法律も導入した。