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Home > 識者に聞く > [短期シリーズ:いま改めて、CSRを考える] 21世紀は企業とNGOとの“相克と協働”の時代へ [前半]

企業とNGOには“洗練された戦い”が必要?


企業とNGOとの理想の関係性とはどのようなものでしょうか?

寺中:僕は長坂先生に比べて少しペシミスティックな言い方に聞こえるかもしれませんが、現時点において、企業とそして市民社会の代表と“称する”NGOとの関係は、“冷静かつ洗練された戦い”であるべきだと思っています。

仰るとおりNGOと同様に企業もまた社会の代表ではありえませんし、さらに言うと企業は経済的に強いもの勝ちという側面があるのも事実です。NGOは“お客様のため”を優先する企業に対して、実は“お客様”はこのように考えていますと伝えることで対応しようとしています。今の日本では企業とNGOが会話するルートを開発している最中で、それが一連のCSR活動だし、企業もNGOも対話をするための最前線となるフロント、窓口を作っているところです。

僕がNGO側で危惧しているのは、このフロントが企業側に取り込まれてしまったらおしまいだということです。そして企業側も(無意識にNGOと接するのではなく)自社の経営理念に根ざしてフロント(前線)を形成する必要があります。両者が洗練された形で対話することで新たな意見形成のシステムを構築することができるかもしれませんが、今の段階はまだ戦いが端緒についたばかりだと思います。

長坂:現状が戦いというのは仰るとおりです。NGOは時にはパートナーシップ(協働)戦略とアタック(攻撃)戦略を使い分ける、一方で企業側もNGOに“聞く耳”を持ちつつ、是々非々で取り入れることも(両者の関係性が成熟するまでは)必要かもしれません。
CSRのブームは終わったと言う人もいますが、21世紀の新しい戦いというと語弊があるが、相克と協働、新しい胎動は始まったばかりです。そのことを企業も市民セクターはもちろん、両者をジャッジするメディアが認識することが、とても重要だと思います。

寺中:僕には、本当の意味で企業とNGOの協働がありえるのか分からない、と感じる部分もあります。
CSRの観点で製品サービスを開発する企業が増えていますが、完全なビジネスにCSRという言葉をくっつけたにすぎない場合も多いと感じます。もちろん、コストの問題でやらなかったことをCSRの観点で組み込み、社会への負荷が軽減するなら100%否定するものではないかもしれません。しかし、通常のビジネスはCSR活動ではない。ビジネスをCSRと言い換えている企業はブームが終わればやめるでしょうし、本当にそのビジネスが社会で持続性を持たなければ、必ずしっぺ返しを受けてしまうと思います。
企業とNGOとは“洗練された戦い”の中で協働する場面があっても良いですが、対立構造がある前提であって、対立が全くない協働は何か (CSRとは)全く違う別なものであり、それを肯定したり望むべきものではない気がします。僕は企業とNGOは異なるもの、はっきり対立した存在だと線を引いた上で、互いにどうしましょうと向き合うほうが、古典的な在り方かもしれませんが、新しい成果を生むことができるのではないかと思います。

長坂:私が言う“本業にCSRを取り込む”“企業とNGOが協働する”重要な意味は、NGOが企業をモニタリングできるからです。企業が「きちんとやっています」といっても誰も分からない、それをモニタリングするのがNGOの役割です。本業の中にNGOが入ることで、企業にモニタリングシステムを組みこむことができます。NGO自身にモニタリング機能がなく、企業のプロジェクトに参加するだけであれば、企業がNGOに寄付する社会貢献活動と全く変わりません。

寺中:企業に有利な形で使われるだけとなる危険があるということですね。

長坂:そして繰り返しますが企業サイドに言いたいのは、CSRを経営システムにきちんと組み込むことは国際的な動向で、日本企業がその対応を遅らせれば遅らせるほど欧米の多国籍企業との競争力が落ちていく、(過去にも日本企業に様々な危機が訪れましたが)次の危機はCSRへの対応の遅れが招くのではないかと懸念しています。


長坂 寿久(ながさか としひさ)氏(左)
拓殖大学国際学部教授(国際関係論)。現日本貿易振興機構(ジェトロ)にてシドニー、ニューヨーク、アムステルダム駐在を経て1999年より現職。2009年にオランダ-日本の交流に長年寄与する功績により、オランダ ライデン大学等より蘭日賞を受賞。主要著書「NGO発、「市民社会力」−新しい世界モデルへ」(明石書店、2007年)、「オランダモデル-制度疲労なき成熟社会」(日本経済新聞社、2007年)など。近著「世界と日本のフェアトレード市場」(明石書店、2009年)

寺中 誠(てらなか まこと)氏(右)
学生時代からアムネスティ・インターナショナル日本(注)での活動を行い。2001年からアムネスティ・インターナショナル日本の事務局長に就任。共著に「インターネット法学入門」(日本評論社)、共訳書に「日本の死刑廃止と被拘禁者の人権保障」(日本評論社)、「入門国際刑事裁判所」(現代人文社)など。

*アムネスティ・インターナショナル日本
英国に国際事務局を置くアムネスティ・インターナショナルは人権侵害に対する調査と独立した政策提言、ボランティアによる市民の力に基づいて活動する国際的な人権団体で、世界150カ国に180万人超の会員、サポーターを有する。アムネスティ・インターナショナル日本は世界に50以上存在する支部のひとつとして、日本国内でキャンペーン活動を展開する。