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CSRフラッシュ
5月8日は世界フェアトレードデー特集 (3)
援助よりも公正な貿易を!
第3回 社会への浸透
国際シンポジウム「フェアトレードの拡大と深化」から
第3回 社会への浸透

途上国と先進国。南と北の格差が縮まらない。援助や慈善事業も大切だが、途上国の人々との公正な貿易によって自立への歩みを支援するのはどうだろう。フェアトレードは60余年の歴史がありながら、日本ではまだまだ立ち遅れている。先ごろ東京経済大学学術研究センターとフェアトレード学生ネットワーク(FTSN)の主催で行われたフェアトレードをテーマとした国際シンポジウムから、フェアトレードを取り巻く最新の動きについて4回にわたってお伝えしよう。第3回目のテーマは「社会への浸透」である。



健全な競争に打ち勝てる品質と魅力を

○参加パネラーの発言要旨


カルメン・イエツィさんの発言から
アメリカにおけるフェアトレードは、第二次大戦後、教会の布教活動の一環としてプエルトルコからの手工芸品、ドイツからの仕掛け時計の輸入などから始まりました。
やがて政治活動の側面も入り、80年代にはネパールやチベットから手工芸品、ニカラグアからコーヒーなどへと広がっていきました。

当初、会員には途上国から入ってきた産品であるとの認識すらなかったが、次第に生産者と消費者の関係を知るようになりました。消費者として考えれば、品質、価格、そして社会的責任の順となっていると思います。

品質向上のためには投資も必要です。私としては、消費者の購買行動を変えるのが目的。氾濫するラベルの問題はあるが、フェアトレード本来の基本理念だけは譲れません。

●カルメン・イエツィさんのプロフィール
米欧間の諸問題を調査研究する団体に勤務するかたわら、アメリカを代表するフェアトレード団体「テン・サウザンド・ビレッジ」の活動に関わり、2006年から北米を中心とするフェアトレード団体の連合体「フェアトレード連盟(FTF)」の事務局長を務める。

左から
森下樹里さん、
上田誠さん、
カルメン・イエツィさん


ジャン・マリ・クリエさんの発言から
ヨーロッパはフェアトレードで60年の歴史を持っています。
本格的に発展したのは1970年代から。オランダ、ドイツ、オーストリア、スイスなどに広がり、2007年の時点で33カ国に3,200カ所のワールドショップと63,600店のスーパーマーケットが参加して、だれもが手軽にフェアトレード産品を買えるようになりました。2007年から2008年の1年間で28%の売上拡大が。

問題は、さまざまなラベルやロゴが氾濫していることと、一部で認証マークを付けないで売っているものがあること。国によって法律で規制すべきだという声もあります。

私は多様な活動があるからこそ強みが現れると考えています。一番の課題は、成長ではなく生産者から喜ばれる仕組みをいかにつくるかにあります。

●ジャン・マリ・クリエさんのプロフィール
オーストリアの代表的なフェトレード団体のマネージャーを務めた後、フェアトレード支援団体fairfuturesを主宰しつつ、開発協力NGO「kommEnt」副代表(評価・研修・フェアトレード担当)を務める。『ヨーロッパのフェアトレード』などを著書・報告書などを多数執筆。


上田誠さんの発言から
オルター・トレード・ジャパンは、生協・市民団体・個人を核にした民衆交易が原点。
フィリピン・ネグロス島からの黒砂糖のマスコバド糖やバランゴンバナナの輸入などを行っています。1980年代半ばに砂糖の価格が暴落し、農園主は作付けを控えるようになると農園労働者は職を失い、子どもたちが飢餓に襲われたのがきっかけです。

1986年に「日本ネグロス・キャンペーン委員会」を設立。現地の人々の自立には、自給農業を立ち上げるとともに、農産品の流通の仕組みをつくることが欠かせないと分かりました。ネグロスの代表者であるアラン・シー氏が日本国内の生協や市民団体との話し合いの中で、現地の伝統的な製法でつくられた黒砂糖を買い付けてくれないかという呼びかけをし、それに応える形でマスコバド糖が輸入され、続いてバランゴンバナナも輸入されるようになりました。

グローバル化の波は、いのちと暮らしを支える基本であるはずの農業と食の分野にも押し寄せています。消費者と生産者、南と北の共生を目指す人々の交流を進め、これまでに1,500人の日本の消費者がフィリピンに訪れています。

●上田誠さんのプロフィール
オルター・トレード・ジャパン(ATJ)専務取締役。開発協力NGO「オイスカ」のスタッフとしてバングラデシュに赴任し、農村開発に従事。その後、民間企業に勤務ののち、アメリカの大学で国際開発学修士課程を修了。帰国後、(財)国際開発高等教育機構(FAISD)を経て、2001年にオルター・トレード・ジャパンに入社し、2009年より現職。


胤森なお子さんの発言から
1991年に発足したNGO「グローバル・ヴィレッジ」が1995年にフェアトレード事業を法人化して「フェアトレードカンパニー」となり、私も参加しました。
現在、ピープル・ツリーのブランド名で15カ国50の生産者パートナーと連携し、衣料品、雑貨、食品の開発・輸入・販売を行っています。

NGO「グローバル・ヴィレッジ」はイベントやキャンペーンを通じたフェアトレードの啓発活動に力を入れています。ピープル・ツリーは、伝統技術や手仕事を生かしながら、消費者に求められる品質とデザインを目指し、フェアトレード商品のメインストリーム化を目指してメディア戦略も担当。
「私はあなたの会社の服を着ています。あなたの会社はつくる人の権利を守っていますか」といったメッセージを発信しています。

国際的に活躍するデザイナーとのコラボレーションによる新たなマーケットづくりや女優エマ協力により、まだまだ低い若い世代の認知にも努力。企業や他分野のNGOとの連携により、社会の認知度を高めていきたいと考えています。

●胤森なお子さんのプロフィール
ピープル・ツリー常務取締役/広報ディレクター。1995年よりボランティアとして関わる。1999年に編集・広報担当のフルタイム・スタッフとなり、編集、広報、キャンペーン企画など幅広い業務を担当。2001年に広報・人事の役員に就任し、フェアトレードのスポークス・パーソンとしてセミナー講師などを務める。2006年より現職。

左から
ジャン・マリ・クリエさん、
胤森なお子一さん、
進行役の小松豊明さん


森下樹里さんの発言から
フェアトレード学生ネットワーク(FTSN)は関東、関西、九州、北海道、四国に支部があり、学生有志の参加で運営しています。毎年夏に全国サミットを開催、合宿に集まった仲間でフェアトレードウォークなどのアクションを立ち上げています。

最近の成果としては、タリーズコーヒーにフェアトレード・コーヒーを扱って欲しいと依頼するため、全国22大学、27団体、1,099人の署名を集め、2008年5月10日の世界フェアトレードデーに全店で実施してもらいました。また、フェアトレードを知らない人たちのために、フェアトレードウォークのパレードのほか、埼玉県でアグネス・チャンを迎えたトークショーも開催。

フェアトレードは、商品を理解し、生産者の方々の背景を想像して、その商品に価値と愛情を見出す素敵な行為です。思いやりの心が目に見える形で具現化されたもののように思います。

●森下樹里さんのプロフィール
フェアトレード学生ネットワーク関東支部代表。埼玉大学経済学部学生。2009年2月にフェアトレード学生ネットワーク(FTSN)関東支部代表に就任。FTSNは2004年から活動を開始し、地域ごとの普及活動のほか、年1回「学生サミット」を開催している。