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今さら聞けない
CSRの素朴な疑問


Q11. ダイバーシティってなんですか?

企業の成長戦略として注目されたダイバーシティ&インクルージョン


2008年秋のリーマンショック直後、自動車業界が生き残りをかけて2つの方向性---同じ価値観(国籍)を持つ企業同士の再編と価値観の違う企業同士のアライアンス---に向かうなか、フランスのルノー社と協働する日産自動車のゴーン社長は、日産自動車がマルチカルチャーに向かう強みを問われ、異なる文化や考え方を尊重することで“多様なパートナーと長期的な関係が築けること” “(モノカルチャーが硬直的になりやすいのに対して)変化に対応しやすい”ことを挙げた。


CSR(企業の社会的責任)におけるテーマの一つと位置付けられるダイバーシティ(Diversity=多様性)は、ひとことでいえば“人材の多様性への対応”。つまり企業は、個人の外的な属性(国籍、人種、性別、年齢、障害の有無など)や、内的な属性(宗教などの価値観など)にかかわらず、平等に登用する社会的責任があるということだ。

ダイバーシティの概念は1960年代から米国に存在したらしい。その結果、米国には(例えば日本のように企業に対して障害者の法定雇用率を定めていないが)“人種や障害等によって就業や学業の機会を差別してはならない”という確固たる法律が存在する。

並行して、障害者が教育や社会に参加する取り組み、インクルージョン(Inclusion内包すること。社会の一体性)の概念が生まれ、ダイバーシティは---あくまでも“違い”を意識した多様化の推進とともに、社会に多様な人間を内包し一体となる-- “ダイバーシティ&インクルージョン”へと進化した。現在はCSRのテーマとして “ダイバーシティ&インクルージョン”を掲げる日本企業も多い。

このように“ダイバーシティ&インクルージョン”は企業や地域の社会的責任を遂行するために生まれた概念だが、それが2000年後半から日本企業に浸透した一因は(もちろん、日本で2000年以降、CSRが浸透したことと足並みを揃えているのだが)、冒頭で紹介したゴーン社長の言葉のように、グローバル化する企業のビジネスにおいて“多様な人材の活用”が成長戦略に不可欠な時代となったことも大きいと考えられる。


ワークライフバランスに留まらない、真のダイバーシティへ

欧米に比べて、日本では異なる民族や文化に根ざした人間同士が暮らす機会が圧倒的に少ない。そのため、日本におけるダイバーシティは、当初は女性の活用、障害者雇用への視点から始まった。ワークライフバランスの推進---これもダイバーシティの取り組みの一つだ---も当初は、女性(特に結婚して子供がいる女性)が働きやすい職場づくりが中心であったが、徐々に男性や高齢者も含めた雇用環境づくりへと視点が広がりつつある。そこには団塊の世代の一斉退職が始まることで企業における人材不足が懸念される“2007年問題”や、リーマンショック後の経済環境下において、企業が改めて戦略的な人材活用を求められたことも背景としてあるだろう。

一方で、“人材活用の多様性”には、雇用形態の多様性も含まれるが、派遣村で注目された派遣社員や非正規社員の雇用問題は解決しておらず、さらにはダイバーシティにおいて一つの重要テーマである「外国人労働者」の人権問題や雇用環境の適正化については、日本では、必ずしも本格的な取り組みが進んでいない。

さらに、ダイバーシティは単に企業にとどまらず、私たち一人ひとりの暮らし、地域社会でのテーマでもある。近年、「多文化共生」という言葉を耳にする。地方の中小企業を中心に製造現場等では既に外国人労働者が重要な労働力となり、また例えば、日本でも試験的に2010年から3年間でミャンマー難民90名の受け入れがスタートする。否応なくグローバルする現代において、“日本の成長戦略”としても、われわれ自身の“ダイバーシティ&インクルージョン” が不可欠な時代となっているのかもしれない。

(2010年8月)