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月商売上70万ウォン、 将来の夢は会社経営!
「WATCHSON」
学生CEO
李珉英さん(3年生)


1.子供の頃からショッピングが大好き
幼い頃から李さんは母から「一緒に買い物行く?」と言われると飛び跳ねるぐらい喜んでついて行く子どもだった。市場に行くといろいろなものがあって、見ているだけで楽しくて迷子になることもたびたびあった。中学生になると「自分でショッピングモールを運営したらどうかな」と思い始め、ソンイルeビジネス高校に入学することを決めた。


2. 苦労の連続から新たな希望へ
<学校の創業資金制度を利用>
運営スタートは2009年12月。ちょうど学校で創業資金を提供する制度が作られ、100万ウォン(約8万円)の支援を受けることになった。もともと時計が好きだったので、そのお金を持ってすぐ輸入時計の問屋がずらりと並ぶ南大門市場に出かけた。
毎週末毎に市場に顔を出しているうちに、店の人達から声をかけられ、高校生でショッピングモールを運営したいと伝えると「高校生なのに偉いね。もし売れ残ったら、返品してもいいよ」という心優しい店主から仕入れることになった。

<実践で学びながら運営>
選考するe-bizコンテンツ科でウェブデザインに必要なフォトショップ、フラッシュ、HTMLなどを勉強したのが大変役に立っている。さらに部活でウェブデザインの専門家を招き、写真撮影や広告マーケティングを実践的に学んだことも非常に役に立った。
放課後にはすぐ南大門市場に行って新商品を購入し、週末にまとめて撮影した商品写真に詳細に説明文をつける。配送も毎日が基本だ。広告は特に行わず、最初は友達や知人を中心に告知していたが、今はブログに商品の説明を書きこんだりして宣伝している。
注意していることは、南大門市場で商品を仕入れる際に絶対大量に購入しないこと。在庫が残ると、大量に返品するのも迷惑なので、売れそうな商品や新商品のみ慎重に選んで購入する。

<CS(顧客満足度向上)の難しさ>
李さんは、一回購入した顧客が再度購入してくれるように、さまざまなサービスを行っている。配送時には定型文ではなく一人ひとりに違う内容で直接メールを送る。感謝の言葉とともに、クーポンを付けてメールを送ると、同じお客様が再度購入するケースが多いこともわかってきた。

難しいのは、お客様から電話などで問い合わせがあった場合だ。まだ学生で声が幼く感じるせいか、顧客から軽視されるケースもままある。そういうお客様にはクーポンを付けてメールを送り、再購入してくれた際に、おまけのプレゼントを同封して喜んでいただく。

ショッピングモールを運営するのに最も難しい点は?と聞くと「時間不足」「寝不足」との答えが返ってきた。他の学生と比べて、学校の勉強とネットショップ運営という「二足のわらじ」なので、いつも時間が足りない。寝る時間を削るしかないので、毎日寝不足だ。それでも売り上げが伸び、お客様とのやりとりが楽しいと時間が経つのをすぐ忘れ、夜遅くまで仕事をするのが日常となっている。


3. 今後の目標
いままで10代~20代の顧客に時計を販売するなかで、彼女は面白い現象に気づいた。
なぜか、一人のお客様が自分用と似たような時計を2個買う。というのも、韓国ではファッションも指輪も「恋人同士のカップルで同じものを購入する人が多い」のだ。
そこで現在、彼女はカップル用の時計を準備している。さらにカップル用アクセサリーやカップル用Tシャツの販売も検討中だ。

最初はネットの写真もキレイではなく、運営も下手だったので、月刊売上が10万ウォン(約8千円)ぐらいだったが、現在は1カ月で70万ウォン(約5万円)ぐらい。今年の売上目標は1000万ウォン(約80万円)である。
今は一人で運営している小さなショッピングモールだが、何年後かには従業員も採用して、年間売上3,000万ウォン(約230万円)以上を上げることが大きな夢だ。

エピローグ:亡き教え子への後悔を胸に

インタビューの最後に洪校長は、一昨年自殺し国民たちに大きな衝撃を与えた韓国のトップ女優チェ・ジンシルが実は校長の教え子であったことを話してくれた。当時、校長は体育教師で、普通の高校生だったチェさんは放課後よく洪先生のところに来て「先生、早くバレーボールしよう!」とせがんだそうだ。とても可愛らしい生徒だったが、当時は今のように熱血先生ではなかった洪先生とチェさんは単に普通の教師と生徒として接していただけだった。

ところがある時、 「普通の教師から普通の校長になっていた」洪校長に転機が訪れた。
偶然ディズニーランド創始者であるウォルト・ディズニーの記事を読んだのだ。
ディズニーランドを訪れる多くのアミューズメントパーク関係者に、ウォルト・ディズニーは求められるままに、参考資料をどんどん与えていたという。
ディズニー関係者が「重要情報をどんどん分け与えていたら、すぐに真似されて、結局ディズニー固有のノウハウがなくなって、顧客を奪われてしまいますよ」というと、ウォルト・ディズニーは、こう言ったと書かれていた。

  「彼らにすべての資料を与えても唯一真似できないものがあるのさ」
  「それはね。子供を愛する心だよ!」

このやり取りを読んだ洪校長は大きなショックを受けて、深く自分に問いただした。
「自分の周囲には貧しい学生が沢山いる。心に傷を負った子供たちも沢山いる。自分は教師として彼らを本当に愛する心を持っているのか?」と。

その瞬間から洪校長は180度変わった。 学生の目線で、学生が自立する道を模索し、今日のソンイルe-ビジネス高校を作り上げたのだった。

「今ならチェ・ジンジルにもっと深い愛情で接することができる。当時の私は義務として教えるだけで、愛がなかったんですよ!」と洪校長は悔やむ。その後悔から彼女の葬儀に出席できなかったと、話す校長の目は潤んでいた。
「実は私も彼女の大ファンです!」と言いたかったが、言うと私の目からも涙がこぼれ落ちそうでその言葉を飲みこんでしまった。

取材を終えて、校庭を見て回った時、可愛い笑い声でグラウンドを走っている20数年前の彼女の姿が浮かんできた。私は高い空を見上げながら心の中でそっとつぶやいた。

「チェ・ジンシルさん、あなたを心から愛せなかった校長が、今あなたの後輩たちに愛情をたっぷり注ぎ、彼女たちが自立できるように立派に育てていますよ!これから校長の愛で育まれたあなたの後輩たちが世界に羽ばたいていく姿を見守ってくださいね」と。

(2010年7月取材)

申 美花(シン ミファ)氏
1986年文科省奨学生として来日。慶應義塾大学商学博士。立正大学経営学部非常勤講師、立教大学大学院21世紀社会デザイン研究科非常勤講師などを兼任。著書は共著として『Live from Seoul』、『日本企業の経営革新―事業再構築のマネジメント』など。日本と韓国企業における経営全般でのコンサルティング事業にも長年の経験を有する。現在、SBI大学院大学准教授。
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●北尾吉孝氏編著「起業の教科書」
筆者を含むSBI大学院教授陣による共同著書「起業の教科書」(東洋経済新報社)が、八重洲ブックセンター「社会・経済・ビジネス部門」週間ベストセラーランキング(2010.08.01~2010.08.07)で第1位に。↓
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