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シネマ&ブックレビュー
長坂寿久の映画考現学

長坂寿久の映画考現学-7
『リローカリゼーション(地域回帰)の時代へ』
未来への希望の道筋を示す映画として


「リローカリゼーション」とは何か

21世紀において、これからの私たちは、「グローバリゼーション」ではなく、限りなく「ローカリゼーション」(ローカル化)へ向かう発想へと転換する時代にあるのだと思う。

「ローカリゼーション」とは「グローバリゼーション」と対峙する言葉である。グローバリゼーションのすべてに問題があるわけではない。しかし、とくに「経済」のグローバリゼーションがもたらした格差拡大と地球環境問題という世界的・地球的問題については誰もが、何とかしなければならないという認識をもっているだろう。ここでは単なる「反グローバル化」論として「リローカリゼーション」を語っているわけではない。私たちは、持続可能でかつ平等なすべての人に人権が認められる“私たちが生きたい社会”を作りあげるために、再び新しい「共同体」(コミュニティ)を取り戻す必要がある。

つまり、グローバリゼーションではなく、ローカリゼーションへ向かって発想を転換する思考を取り戻す必要がある。そこで、私は、『地域回帰』という意味で「リローカリゼーション」という言葉を使うことにした。

グローバリゼーションという言葉も日本語としてすっかり馴染みが出ているので、リローカリゼーションも馴染みのある言葉になっていくことを期待している。地域回帰、リローカル化、再地域化、共同体/コミュニティの復活、村の再生といった言葉でも一向にかまわない。

リローカリゼーションには二つの方向があると考えられる。一つは、「地域」の再生である。経済のグローバリゼーションによって破壊されてしまった「共同体/コミュニティ/農村」の新しい作り直しである。共同体の中に「互助精神」を復活すること、新しい「公共圏」を地域から作っていくことである。地域のことは地域の人びとが決めていく、みんなの幸福やみんなの尊厳については、みんなでかかわっていく、そうした地域をつくっていく運動としてのリローカリゼーションの方向である。

もう一つは、地球の再生へ向かう方向である。ローカリゼーションによってグローバリゼーションの弊害を抑制し、ローカルのネットワーク(提携)、つまりローカル・ツー・ローカルの国際的な(国内間でも)結びつきによって、地球を、環境と人間性(人権)を新しく作り直していく運動としてのリローカリゼーションの方向である。

自分の「村のことだけを考える、かつての「おらが村」ではなく、世界の他の村と連携した、開かれ、つながる「新しいおらが村」である。

私たちは地域において、地域の危機について話し合い、危機を分かち合うことから生まれる英智によって、お互いの助け合いと結び合いが生まれ、人間同士の“お互いさま”が生まれ、相互扶助の気持ちが復活し、互助精神が定着していく。それは地域に新しい「公共圏」が生まれることを意味し、それが国際的なネットワークで結ばれることによって、地域と世界の問題が解決されていく。そこに住み生活している人びとの智恵の輪で助け合う輪が生まれ、「公共福祉」社会へと向かっていく。それがリローカリゼーションへの思考転換である。


経済のリローカリゼーション(リローカル化経済)について

リローカリゼーションとは具体的にどういうことだろうか。「経済のグローバリゼーション」への発想は、エネルギー、環境、食、衣、金融、通貨、住居・建築、交通、福祉などのさまざまな点において破綻をもたらしたが、「経済のリローカリゼーション」への思考転換とは、例えば、次のようなことが考えられよう。

「エネルギーのリローカル化」とは、化石燃料や原子力発電依存から脱却した小型分散型発電(コジェネレーション)を考えることである。太陽光、太陽熱、風力、小水力、バイオ発電等による、コミュニティ・エネルギーシステムの構築である。これについては後でもう少し詳しく紹介する。

「環境のリローカル化」とは、地域の自然の生態系を回復していくことである。地球温暖化ガスの排出削減のみならず、多様性いっぱいの豊かな自然の生態系(生物多様性)を地域に回復していくこと。里山運動は世界でも日本が最も盛んであり、熱心に取り組まれている。自然と共存し一体化した共同体が、日本の共同体の原点となってきた。

「食のリローカル化」とは、地産地消・産直や有機農業やファーマーズマーケットなどのローカルフード運動を考えることである。限りなく自給自足を理念とした、食の安心・安全のため、顔の見える、「提携」型農業をつくりあげていくことである。

「衣のリローカル化」とは、自然から産出された(オーガニックの)衣料と、地域の風土にあった伝統的衣料を取り戻すことである。とくにフェアトレードは、開発途上国の地域の人びとと提携し、ローカル・ツー・ローカルを国際的につなげるものとして、食と衣のリローカリゼーション運動の中で重要な役割を担うものであろう。フェアトレードは、リローカリゼーションを地球規模に広げ、結び合い、交流し、分かち合う運動にほかならないからである。

「金融のリローカル化」とは、NPOバンクや市民バンク、さらにマイクロクレジット等のことである。地域の人びとが地域をより良くしていこうとすることに対して融資できる仕組みは、地域の形成と自治をより強くしていくことにつながる。

「通貨のリローカル化」とは、地域通貨のことである。地域の人びとの思いやりの気持ちと出合いを、地域通貨を通して顕在化させ、さらに人びとの交流を活発化し、温かみのある交流へと繋げていく通貨システムの構築である。

「住(住居・建築)のリローカル化」とは、タウンに共同体の形成を促すような新しい設計思想と建築概念の創出である。タウンに一体感を与える「連続性」や、人びとが憩うのみならず、“熟議”を行えるような広場や集会所(ホール)をタウンのセンターとして再重視する設計・建築が生まれる必要があろう。また、例えば、ストローベイルハウスなどのように、地域の地理・気候にあった建築、地域の材料などを使った建築を再検討することである。ストローベイルハウスとは、圧縮した藁のブロックを積み上げ、その上から土を塗って仕上げた建築様式で、断熱性・調湿性・遮音性に優れ、有害な化学物質を出すことなく、使用後は大地に還元され、循環型素材として注目されている。

「交通のリローカル化」には、市電や自転車交通の大切さを認識し復活させていくことや、地域内への車の制限やカーシェアリングなどの運動も含まれる。自転車専用道路の建設は高齢者や障がい者の電動車椅子の交通路ともなる。

さらに「福祉のリローカル化」とは、「公共福祉」のことである。互助精神の復活を踏まえ、地域の人びとが支え合いつつ、自治体(政府)の福祉と協働した「公共福祉」の実践である。例えば、農村共同体では高齢者が尊重されていたが、市場経済・都市化中心社会では高齢化(老い)=“排除される日が近づいていること”を意味するようになった。人と人との精神的関係のあり方を踏まえた福祉の復活、それが福祉におけるリローカリゼーションの企図するところである。