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シネマ&ブックレビュー
長坂寿久の映画考現学

長坂寿久の映画考現学-7
『リローカリゼーション(地域回帰)の時代へ』
未来への希望の道筋を示す映画として


盛り上がる世界のリローカリゼーション運動

リローカル化とは、自分たちが生活する「村」(タウン)に農村共同体的なものを復活させていくことである。こうした新しい「村」のあり方を求める具体的な運動、「リローカリゼーション運動」が、世界のNGO活動として盛り上がってきている。

例えば、グローバル・エコヴィレッジ(マネーベースからライフベースへ、生命システムを基盤とする価値観のライフスタイルによる地域社会つくりを進める運動)、トランジションタウン(石油から脱却し、再生可能エネルギーで成り立つコミュニティの形成を進める運動)、パーマカルチャー(有機農業を基本として持続可能な地域全体のデザインをする。パーマネント(永久)とアグリカルチャー(農業)の造語で、カルチャーの意味もある)、フェアトレードタウン(2000年に英国で始まったフェアトレード推進を自治体が宣言するタウン運動は、またたく間に世界に広まり、今年前半には1000タウンに達する見込みである)などがある。日本にもこれらの国際的運動のカウンターパートナーが設立され、活動している。
また、オーガニック農業運動(日本の「日本有機農業研究会」の『提携』運動は世界に先駆け、世界に伝播していったすばらしい理念と基準をもった運動である)やバイオダイナミック、さらには加川豊彦らの生協運動もそれである。そして、コミュニティガーデン、コミニティレストラン、食べられる学校、ヘレナ・ノーバッグ=ホッジのラダックを描いた『懐かしい未来』やその団体(ISEC=エコロジーと文化のための国際協会)、さらにスローライフ、スローフードや塩見直紀の「半農半X」もそうした運動の一つといえよう。
市民の運動はさらにさまざまにある。空き地の菜園化、国有地・自治体所有地のガーデニング、ファーマーズマーケット運動。そして多くの街づくり運動がある。今では女性、障がい者、買物難民、商店街との共存等の課題に取り組む市民団体も数多く存在している。


急速に進展するエネルギーのリローカリゼーション

グリーンピースの「エネルギー[r]eボリューション:持続可能な世界エネルギーアウトルック」

今回の映画『ミツバチの羽音と地球の回転』に関連するエネルギーのリローカル化について、もう少し詳しく触れておこう。

エネルギーのリローカル化とは、“エネルギーの地産地消化”、すなわちエネルギーを地域に取り戻すことである。その鍵は、自然エネルギーと「コジェネレーション」(熱電併給)にある。つまり、エネルギーを使う場所で発電するということである。

グローバリゼーション経済においては、大容量の大型発電所で大量の化石燃料を燃やし、二酸化炭素を排出しながら発電する。そこに投入された一次エネルギーの大半が排熱として廃棄され、その上、送配電網を経由する送電途中で多くの電力が失われる。さらに家庭用や事業者用に適した電圧への変換過程でエネルギーはさらに損失する。技術的トラブルや、天候・妨害などによる障害に脆弱で、次々と故障につながり、広域的な停電を引き起こす。実は現在の大型発電所を基盤とする電力系統は、まさに時代遅れのシステムなのである。

グリーンピースがEREC(欧州再生可能エネルギー評議会)と連携して実施した調査報告書『エネルギー[r]eボリューション—持続可能な世界エネルギーアウトルック』(2007年)によれば、「2050年には世界のエネルギー需要の半分を自然エネルギーでまかなうことができる」「経済を圧迫することなく、2050年までに二酸化炭素の排出量を半減することは、技術的に可能である」「欠けているのは、政策による支援だけだ」と報告している。

2050年までにエネルギー需要の半分を自然エネルギーで賄うための「エネルギー革命」の基本は、前述のように、1つは自然エネルギー源--- 風力、太陽光、太陽熱、バイオマス、地熱、潮汐力、小水力など---を増やすことである。そして、もう1つの最も重要なポイントは、自然エネルギーの利用を--- 特に分散型の「コジェネレセーション」(熱電併給)エネルギーシステムの拡大を通じて---増大させることである。分散型システムでは、電力や熱は最終消費地の近くで生産されるため、変換や送配にともなう損失が少なくてすみ、コミュニティ・エネルギーシステムが構築できる。

これらの取り組みによって---原子力発電に依存しなくても--- 経済成長と化石燃料消費を切り離すことを実現することは可能だ。現在、世界で20億人と言われる電気にアクセスできない人びと、彼らへ電気を供給するうえでも、分散型システムは「エネルギー革命」の中枢となりうる。エネルギー効率の向上や省エネへの取り組みを平行して行うことで、分散型システムは、低コスト化とエネルギー自給率の向上、そして新たな雇用の創出、地域社会の活性化につながる。
このモデルとシナリオをベースに、グリーンピース・ジャパンは環境エネルギー政策研究所(ISEP、飯田哲也所長)の協力を得て、日本の2050年をシュミレーションした報告書を2008年に出している。「2050年の日本の一次エネルギー需要は53%減少し、電力需要の60%以上が自然エネルギーでまかなわれ、二酸化炭素の排出は77%削減できる」と報告している。