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シネマ&ブックレビュー
長坂寿久の映画考現学

長坂寿久の映画考現学-7
『リローカリゼーション(地域回帰)の時代へ』
未来への希望の道筋を示す映画として


WWFの『エネルギー・レポート

---2050年までに100%再生可能エネルギーは実現可能』

グリーンピースの研究報告は2007年発表だが、その後エネルギー技術はさらに急速に発展し、今月(2011年2月3日)、国際環境NGOのWWFは、「2050年までに100%の再生可能エネルギーは実現可能」という研究報告書を発表した。これはWWFがエコフィス(世界有数の気候・エネルギー・コンサルタント企業)に委託して行ったもので、省エネルギーの徹底、産業・建築物・運輸部門等での電化の促進、自然エネルギーの推進などによって、「エネルギー需要は、2050年には2005年よりも15%削減可能」で、「現在ある技術ベースでその需要の95%を再生可能(自然)エネルギーで供給可能」であり、「残りの5%は今後誕生する新たな技術によって削減可能」で、「これにより世界のエネルギー由来のCO2の排出量は、2050年に80%削減される」としている。
これが現代の国際的知見の最先端なのである。ちなみに、日本の現在の発電量における自然エネルギー比率は3%程度である。

「自然エネルギーはすでに実証された技術であり、導入を進めてきた国々によって十分な実績もつくられている」(グリーンピース・ジャパン報告書)のである。


日本のエネルギー政策は、なぜ、時代に逆行していくのだろう

映画『ミツバチの羽音と地球の回転』では、カメラは祝島からスウェーデンの町(オーバートーネオ)へと旅する。ここでは住民投票によって、自然エネルギー100%の町づくりをすすめ、達成してきている。日本では民主党政権登場と共に、鳩山首相が「2020年までに温室効果ガスを、原子力発電なしで、1990年比25%削減する」と国連で演説した。これは国際的な知見を踏まえれば十分可能なのである。

しかし、国内ではそうはとらえられていないように報道されている。財界は目標設定に文句を言い、そのコメントを拾いながらメディアは目標達成の難しさを報道し、政府はそれに迎合していく。支持率の低くなった菅政権は、財界の意を呈して原子力発電所増設計画を発表し、海外への原発プラント輸出を輸出促進政策として重点施策としてしまった。ベトナムへの原発輸出がその第1号の成功とはしゃいでいる。

なぜ、日本ではこのようになるのか。政策立案者が内政にばかり目を向け、国際的な知見を共有していないからである。さらに、そうした政府の在り方を、記者クラブ制度に守られた国内メディアが内政中心の知見に基づき報道する。まるでスウェーデンのケースなど存在しないかの如くだ。前述した小規模分散型の発電システムは、日本以外の国の政策立案者にとって常識的知見であり、知見を分かち合う「コジェネレーション国際会議」が頻繁に開かれているのに、日本では報道されない。日本の政策的知見は世界から隔離されているのである。

自然エネルギーへの転換は21世紀の必然的課題である。そして、それは政府が各種制度---①環境税、②総量規制、③固定価格買取制度、④送電線網の自由化(送電線への自然エネルギーの接続権を確立する)、⑤自然エネルギー利用義務制度と助成制度の導入など---を導入することで達成しうることも、すでに国際的には自明のことである。世界の先進国はこうした国際的知見の情報交流を踏まえて、エネルギー転換を着実に進めている。日本だけがなぜか、こうした世界的な情報交換と議論を通して政策立案されていない。

今の日本では、本来の議論が“日本は電気料金が高い、電力の自由化とは電気料金を安くすることだ”という論理にすり変えられている。その結果、電力会社は(電力料金の上昇を抑制するという錦の御旗のもと)石炭火力発電の増産により温暖化ガスの排出を増加させている。同時に、CO2が出ないクリーン電力という名目で原子力発電を促進し、後世を汚染する猛毒の蓄積を増大させている。政治家、経済界、メディア、そして私たち「国民」も、国際的スタンダードの中での知見を踏まえず、知見の欠如をいいことに、産業界の目先の利益に基づき政策決定が行われ、未来をますます遠くしていっている。
今回の映画を見ることは、私たちが、少しでも日本と海外における“常識”の距離を縮め、未来へのエネルギー・ビジョンを描く一助となるに違いない。


「祝島」が、私たちの未来へのモデルとなる日

--- 「祝島自然エネルギー100%プロジェクト」


〔ハート型の島、祝島〕

政府と企業は、祝島の人びとの歴史と生き方と生活を無視して、着々と原子力発電所の建設を進めている。それに対して島民は中国電力の姑息なやり方に翻弄されながらも、一秒でも一分でも遅らせるために阻止運動を闘っている。

2011年1月14日、祝島の人びとは、今後約10年で自然エネルギー利用率を100%にすべく、「祝島自然エネルギー100%プロジェクト」を開始し、一般社団法人「祝島千年の島づくり基金」を設立した。具体的には住宅の屋根に太陽光発電パネルを載せるなどを進めようとしている。

日本の“地域”から、こうした自然エネルギーへの転換の動きが始まっている。日本の中央政府・政治家のだらしなさゆえに、もはや“日本が変わること”は、「地域」からの働きかけによってしか期待できない。スウェーデンのような自然エネルギー化への具体的な仕組みづくりは、中央政府による政策主導ではなく、国内の自治体からの率先した動きを活発化させるものとして力を与えてくれる。祝島はその先駆けとなる存在となりつつある。

祝島は、閉塞する日本の未来に光を与える一つのモデル、道筋を提供してくれる。日本に希望を感じたい人はこの映画をみることをぜひお勧めする。

企業のCSR担当者への一言:世界のリローカリゼーション運動の動きに注目を
これからのビジネスチャンスは「リローカリゼーション」的発想の中から多く誕生してくる時代となってくるでしょう。ニューズウィーク日本版2月9日号の『エコ企業100』の特集でも、『持続可能性』に向かって力強く取り組んでいる企業がコストを大幅に削減し、新しいビジネスをみつけ出し、成長している時代となっていることを証明しています。
祝島で起こっていることは、日本の未来へのビジョンを具体化する先進事例としてウオッチしていく先見性が企業にも求められています。

「ミツバチの羽音と地球の回転」オフィシャルサイトはコチラ↓
http://888earth.net/index.html



長坂 寿久(ながさか としひさ)
拓殖大学国際学部教授(国際関係論)。現日本貿易振興機構(ジェトロ)にてシドニー、ニューヨーク、アムステルダム駐在を経て1999年より現職。2009年に長年にわたるオランダ研究と日蘭交流への貢献により、オランダ ライデン大学等より『蘭日賞』を受賞。主要著書として「オランダモデル-制度疲労なき成熟社会」(日本経済新聞社、2000)「オランダを知るための60章」(2007)「NPO発、『市民社会力』-新しい世界モデルへ」(2007)「日本のフェアトレード」(2008)「世界と日本のフェアトレード市場」(2009、いずれも明石書店)等に加えて、映画評論としては「映画で読む21世紀」(明石書店、2002)「映画で読むアメリカ」(朝日文庫、1995)「映画、見てますか〈part1-2〉-スクリーンから読む異文化理解」(文藝春秋、1996)、など。