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CSRフラッシュ
5月8日は世界フェアトレードデー特集 (4)
援助よりも公正な貿易を!
第4回 フェアトレードの深化と拡大
国際シンポジウム「フェアトレードの拡大と深化」から
第4回 フェアトレードの深化と拡大
途上国と先進国。南と北の格差が縮まらない。援助や慈善事業も大切だが、途上国の人々との公正な貿易によって自立への歩みを支援するのはどうだろう。フェアトレードは60余年の歴史がありながら、日本ではまだまだ立ち遅れている。先ごろ東京経済大学学術研究センターとフェアトレード学生ネットワーク(FTSN)の主催で行われたフェアトレードをテーマとした国際シンポジウムから、フェアトレードを取り巻く最新の動きについて4回にわたってお伝えしよう。 第4回目のテーマは「フェアトレードの深化と拡大」である。


さらなる“連帯と多様性”を

○参加パネラーの発言要旨


イアン・ブレットマンさんの発言から

「国際フェアトレード・ラベル機構(FLO)」は、産品認証(ラベル型フェアトレード)でメインストリームに位置づけられています。
2008年の時点で58カ国、746の生産者団体が参加しており、そのうち76%は比較的小規模な農民の組織です。2007年から2008年にかけてフェアトレードの小売市場は22%成長しました。

フェアトレードを拡大するためには、生産者・産品・取り扱い国を広めること、生産が利益を得られるよう仕組みを深化させること、影響力の極大化に向けた変化を加速することが必要です。成功のためには資金力、シンプルな仕組み、確かな効果、規模、信用などが求められています。

●イアン・ブレットマンさんのプロフィール
英国の代表的なフェアトレード団体「オックスファム・トレーディング」のマーケティング責任者を務めた後、1997年に同国のラベル団体「フェアトレード財団」に移籍。2006年には「国際フェアトレード・ラベル機構(FLO)」の理事に就任し、現在副理事長を務める。

左から
イアン・ブレットマンさん、
カルメン・イエツィさん、
ブルース・クラウザーさん


カルメン・イエツィさんの発言から
アメリカにおけるフェアトレードは、第二次大戦後、教会の布教活動の一環としてプエルトルコからの手工芸品、ドイツからの仕掛け時計の輸入などから始まりました。
やがて政治活動の側面も入り、80年代にはネパールやチベットから手工芸品、ニカラグアからコーヒーなどへと広がっていきました。当初、会員には途上国から入ってきた産品であるとの認識すらなかったが、次第に生産者と消費者の関係を知るようになりました。

消費者として考えれば、品質、価格、そして社会的責任の順となっていると思います。品質向上のためには投資も必要です。私としては、消費者の購買行動を変えるのが目的。氾濫するラベルの問題はあるが、フェアトレード本来の基本理念だけは譲れません。

●カルメン・イエツィさんのプロフィール
米欧間の諸問題を調査研究する団体に勤務するかたわら、アメリカを代表するフェアトレード団体「テン・サウザンド・ビレッジ」の活動に関わり、2006年から北米を中心とするフェアトレード団体の連合体「フェアトレード連盟(FTF)」の事務局長を務める。


ブルース・クラウザーさんの発言から
世界初のフェアトレード・タウン、ガースタングは人口5,000の小さな町です。 現在、イギリスだけで460、世界全体では19カ国760の町がフェアトレード・タウンを名乗っています。

私たちの町でフェアトレードを推進したのは、オックスファム・グループとそれを支えるオックスファム・サポーター。オックスファムとは、世界の貧困層が貧困から抜け出せるような支援を目指した民間団体で、先進国が発展途上国からの物資を不当に安く手に入れることのない社会を目指しています。
この理念はガースタング市民に受け入れられ、ガースタングでのフェアトレード・マークの認知率は70%を突破し、フェアトレード製品の売上高は飛躍的に増大しました。さらに、西アフリカのココア農場と公正貿易の理念に基づく取引を実現し、ガーナのニュー・コフォリデュアと姉妹都市関係を結ぶまでになりました。

ガースタングでの活動が評判になったため、英国フェアトレード財団は「フェアトレード・タウンの基準」と「活動ガイドライン」を作成しました。ガイドラインはFLO(国際フェアトレード・ラベル機構)に加盟しているいくつかのフェアトレード・タウン認証団体の話し合いで決定されたものです。ある町(あるいは地域)がフェアトレードを実施していると認められるためには、
  1. その町の議会がフェアトレードを支持する決議を出していること。また、議会や付属する食堂で出される紅茶とコーヒーは、フェアトレード製品を使用すること。
  2. 少なくとも2種類のフェアトレード製品を入手できる小売店と、飲食できるカフェ等があること。
  3. 多数の者が利用するいくつかの施設で、フェアトレード製品が使用されていること。例えば不動産業者、美容院、教会、学校など。
  4. メディア報道を使って、住民の活動への関心を高めること。
  5. そのフェアトレード・タウンを継続的に確実に維持するため、フェアトレード推進委員会をつくること、
など5つの基準を満たさなければなりません。

●ブルース・クラウザーさんのプロフィール
フェアトレード・タウン運動コーディネータ。イギリス北部のガースタングの獣医で、地元でオックスファム・グループを組織し、町ぐるみのフェアトレードを推進。2001年にガースタングを世界初のフェアトレード・タウンにした立役者。2008年に英国政府より大英帝国勲章第5位を授与される。


長坂寿久さんの発言から
日本のフェアトレードは1980年代半ばの第3世界ショップなどからスタートしました。2007年の調査では世界シェアの約1.7%に過ぎません。2009年の調査では食品が79.3%、クラフトが8.9%、衣料品が10.7%、その他が1.1%となっています。ショップは大きいところほど売上を伸ばしています。食品はコーヒーやチョコレートが中心です。

仕入先ではアジアが85.9%、続いて中南米、欧州、アフリカの順となっています。新しいところではインドネシアから独立した東チモールの自立を支援する同国の輸出の1/4を日本が占めています。販路別では企業・生協向けが全体の約7割となっています。

●長坂寿久さんのプロフィール
拓殖大学国際学部教授。日本貿易振興会(現日本貿易振興機構:JETRO)のアムステルダム所長などを経て、1999年より現職。2004年より国際貿易投資研究所のもとで「フェアトレード研究会」を主宰する。『日本のフェアトレード』『NGO発、「市民社会力」』などの著書がある。


ジャン・マリ・クリエさんの発言から
ヨーロッパはフェアトレードで60年の歴史を持っています。
本格的に発展したのは1970年代から。オランダ、ドイツ、オーストリア、スイスなどに広がり、2007年の時点で33カ国に3,200カ所のワールドショップと63,600店のスーパーマーケットが参加して、だれもが手軽にフェアトレード産品を買えるようになりました。2007年から2008年の1年間で28%の売上拡大が。

問題は、さまざまなラベルやロゴが氾濫していることと、一部で認証マークを付けないで売っているものがあること。国によって法律で規制すべきだという声もあります。
私は多様な活動があるからこそ強みが現れると考えています。一番の課題は、成長ではなく生産者から喜ばれる仕組みをいかにつくるかにあります。

●ジャン・マリ・クリエさんのプロフィール
オーストリアの代表的なフェトレード団体のマネージャーを務めた後、フェアトレード支援団体fairfuturesを主宰しつつ、開発協力NGO「kommEnt」副代表(評価・研修・フェアトレード担当)を務める。『ヨーロッパのフェアトレード』などを著書・報告書などを多数執筆。


左から
進行役を務めた渡辺龍也さん、長坂寿久さん、ジャン・マリ・クリエさん、クラリベル・ダヴィッドさん


クラリベル・ダヴィッドさんの発言から
「世界フェアトレード機構(WFTO)」は、不利な立場に置かれている生産者の発展支援や貧困削減の一手法としてフェアトレードを位置づけています。

私たちは南からの視点を大切にしないといけません。南の生産者には、農民、アーチスト、家庭の主婦などが含まれます。フェアトレードが変革の機会を提供しているのです。
フェアトレードは北の市場へのアクセスの手段でもあります。私たちはアジアやアフリカやラテンアメリカで協力の輪を広げています。現在、北の市場が金融危機などで停滞する中、南南貿易を拡大できないかと考えています。
これからはもっと生産者の権利を強めないといけません。生産者こそが一番重要なプレイヤーだということを私たちは肝に銘じておく必要があります。

●クラリベル・ダヴィッドさんのプロフィール
1997年に金融からフェアトレード界に転身。「アドヴォケット・オブ・フィリピン・フェアトレード」の理事に就任。2002年には「アジア・フェアトレード・フォーラム(AFTF)」の創設に尽力。その後、「世界フェアトレード機構(WFTO)」の理事に就任し、現在副代表を務める。WFTOの新認証・ラベルシステム開発をけん引。