いま話題の環境配慮型製品
ホワイトゴートを生み出したオリエンタルの挑戦シュレッダー後の紙くずをトイレットペーパーにリサイクル。
合資会社オリエンタル 開発技術部 能澤 公擴 部長に聞く群馬県桐生市のシュレッダーメーカーが今年5月に発売した「White Goatホワイトゴート(白いヤギ)」に、全国から問い合わせが殺到している。わずか畳一畳の大きさの機械と水だけで、シュレッダーにかけた紙くずをトイレットペーパーに再生する。画期的な製品開発の裏には15年の苦労と、常識にとらわれない発想の転換があった。
シュレッダー製造企業のジレンマから生まれた新製品
Q:そもそも、ホワイトゴートを開発しようと考えたきっかけは?
能澤: 合資会社オリエンタルは群馬県桐生市でシュレッダーの開発から製造を行っている会社です。ご存知ない方も多いですが、シュレッダーにかけた紙は繊維まで細断されるため再生紙になりにくく、現在でもほとんどが焼却処分されています。弊社が新型のシュレッダーを開発する際にも、何百キロ、何トンもの紙をシュレッダーにかけるんですね。社内に山積みされた古紙の山、それを見るたびに「これは全部焼却されるんだ」と。
紙を焼却するとCO2が発生する、シュレッダーの需要が増えるほど環境にも影響を与える、何とかできないものかと長年考えていました。一方で、コピー用紙とトイレットペーパーが同じ材料紙から作られること、コピー用紙を溶かすとトイレットペーパーになることも知っていましたので、それならシュレッダーで細断した紙からトイレットペーパーが出来るのではと考えたわけです。
Q:まずは、家の洗濯機で紙くずを溶かしてみたとか?
能澤:試しに洗濯機の水で溶かし、溶かした液体をスプレーで板に吹き付けてみました。すると乾いた状態で薄い紙が出来ました。これは再生しにくいというだけで、紙にリサイクルできるんじゃないかと、そこで実際に開発を始めたのが約15年前、1994年頃のことです。
ホワイトゴートでトイレットペーパーができるまで |
●A4用紙40枚相当から約30分でトイレットロール1個(70~80m)を再生 (24時間稼動した場合、トイレットロール48個を再生) ●薬品は一切使わず、水を循環して使うので排水の必要がなく、川や水を汚さない。 [定期的なメンテナンスが必要です。ホチキス等の金属片の入った紙片は投入しないでください] |
Q:一般的には、最初に製紙メーカーとの共同開発が思い浮かびます。
能澤:仰るとおり15年前に最初は大手製紙企業で機械設計に携わっていた方に、一坪以下に収まる大きさの機械をと相談しました。初めから普通の事務所に置くための機械を考えていたからです。
ところが、設計段階から一坪以下はとても無理だと。どんなに小さくても、20m四方の機械になってしまうんですよ。どうしても出来ないということで、いったん中断したんです。
Q:次に群馬大学との共同研究に取り組まれたのが約12年前だそうですね。
能澤:最初の挫折で、自分たちが目指す機械は通常の製紙メーカーで使われる機械の小型版ではダメだ、常識とは異なる発想で紙を作る必要があると分かりました。そこで、1997年くらいに群馬大学の研究機関に共同研究を依頼し、今までと全く違うやり方で紙を製造する基礎研究に取り組みました。2年ほどで技術的な見通しが立ち、実際に機械の開発に取り掛かろうと思ったのですが、実験・検査装置などさらに莫大な開発費用がかかります。
当時は環境やエコが今ほど社会テーマではありませんでした。金融機関を含む周囲からも、これだけの費用をかけて開発に成功したとして、売れるわけがないと反対されるなど協力が得られず、開発費用を調達する目処がつかないままに2回目の中断をせざるを得ませんでした。
Q:時代が変化し、環境問題への意識が急速に高まることで、三たび開発のチャンスが生まれたわけですね?
能澤 2003年には開発を再スタート、サイズも畳二畳ぐらいに近づいたのですが、やはり開発費用が壁でした。丁度その頃、地域活性化に貢献する研究開発への補助金制度がスタートすると聞き、窓口である桐生市役所に相談したところ、「この製品が本当に出来たら素晴らしい」と担当者が開発テーマを絶賛して推薦してくださったんです。結果的に2004年度と2005年度の「地域新生コンソーシアム研究開発事業」、2006年度の「群馬県産学官連携推進補助金」に認定され、補助金をいただくことができました。
2004年からの3年間に群馬大学、県や市が関係する産官学研究会、地元企業の皆さんとも連携して開発を進め、ようやく“畳一畳”サイズが見えてきた、これならいけると手ごたえを掴むことが出来ました。その後も試作を重ね、ようやく2009年5月に製品として完成、その直後の7月に経済産業省の「第3回ものづくり日本大賞 優秀賞」を受賞しました。