企業とNGO/NPO

東日本大震災の経験を全国に―➁福島の地で、行政、企業、NPOの協働・連携を進める

東北各地で復興に取り組む地域のリーダーたちの経験をレポートする2回目となる今回は、福島県でNPOの中間支援組織としてさまざまな市民活動をサポートする齋藤美佐さんからの報告です。

福島復興1

価値観・人生観を変えた震災の衝撃

ふくしま地域活動団体サポートセンター
(ふくしまNPOネットワークセンター常務理事)
所長 齋藤 美佐

齋藤 美佐さん

齋藤 美佐さん

Q1.あなたにとって東日本大震災はどのような出来事でしたか。

齋藤: 価値観と人生観を大きく変えた出来事でした。3月11日14:46、大震災の揺れに恐怖と不安で身を固くしていた感覚を今でも鮮明に覚えています。

途絶えたライフライン、その後の福島第一原子力発電所の事故は知識と情報の少ない私たち市民をさらに追い詰めていきました。人が抗うことのできない自然の猛威と対峙し、ほんとうの豊かさや混乱の中にあって節度のある行動をとることの崇高さを学び、価値観の機軸を変える機会となりました。

命の終わりが予期せず訪れるという現実に、食べたいときに食べ、会いたい人に会い、今やれることは何でもやってみる、という強い意思が芽生えたのもこの震災の経験からでした。


風評を払しょくするスタディツアーの支援も行う

Q2.現在、あなたは被災地の支援活動に関わっていますが、どのような団体でどのような取り組みに関わっているのでしょうか。

齋藤: NPOの中間支援組織として、また福島県から受託している「ふくしま地域活動団体サポートセンター」の立場から、県内のNPO団体を対象に組織基盤強化に必要な相談対応や講座開催、コーディネーターやマッチングなどの協働のプラットフォーム事業に取り組んでいます。また、県内外の被災者支援団体に情報の受発信を行っています。

今年度は被災地の現状を学びながら風評を払拭する手法として、被災地スタディツアーの支援も実施しました。復興公営住宅のコミュニティづくりを支援するネットワーク構築などにも積極的に取り組んでいます。

被災地スタディツアーの模様

被災地スタディツアーの模様


時間の経過とともに複雑化、細分化する福島の課題

Q3.被災地や被災者の復興に、いま何が一番必要だとお考えですか。

齋藤: 福島の課題は時間の経過にともなって複雑化、細分化しているようです。刻々と変化するニーズに応えるかのように福島県のNPO法人認証数は増え続けています。(NPO法人874団体2016.3.15現在)

今、直面している問題の1つに復興公営住宅のコミュニティ形成があげられます。「復興公営住宅内でのコミュニティ」と「復興公営住宅とその周辺の自治組織とのコミュニティ」のそれぞれがバランスよくコミュニケーションを図れることが重要です。円滑な関係性を構築するためには、顔の見える関係を作ることがさらに大切で、その支援を行うには多様な主体との協働が必要不可欠です。

また、深刻な生活困窮者の自立支援はさらにスピード感をもって取り組むべきであり、私たちNPOと社会福祉協議会や地域包括支援センター、行政、あらゆる専門家等との連携を深めていくべきと考えています。

そのようなことから、協働と連携で取り組む課題のミッションとビジョンの共有が必要だと考えています。

NPO間の連携を強めるための学習会で講師を務める

NPO間の連携を強めるための学習会で講師を務める

Q4.企業の支援や行政の取り組みに改善すべき点があればお聞かせください。

齋藤: 企業の存在そのものが大きな社会貢献を果たしていると認識しています。さらにCSRの意識を高く持つ企業については、資金面ばかりが強調されていますが、プロボノによる技やコツなどを活用した人材育成の取り組みは、日本の体質にとてもあった社会貢献の手法のように感じています。

特に復興を目指す私たちNPOには市民活動をソーシャルビジネスへ成長させる大きな力になると期待しています。

復興に取り組む行政においては、通常業務の枠を超える課題にそれぞれが取り組んでいます。協働事業を進めるにあたっては、その多忙さゆえに情報の共有が不足がちなったり、二階建て方式の予算(通常予算・復興予算)が、取り組んでいる事業に大きく変化をもたらしたりしているように見えます。今、知恵とアイディアとマンパワーが問われているのだと思います。

企業も行政も、そして私たちNPOも、どれだけ本気か、どこまで覚悟して腹をくくれるのか使命感の持ち方が試されているように思います。


いつか穏やかに桜を眺めたい

Q5.10年後のあなたはどこでどのような活動をしているでしょうか。

齋藤: 10年後にはみんなの活動が実を結び、穏やかな気持ちで桜を眺めていたいです。復興や風評被害、原発などの言葉から解放され、安心して次世代に「福島」をつないでいる姿を夢みています。

10年後の私の活動は、郷土のまちづくりにリーダーシップを発揮しながらも、震災のアーカイブ施設でボランティア活動に取り組む自分を想像してみました。

ふくしま地域活動団体サポートセンター

http://f-saposen.jp/
地域で活動するNPOをはじめとした各種団体のサポートを行う中間支援団体。NPO法人等が復興をはじめとする、地域の課題解決にとり組む活動団体の基礎的能力の強化を目指す。


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